「シンク〜!!シンクシンク〜!!」

全く知らない道筋にも関わらず、一目散にこの場に現れたフローリアンに、シンクは軽くため息をついた。カイツールから戻ってきたにしては早いな、思いつつアリエッタの魔物を使えばすぐか、と理解した。階段を飛び降りる勢いで駆け降りてきた。駆け降りる、というよりは最早飛び降りる、だったが。たんっと軽快な音を立てて、床に降り立った。

「うるさいよフローリアン。一回呼べば分かるから」
「ちが、そうなんだけど!!」

やけに慌てたようにシンクに近づいたフローリアン。そのシンクは、軽くため息をついてふぉみクリ―に向き合っているディストへと視線を向けた。この音機関を弄れるのはディストだけだ。シンク自身、それを見ても全く理解が出来なかったのだが。だからこそ此処にディストがいるわけで。

「ねぇ、まだ出来ないわけ?」
「そう言われても、しばらく此処は使っていなかったので整備が…。どうせ彼らが軍港に着くにはまる一日あるじゃないですか」
「それなんだけど、軍港を襲わせて外交問題に発展されても困るし、せっかくだからあいつらが軍港に着く前に此処へおびき出したいんだけど」
「どうやって?」

相変わらず音機関を弄っているディストから首を傾げたアリエッタへとシンクが視線を向ける。カイツールを襲うとなると、キムラスカとの外交問題に発展する。手回しをしてある、と言えば聞こえは悪いが、マルクトでのごたごたなら多少は許されるだろうが、キムラスカはそうはいかない。余計な事をして、あとで迷惑を被られるのはフレイである。それだけはどうしても避けたい。

「軍港までの道中でイオンを連れてくればいい。どうせ、ダアト内のごたごただと思ってくれるだろうし、和平にはイオンは必要なわけだから来てくれるでしょ」
「アリエッタがイオン様を連れてくればいいの?」
「そ、ちゃんとコーラル城って言い残してきてね」

うん、とアリエッタが頷いたのを確認してシンクはフローリアンへと視線を向けた。軍港の手前、という言葉を聞いてか、いや、それよりもはるかに前にフローリアンがかなり狼狽していたのはシンクも見ていた。何かあったの、とシンクがフローリアンに問いかければ、思い出したようにあからさまに慌て始めた。

「そ、そう!カイツールにフレイがいたの!もしかしたらルークと一緒に行動してるかも!」
「アニスと連絡してただけじゃないの?フレイが向こうと合流するとは聞いてないし」

慌てるフローリアンに対し、一瞬顔をしかめたものの、すぐに言い返したシンクにフローリアンは、あ、そうかも。と納得をしていた。確かにあの場にフレイがいたことをアニスは知っていたようだし、イオンやリンはフレイの登場に驚いていた。それを見れば、たまたまアニスとの連絡のためにあそこにいた、ということも考えられる。

「焦りすぎですよ、フローリアン」
「うぅ…どうせ僕はおっちょこちょいですよ…」

ディストにまで言われ、少し落ち込んだように肩を落としたフローリアンを見て、アリエッタは少しだけ小さく笑っていた。


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