届かない言葉はもどかしくて
「とてもいいお天気でピクニックでもしたくなりますね」 「怖いからその手の発言やめろ。障気まみれの空のどこがいい天気なんだ」
物凄い笑顔でうさはらしかのごとく譜術をフォミクリーに向けるその態度がとても怖いんだが。ついてくるなと言ったら最後、やっぱり笑顔でにこにことついてきたリンは本当に始末に負えない。いや、アリエッタがいるだけマシかもしれないけど。
現在地、フェレス島廃墟群。譜業のせいか術のせいか知らないけど深い霧で隠されていて、ちょっと前まで髭の拠点だった場所だ。うん。どこを髭が拠点にしていたかなんて"以前"も今回も知らない俺のためにラルゴが仕入れてくれた情報なわけだけど。もう髭はここにはいないらしいので、せっかくだからフォミクリー装置を破壊しに来たというわけだ。そして何故かついてきたリンである。
「それで、ここにあるフォミクリーは何台あるの?」 「たった今リンが壊したので全部だって…」
神託の盾騎士団(というかヴァンの私兵)がいる気配も、レプリカ兵がいる気配もない。本当にこの拠点は捨てたんだろう。とりあえず宝箱という宝箱を漁って、フォミクリーを壊した。ほとんどリンが一人で、だが。
「かなり数が多かったね。どれだけレプリカ作ったんだか…」 「………」 「フレイ?」 「え?…ああ、うん…、なんでもない」
リンの言葉に少しだけ考え込む。確かにここにあったフォミクリー装置の数はワイヨン鏡窟にあったものとは比べ物にならない数だった。かといってここにはレプリカもいないわけで。なんだかとてつもなく嫌な予感がする。
「フレイ、」 「ん?どうしたラルゴ」
ヴァンがいた時の保険としてシンクとディスト以外の六神将がフェレス島に来ていた。ディストはといえばピオニー陛下のところに土産として置いてきたし、シンクはフローリアンと一緒だ。
「ルークたちが来ている。今はアリエッタとリグレットが相手にしているが、暫く出ない方がいい」
うーわー、と声を漏らしたのは俺だ。うん。最悪のタイミングだ。いや、なんというか障気が復活して以降できれば会いたくなかった。特にルークには。見事に顔が歪んだ俺に何を察したのかリンがあからさまにため息をついた。
「はー、本当にめんどくさいな。イオンのフリでもして追い返そうか」 「向こうにはアニスがいるからな?余計面倒なことになるぞ」 「ちっ」
あからさまなリンの舌打ちに苦笑する。うーん、イオンのフリしたところで奴らを追い返せるとは到底思いえないんだが。今はフェレス島の建物の中にいるから見つかることはないだろうが、あいつらが強行突入してくる可能性だってあるわけで。
「あー…とりあえずなんとか誤魔化すしかねぇかなー…」 「なんとかって。どうやって」 「いやいや、それは何とかは何とかだよ」
アリエッタの魔物を使って空飛んで逃げてもいいんだけど。そんなことしたってどうせ見つかるのが関の山である。うん、さてどうするか。こんなときにこそ音素の意識集合体がひょっこりと現れて、またあっちに意識持ってかれればいっそ楽なのに。なんて不謹慎なことを思う。
「出て行こうとか思っているわけじゃないだろうな」 「え?その通りだけど。いやむしろ出てって適当にあしらった方が早いだろ」
ラルゴの制止を振り切って外に出ようとする。適当に言い訳して逃げるのが一番早い。どうせここにいたってしょうがないんだし、時間の無駄だ。
「馬鹿なこと言わないでくれる?ていうか僕は会いたくないんだけど……っ!?」
歩き出そうとした俺の腕をリンが取ったとき、目の前にきらりと光る何かが横切った。それにはラルゴも気付いたらしく驚いた声が聞こえる。
あっ、これ、まずいパターンだ。
突然強い風が吹き荒れる。第三音素の強いうねりが目の前で風を巻き起こしている。ああ、頭に描いた展開だったけど、まさかこいつ相手だとは思わなかった。とてつもなく嫌な予感しかしない。
「ぐ…っ、くそ、頭いてぇ…」 「フレイ?!」
強い風に吹かれていると、あまりに強い第三音素の干渉に頭痛が酷くなった。第四音素と第五音素に関しては耐性がある状態で、この状態は正直言ってきつい。慌ててリンが支えるように手を伸ばしてくる。同じようにラルゴも手を貸そうと手を伸ばすが、風に弾き飛ばされてしまったようだ。
「…あー…、さい、あく、だ…」
いろんな意味で最悪だ。このタイミングでの登場は嫌な予感しかしない。より一層強い風に吹かれて、そうして景色が一変した。
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