絶対ピンチを打破してあげる


秘密の入り口はダアト式封呪で閉じられていた。その意味を汲み取ったシンクが引きつった顔をしていたが、アニスが開けろと怒鳴り散らしたために素直に開けてザレッホ火山の奥地へ進む。その後ろをルークたちが追いかけてくるのは、もう諦めた。

イオンとアリエッタがいた場所は、第七譜石がある場所だった。イオンを囲むようにモースとアリエッタの姿が見える。

「イオン様!!」

駆け込んだアニスが叫ぶと、イオンが振り返りにっこりと微笑む。その笑顔を見た途端に、ぴたりとアニスの足が止まった。

「うるさい者共が来たな」
「大詠師モース…?!」

アニスの後ろを追いかけてきたティアがその姿を見て目を丸くする。確か、モースは度重なる規定違反と反逆の罪で捕まっていたはずだ。それもバチカルの牢に繋がれて。裁きを待つはずだったはずの者が何故か牢に繋げられずにここに立っている。

「何故あなたがここに!?」

ティアの糾弾する声ににやりと笑みを浮かべたモースは、その問いかけを無視してイオンへと向き直った。ここに安置されている石が第七譜石だと誰に聞いたのだろうか。

「さぁ、導師イオン。この星の未来を詠んでくれるな?」

誰か人質でも取られているのだろうか。ここにある牢には誰も繋がれていない。アリエッタがモースのいうことを聞いているのも不思議だが、以前のフローリアンのように催眠がかけられている可能性も否めなかった。

「駄目です、導師イオン!」
「…………あ、ああ〜……モースってば可哀想…」

悲痛な悲鳴を上げるティアとは別に、アニスはがくりと項垂れた。その場に膝から崩れ落ちたアニスに後ろにいたルークとティアがぎょっとする。慌ててティアがアニスを支えようとそばに駆け寄るが、それを遮るようにシンクがアニスと視線を合わせるために膝をついた。

「だから言っただろ。僕は巻き込まれるのはごめんだって」
「はい…ほんと、すみません…ていうか教えて下さいよ…」

なんだか別の悲壮感が漂っている気がする。どこか諦めに似た言葉を零すアニスとシンクに疑問を抱いていると、少し離れた場所から第七音素の気配を感じてジェイドが顔を上げる。

そこには、譜石に手を当てて惑星預言を詠むイオンの姿があった。

「ND2000 ローレライの力を継ぐもの、キムラスカに誕生す
其は王族に連なる赤い髪の男児なり
名を聖なる焔の光と称す
彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くであろう

ND2002 栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす
名をホドと称す
この後季節が一巡りするまで
キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう

ND2018 ローレライの力を継ぐ若者
人々を引き連れ鉱山の街へと向かう
そこで若者は力を災いとし
キムラスカの武器となって街とともに消滅す
しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ
マルクトは領土を失うだろう
結果キムラスカ・ランバルディアは栄え
それが未曾有の繁栄の第一歩となる

ND2019 キムラスカ・ランバルディアの陣営は
ルグニカ平野を北上するだろう
軍は近隣の村を蹂躙し要塞の都市を進む
やがて半月を要してこれを陥落したキムラスカ軍は
玉座を最後の皇帝の血で汚し
高々と勝利の雄叫びをあげるだろう

ND2020 要塞の町はうずたかく死体が積まれ
死臭と疫病に包まれる
ここで発生する病は新たな毒を生み
人々はことごとく死に至るだろう
これこそがマルクトの最後なり
以後数十年に渡り
栄光に包まれるキムラスカであるが
マルクトの病は勢いを増し
やがて、一人の男によって
国内に持ち込まれるであろう

かくしてオールドラントは
障気によって破壊され
塵と化すであろう
これがオールドラントの最期である」

何故か、苦しそうな姿も見せずに一気に惑星預言を詠み上げたイオン。第七譜石からすっと手を下ろすと何が面白いのか腹を抱えて笑い始めた。

「あははははは!なにこれ!あいつこんなもの隠してたの?」

腹を抱えてケラケラと笑い始めたイオンにさすがに様子がおかしいと思ったのか、モースが圧倒されている。それはモースだけではなくてルークたちも同じだった。いきなり様子の変わったイオンに戸惑っているのが分かる。

「ていうかこんなものがこんなところにあるなら、さっさと教えてくれればよかったのに…っ」

笑いすぎてもう目尻に涙が溜まっている。その様子がとてつもなく恐ろしい。

「…えっと…、イオン、さま?」
「おい待て。本当にイオンか?」

困惑したティアの言葉に疑問を投げかけたのはルークだった。疑わしいような視線をイオンに向けているが、イオンはそれに気付いていながら無視してシンクへと振り返る。あ、やっぱりとばっちり受けるんじゃないか。とはシンクの言葉である。

「よくもまぁ、この僕に黙ってたね。こんな面白いもの」
「こんな物騒なものを面白いとか言わないでくれる?ていうか、計画台無しにしないでよ…」
「あー、ごめんごめん。だってまさかこんなに面白いものだとは思ってなかったからね」

ようやく笑いも収まったのか、最後に疲れたようなため息がイオンの口から零れた。どう考えても笑いすぎである。そんな目に涙を溜めて笑い転げていたイオンを、何故かモースはこの世の終わりのような顔をして呆然と見つめていた。


「…あいつら、何してんだ?」
「まぁ!なんだか楽しそうですわね!」


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