嘘ばかりのエリア


変な人に絡まれました。

「あなたが最近街に現れたっていう預言者だったの…?」
「え、うん、何の話?」

フレイがまた倒れたって聞いたから、せっかくだしちょっとお高い薬草とかグミとか買おうかと思ってフローリアンはケセドニアに来ていた。どうやってって勿論アリエッタの魔物に運んでもらって、だ。

そんな感じでケセドニアに来ていたフローリアンの目の前にルークご一行が現れたわけである。ティアの言葉に手に持っていたミラクルグミがぐしゃっと音を立てて潰れた。泣きそうな顔をしている目の前の亭主にちょっと多いくらいのお金を払っておいた。

「全く意味が分からないんだけど、理解できる言語喋ってくれるかな?」

可愛らしく首を傾げたところで言葉なんて通じないかもしれないケドー。とはちょっと言葉が辛辣すぎたかもしれない。

「最近各地で謎の預言者が預言を振りまいているという話がありまして。その噂を辿ってきたら現れたのが貴方だったという話ですよ」

眼鏡のフレームを押し上げてわざわざ教えてくれたジェイドの言葉に「はて、」と首を傾げる。うん、確かに導師のレプリカであるフローリアンは預言は詠めるだろうけど、その預言というものをフローリアンは詠んだことがなかった。そもそも導師としての能力は今生きているレプリカの中でフローリアンの力が最も弱い。

「それ、僕じゃないんだけど」

だって、多分、そんな何度も預言を詠めるほど第七音素が持たないと思う。だなんていくらフローリアンでも口走ったりはしなかったけど。

「そんな、ではあなたではないとすれば一体誰が…?」

キムラスカの王女の言葉にフローリアンがむっとする。まるで自分が犯人だと決めつけているような言葉だ。「あのねぇ、」と反論しようとしたところで、後ろから誰かに頭を叩かれた。

「いったーっ!!」
「一人でうろつくなって言っただろ」

ジンジンと軽く痛む頭を押さえながら振り返ると、そこにはシンクが立っていた。紙の束を丸めてぽんぽんと何度も頭を叩いてくる。地味に痛い。

「ていうかあんたたちも随分暇なことしてるね。フローリアンいじめて楽しい?」

はぁ、とあからさまに呆れたようなため息を零す。各地を回っているという預言者がフローリアンではないことは確かだ。その人物の正体をシンクは知っている。それをルークたちに教えるような真似はしないが。

「シンク…、何故お前がここに」

驚いたようなルークの顔が見えた。てっきりフレイたちと一緒にいると思ったのだろう。好都合とばかりにシンクはにやりと笑みを浮かべると、大袈裟に肩を竦めて見せた。

「なんでもいいだろ?あんたには関係ない」

ルークたちを、というよりもルークを睨み付けるシンクの視線は鋭い。すっかりシンクの視界から消えてしまっているフローリアンは少しだけむっとして頬を膨らませていた。

「てかなんでシンクがこんなところにいるのさ〜っ、てっきり…むぐ、」
「はいはい。分かったから拗ねないの」

余計なことを言おうとしたフローリアンの口をとっさに塞ぐ。こんなところでフレイの居場所がルークたちにバレれば彼らは会いに行こうとするだろう。それはどうしても避けたかった。

「…噂の預言者はシンクのことなのか?」
「はっ、そんなの、"あんたたちが一番よく知ってるんじゃないの?"」

何かを匂わせるように笑みを浮かべながらそう告げたシンクに、驚いたように目を丸くする。否定も肯定もしなかったが、まあこのくらいは許されるだろう。

「ほら行くよフローリアン」
「ええ〜っ!ちょっと待ってよシンク〜!」

さっさと腕を引っ張って歩く。引きずれるようにしてついてくる。後ろからルークが何かを言っているような気がしたが無視した。いいだろう、別にこのくらいの意地悪をしたって。どうせ隠し事をしているのは向こうもこっちも同じことだ。

さっさと諦めて全てを吐いてくれればいいのに。


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