「聖なる槍と、我に仇なす敵を打て」

パッセージリングにルークたちが踏み込んだ時には、その詠唱は既に完成していた。

「ディバインセイバー!」

一人の声だけではなく、その詠唱は二重に重なっていた。同じ術が同時に放たれて視界が光に埋まる。思わず手や腕を使って視界を遮るが既に遅く、瞼の裏がちかちかと光る。

「…あー、こりゃ、随分と面倒なことになったな…」

光が収まりきる前に聞こえてきた声に、ルークはぎょっとした。慌てて顔を上げれば既に光は収まっていて、パッセージリングを前に少し呆れた顔をしているフレイが立っていた。

「フレイ!?」

慌てて名前を呼べば、その声に気付いたティアとガイも顔を上げる。ルークの声にフレイは少しだけため息を零すと、答える間もなくくるりと背中を向けた。同じく術を放っていた事物に向き直るためだろう。

「どうする?まだやるか?」

フレイが問いかけた先に視線を向けると、そこにも見知った顔が立っていた。普段の教団服である黒を基調としたものではなく、正反対の白を基調とした服装だったが、そこに立って銃口をフレイに向けている人物はリグレットだ。

「…本当に共に来る気はないのか」
「ねぇな。あいつにもよく言っておけ」

どこか呆れたようにリグレットの言葉に答えるフレイに違和感を感じた。二人とも同じ六神将だ。確かにリグレットは今までヴァンに組するような態度を取っていたが、それも作戦なのではないかとルークは考えていた。

けれど、この状況はどう考えても二人が対峙しているようにしか見えない。

「ふん、そんなにアレがいいのか」
「少なくともお前らよりはアレの方が面白いな。テメーらについていく価値もねぇし」
「そうか…。ならば、次に会ったときは確実に殺す。あの方になんと言われようともだ」
「おーおーよく言うよ。受けて立ってやる」

演技とは思えない殺気を飛ばされているのに、フレイはけらけらと笑っていた。そのフレイの態度に気分を悪くしたのだろう。リグレットが不快そうな表情を浮かべていた。会話は終わりだとでもいうように、フレイがリグレットから視線を外すとこれ以上は無駄だと悟ったのだろう。リグレットは足早にこの場を去っていった。

「待ってください教官!!」

ティアがリグレットを追いかけようと駆け出す。

「無駄だ。やめておけ」

それを制したのはフレイだった。ぴたり、と足を止めたティアがフレイに振り返るが、フレイは声をかけただけで視線を向けようとはしなかった。

「…貴方たち、仲間じゃなかったの?」

追いかけても無駄だということはティア自身も分かっていたのだろう。踏み止まるとリグレットにぶつけようとしていた疑問をフレイに投げかける。鋭い視線と言葉に、どこか疲れたようにフレイがため息を零すとようやくくるりと振り返る。

「まぁ、そう言われればそうだな」
「ならどうして!」
「それをお前らに話したところで理解できるとも思わないが」

フレイのその言葉を聞いた途端、ティアは黙り込んだ。何か思うところでもあるのか半歩だけ下がって、唇を噛みしめるように口を閉ざしてしまう。

「ティア?どうした?」

心配そうにガイが顔を覗き込もうとする。しかしまぁ女性恐怖症のためにあまり距離は縮まらず、顔を覗き込めていたかどうかは定かではない。

そんなティアにフレイはまた一つため息を零すと、これ以上話すことはないとでもいうようにルークたちの横を通り過ぎてこの場を出ていこうとする。ルークは慌ててそのフレイの肩を強引に掴んで止めた。

「待て!まだ聞きたいことが…」
「で?俺が話すと思ってる?」

荒くなる口調にフレイが笑って答える。そのへらへらした態度が癪に障ったのか、肩を掴んでいた手を放して思わず拳を握った。そんな態度だったからか、ひらりとフレイに交わされてしまったが。

「俺はお前らと違って忙しいんだよ。じゃーなー」

前を見て歩きながら、後ろにいるルークたちにひらひらと手を振って歩く。真意の読めないその態度に苛立って見えなくなるまでその背中をルークは睨み付けていた。

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