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「旦那、こんなところで何をしてたんだ?」
フレイに逃げられたジェイドはマルクト兵に撤収の命令を出していたときだった。不意にかけられた言葉に振り返ると、そこにはガイとティア、それからルークの姿が見えた。マルクトにいたガイはそれなりに顔を合わす機会もあったがティアとルークに至ってはあの騒動から約一か月ぶりに顔を合わせる。
「おや。珍しい顔が揃っていますね」 「何かあったのですか?」
ルークの嫌そうな顔を見ながらジェイドが笑う。彼らがやってきた方向とフレイがやってきた方向を考えると、少し前に鉢合わせしたのだろうということは簡単に想像できた。今ここでそれを言えばルークの機嫌が悪くなるだろうし、それになんで逃がしたんだと問い詰められる気がしていたので、そんなこと全く口にはしなかったが。
「いえ。神託の盾教団兵が一般市民の馬車を襲っているという連絡があったもので」 「そんな!教団兵がそんなことをするわけがありません!」
六神将という敵の立場である彼らの元ではあるが、規律と秩序は守る教団兵だ。一部そうではない者ももちろんいるが。この一か月ダアトで勤務を続けていたティアには信じられない言葉だったのだろう。
「…おい、もしかしてその教団兵、レプリカ兵だったんじゃないのか?」 「え?どういうことだ?」
ルークの突然の言葉にガイが驚いたように振り返った。そのガイの様子にルークは思わずぎょっとしてしまった。ジェイドに言われたその言葉に、頭に過ったのは[前回]にアスラン・フリングス将軍が襲われた事件だった。その時期を考えれば、このタイミングでの教団兵の襲撃はレプリカ兵である可能性が一番高い。
「この時期にちょうどフリングス将軍がレプリカ兵に襲われていただろう。それを考えてみると、ありえない話ではないだろう」 「……何故貴方がその話を知っているのですか?」
甦った記憶を素直に口に出すと、逆にジェイドからは怪訝そうな視線が飛んできた。ルークの言葉に思い出したように息を飲んだティアやガイとはまた違う反応だ。
やばい、とは思ったもののそれを顔に出すことはしなかった。さすがにそこまでルークも馬鹿ではない。確かにフリングス将軍がレプリカ兵に襲われて死亡したことなど、一般的には公開されていない。軍事演習中のテロに遭い死亡したというのが世間一般に伝えられていた事実だ。それをレプリカ兵の仕業などと言えばレプリカに対する差別がより広まってしまうことが想定されたからこその、対処だった。
「[アイツ]から聞いた」 「…そうですか」
間違ってはいない表現だ。実際に聞いたわけではなく、その記憶が頭にあるだけだったが。嘘はついていないもののどこか納得していないジェイドの表情に、顔を顰める。そのルークの態度をどう思ったのかはわからないが、これ以上その話をするつもりはないのだろう。ジェイドが視線をルークから外した。
「現在フリングス将軍はグランコクマ周辺で軍事演習に出ているんですよね〜」 「旦那!?それ大丈夫なのか!?」 「ええ、大丈夫ですよ。軍事演習に参加している兵を増やしていますし、私の師団の半分を既に向かわせてありますから」
既に対策はしている、といったジェイドのその言葉にガイは安心したように胸を撫で下ろした。心なしかティアもほっとしたような表情を浮かべている。ルークだけは険しい表情を消さずにいたのだが。
「…グランコクマに戻るのか?」 「ええ。何があるかわかりませんからね。フリングス将軍の安否も確認したいですし」
にこやかにそう言い放ったその言葉が、とても不謹慎に聞こえてしまったが。[前回]のようなことにはならないという自信から来ているのだろうか。呆れてため息一つだけ零してしまった。
「ルーク、私たちも同行しましょう。心配だわ」 「…ああ、そうだな」
ティアの言葉に珍しく同意する。ティア地震もルークから同意の言葉が返ってくると思わなかったのか、少しだけ驚いたような表情を見せていた。
「なんだ」 「いえ、少し意外だっただけよ」 「俺のことをなんだと思ってるんだ」
くすりと笑ったティアに呆れたようにルークは息を吐いた。[前]の印象が強いせいだろうか、こんな風に言われることも少なくはない。もちろん、そんなことを言うのはティアやガイ、アニスくらいなのだが。
「まぁまぁ、楽しそうにイチャイチャするのはそのくらいにしていきましょうか」 「誰と誰がだ!」 「大佐!冗談はやめてください!」 「二人とも、全力で拒否するなぁ…」
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