多分、きっと、一番、キライ


「ちょっとフレイ!ケセドニア北部戦の話、僕らは聞いてないんだけど!」

あぁ、やっぱりなと思った。ジェイドたちが見えなくなった途端に、シンクがそういきなり詰め寄ってきた。分かっていたことでもあるが、それでもやっぱりため息ものだ。聞いてない、も何も言ってない。小さくため息をついて、あまりにも睨んでくるシンクに向かって少しだけ溜息をついた。

「言ってなかったっけ?ま、あれはマルセルを助けてリグレットを引き込むためと、髭に俺を使わせる為に行ったものだしなぁ。ま、前者は必要なかったみたいだけど?」
「…だからって、よく戦争に出れたよね。嫌いじゃなかったっけ、戦うの」
「うん、超嫌い」

シンクの呆れた声に、超笑顔でそう言えば。あからさまに眉間に皺を寄せたシンクが目に入った。それにくすくすっと笑っていたら、フローリアンはどこか納得しているような顔をしていた。それが何でか、俺にはすぐに分からなかったが。不満顔一色のシンクの髪をぐしゃぐしゃと掻きまわす。それを嫌そうに振り払ったシンクは、どっからどう見ても反抗期だ。可愛いなぁ、本当に。

「嫌いだけど、それだけじゃやりたいことはやれないからな。覚悟は決めたってこと」

それでもなお不機嫌な顔をするシンクから、にこにこと笑っているフローリアンの顔を見る。その表情には、どこか尊敬のようなものが見てとれるような気がするんだけど。…そういえば、最近アニスもそういったような表情をしているような気がする。別に敬われるような存在じゃないんですけど。今回は王族じゃなくて、ただの一介の軍人だし。いや、将クラスだけどさ…。

「そっか!その時にフレイの二つ名がついたんだね!」

あぁ、そういうことか。なんて妙に納得はしたものの。徐々に俺の表情が不満になるのが自分でも分かった。不満、というか。微妙だなと自分でも思ったが。フローリアンの隣、シンクがまずいという顔をしていたのが分かった。俺にとってのあの二つ名は、正直地雷でもある。自分で分かってる時点で、相当タチが悪いのは認めよう。それでも、嫌いなものは嫌いだ。不満とか不快とか。そういう次元の問題じゃない。嫌い、だ。

「…そうだけど、俺は嫌いだ」

それだけはっきり言って、二人に背中を向ける。シンクのため息のようなものが聞こえた気がしたが、聞えないふりをしてそのまま艦橋へと足を運んだ。俺が艦橋へ入る前に、神託の盾兵が何名か足を運んでいたのが分かった。今頃、慌ただしく動き始めている頃だろう。後ろからフローリアンが呼ぶ声が聞こえたが、立ち止りもせずに艦橋へと入った。


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