さて、説明して頂きましょうか。
そうジェイドから切り出された。アニスがお茶を入れ、イオンとリンは隣のベッドに座っていて、近くにティアが控えている。ルークは少し離れたソファーに腰をかけ、その傍にはガイがいる…が、俺が逃げ出さないように窓を塞いでいるようにも見えた。そして、ジェイドは扉の前だ。どうあっても逃がすつもりはない、ということだろうが。最初から逃げるつもりもない。アニスの淹れたお茶を飲みながら、軽く笑った。

「そもそもの話、導師派であるはずの俺がイオンを連れ戻すのもおかしいだろ?だったらなんでリンが護衛についてるんだよ」
「…どういうことだ?」

首を傾げたのはルークだった。名乗らなかったのか、と言えば、名乗ったよ、とリンから返ってきた。勿論、肩書きまで言ったわけではないだろう。そのことに呆れながら、リンを見やれば楽しそうに笑っている。昔からのあの性分はいつになっても治らないらしい。

「言わなかったっけ?僕は神託の盾騎士団、特務師団副師団長のリン・ファリアスだって。フレイに言われてイオンの護衛についてたんだけど」

そして、その言葉にあからさまに動揺していたルークがお茶を飲んで、むせた。くすくすとイオンが小さく笑っているのが見える。ガイが心配しているそのルークを見て、確信した。あぁ、あれは[アッシュ]だな、と。見たこともない人間が特務師団の副師団長をしているともなれば、あれだけの動揺を見せるのか、ある意味凄い。傍観し、それを見なかったふりをした俺は軽く笑ってルークから視線を外した。


「まぁそんなわけで?イオンを送り出したこっちとしては連れ戻すのも馬鹿馬鹿しい。つっても、大詠師の方が地位は上だから逆らえない。結果、タルタロスだけもらってマルクト兵はルグニカ平野に投げてきて、お前らは無事カイツール」
「…?マルクト兵はルグニカ平野、というのは…」

外交問題、と軽く答えた。ルグニカ平野に落としてきた、とあっけらかんとして言えば、何やら複雑そうにティアから視線を外されたが、ジェイドはどこか拍子抜けのような顔をしていた。外交問題の言葉に何か引っかかるのか、それとも俺の行動にか。どっちでも別に構わないが。半数が動揺を見せている中で、話を続ける。

「そもそもおかしいと思わなったのか?六神将が全員揃っている中で、よくも全員無事で逃げだせたな。まぁこっちの都合上、早々にアニスは突き落とさせてもらったが」
「うぅ…酷いですフレイ様ぁ…」

けらけらと笑っている俺に対し、ルークから趣味が悪いな、という言葉をもらった。それに特に返すこともなく、にっこりと笑顔だけをルークに向ければ、どこか居心地が悪かったのか視線を外された。おっと、地味に傷付くんだけど。リンにしてみればくだらないやりとりだったんだろう。いい加減にしろ、という視線でこっちを見ていたのに気付いて、浅く笑う。

「で?なんでフレイが此処にいるのか説明して」
「一つはフローリアンたちの回収。で、もう一つはたまたま遭遇した髭から旅券を預かってる。お前らに、だ」
「………髭、って、誰のことですか?」

ひらひらと取りだした旅券を見せて、それをルークへと放り投げる。警戒しているガイを通り過ぎ、綺麗にルークの手のひらに落ちた。それを見て、酷くルークが驚いているようだったが。まぁ、俺がキムラスカから発行された特別の旅券を持っていたら驚きもするだろう。ティアがそれを見ながら、首を傾げて俺にもっともなことを尋ねてきた。何故か、それにはイオンが答えていたが。

「ヴァン・グランツのことですよ、ティア」
「…え?兄、のことですか?」
「そうです。見事な髭ですからね。敬意を表して髭と呼んでやるべきではないかと…ねぇ、フレイ?」

実に楽しそうだな、とは言わなかった。俺を視線で見、さっき会ったのか、とイオンに聞かれていたことは分かっていた。ため息交じりにも一つ頷いた途端、イオンが早々に嫌そうな顔をしているのが見えてきた。どこをどう間違えたんだろうなぁ。いつの間にかリンのような性格になっているイオンを見て、教育を間違っていたのかと思わざる得ない状況になっていたことに、少なからず落胆していた。



「そういえば、アニスはフレイが此処にいることを知っていたんですか?」
「え?あ、はい。セントビナーを過ぎてフーブラス川付近でフレイ様に助けていただいて…」

イオンの最もな疑問に、アニスは視線をどこかへとそらしながら、そう言葉を口にした。何やら言いにくそうな空気を出しているアニスに対して、俺は少し笑った。さすがの俺も、あれには焦ったぞ。

「まさかあの程度でアニスがへばるとは思わなかったけどな」
「だ、駄目です!フレイ様、黙っててください!」
「…何か、あったのか?」
「何にも!何もないです!!」

首を傾げたルークに振り返って、アニスが腕を振った。その様子を見ながら、何があったのか理解している俺は笑ってアニスを見ていた。きっとアニスに睨まれるが、はははと誤魔化して笑うだけだ。

キムラスカ領に入る少し手前、リグレットからシンクたちが動いたと連絡をもらった。メンバーからすればコーラル城だということは分かっていたし、あとでもいいかと思っていたがフローリアンがいないことから、恐らくカイツールへ行ったということはなんとなく分かっていた。でも、フローリアンが動いていることを髭に知られるわけにはいかない。あそこに髭が行くことは分かっていた。下手をすれば暗示でも掛けられて、使い難いイオンよりもフローリアンの方をアクゼリュスで使う可能性もある。となれば、先回りしてカイツールから髭を追い出すしかない。

と、いうわけでフーブラス川に行けば、そこでアニスが雑魚を相手に苦戦していた。いつも持っているトクナガに乗っていなかったので、譜術だけで戦っているのが見えて、首を傾げた。さすがに深手を負われても困るので、助太刀に入り、説明をして一緒に此処に来たのだが。聞いたところ、トクナガが壊れてしまったらしい。


…まぁ、多少譜業についても勉強していた俺が見てみれば、まぁ、トクナガが耐久重力に耐えられずに重心が折れてしまったという結果だった。正直に言えばアニスが太ったのだが。

「痩せろよ?」
「言わないでください!」

少し顔を赤くして、勢いよくアニスが振り返る。俺はただ笑っているだけだ。しばらくトクナガは使えない。コーラル城にディストがいるから、そこで直してもらうしかないと言ってあるので、俺が預かっている。俺らの会話を理解出来ない面々は不思議そうに首を傾げていた。


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