「ちょっと、シンク!何処に行くのさ」

タルタロスの通路を歩くシンクを追いかけるフローリアン。神託の盾兵の姿が見えないところから、どうやら今は整備に忙しいだろうということが見えた。そもそも、さほど神託の盾兵を引き連れては来ていない。問題は数ではなく質だったからだ。

追いかけてきたフローリアンが追いつけるように、シンクが足を止めた。そのシンクの背後に立って、息を整えるフローリアンにシンクが振り返る。きょとんとして首を傾げるフローリアンの姿に、シンクは小さくため息をついた。

「ちょっと、ね。連中にちょっかい出しに行こうかと思って」
「えぇ!?フレイに怒られるよ!!」
「アリエッタはもう準備してるから。だからフローリアンは戻りな」

アリエッタも、と声を上げるフローリアンを放っておいて、そこからまた歩き出す。そのシンクを見て、少し声を上げてフローリアンは追いかけた。その音を聞きながら、そうなるだろうと予測していたのかシンクも何も言わずに歩き出した。ちょっかいって、と質問を繰り出す前に、フローリアンに手前を説明し始めるシンク。

「とりあえずコーラル城だからね」
「あれ?コーラル城ってなしになったんじゃなかったっけ?」
「だから行くんでしょ?元々計画には組み込まれてるんだから、大した変更じゃないって」

そもそもフローリアンは知らないが、チャネリングをする以前にしばらくはきちんと“進めて”おこうという話だった。ジェイドが[戻って]きているという理由からなくなっただけで、“進んでいる”と思わせるには一番いいかもしれない。チャネリングはする必要はないわけだから、本当にちょっかい出すだけだった。
シンクの真意も気付かずに、そっかと納得したフローリアンが歩き出す。しばらく静かになったフローリアンに、シンクは不審に思いながらも黙っていた。タルタロスの出口が見えてきた頃、ふとフローリアンがにやりと笑ったような気がした。

「ねぇ、ちょっとカイツール行ってきていい?」
「はぁ?なんで」
「コーラル城の前に足止め?みたいな?大丈夫だって、ちょーっとちょっかい出すだけだからさ!ね?いいでしょ?」

フローリアンの言葉にシンクはまた足を止めた。少し考えるように俯いたシンクの顔をフローリアンが少し顔を覗いていた。そもそも[前]には[アッシュ]がカイツールで[ルーク]にちょっかいを出していたはずだ。だとしたら、向こうには[アッシュ]がフローリアンに変わっただけだとしばらくは思わせておけばいい。ケセドニアでジェイドと会っているのなら、フレイが[ルーク]だと気付くことはしばらくないだろう。

「…いいよ。だだし殺さないようにね。終わったらすぐにコーラル城に来て」
「りょーかーい!あ、みんなにバレないように、だよね?」

手を振りながら了解を示すフローリアンに、シンクは軽く笑った。自分のためではなく人のために動いているフレイに少し苛々していたのも事実だ。たまには、自分の好きに動いてもあの人は絶対に怒らない、というよりは仕方ないと笑うことが分かっていた。


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