在りのままの嘘、虚像の真実


「…で、こんなところに俺を呼び出した理由はなんだ」
「理由なんてあなたが一番よく知っていると思うけれど」
「今更お前らと一緒に行動する意味はないと思うが」
「そんなことを言っても、こちらに情報が少ないのは事実だろ?そうカリカリすんなって!」

バシン、と強めに背中を叩かれたことに苛立ち眉間の皺をさらに寄せる。左にティア、右にガイというなんとも逃げ出しづらい状況にルークはため息を零すしかなかった。正確にいえばティアのことはナタリアから「よろしく伝えるように」と言われている手前逃げ出しづらく、それに加えてガイを振り切れる気力もない。

そんなこんなでとても気落ちした気分でルークはこの二人と一緒にシュレーの丘を歩いていた。正確に言えばパッセージリングを目指して歩いていた。

「[前回]はお前、この時期にこのあたりをうろうろしていたじゃないか。今回だってローレライの鍵を受け取っていないなら探さなきゃだし、ヴァンの動向だってわからないだろ」

腕を引きずられながら、このガイの問いにルークは答えることはせずにだんまりを決め込んだ。それを肯定ととったようだが。実際、ローレライの鍵はルークがすでに持っているし(言うつもりもないが)、フレイも持っている(こちらも言うつもりもない)

「それに一つわからないのは六神将なのよね…。彼らの動向を探ろうと思ってユリアシティには帰らずにダアトにいたのだけれど、彼らこの一連の事件の前と何も変わらないのよね…」

このティアの疑問にも答えることはしなかった。実際、フレイが[ルーク]の記憶を持っている状態で六神将と接しているのならば、六神将がヴァン側についているわけがない(しかしその本当の意味をルークは知らないが)

「………分かった。とにかく行けばいいんだろう。だからいい加減腕を離せ…」

逃げられるとも思っていないので、それまでの問い掛けは全て無視してそう答えた。逃げ出したら最後、セントビナーで待ち構えている陰険眼鏡ことジェイドに何を言われるか分からないからだ。…言われるだけで済めばいいのだが。

「全く、ナタリアが心配していたわよ。何を言っても誘っても忙しいとしか言わないし、誰かと連絡を取っているようだから、浮気でもされたのかと…」
「誰が浮気なんぞするか!!」

ティアが呆れたように零した言葉には、反応せざるを得なかった。ルークの突然の大声にティアは目をぱちくりとさせて驚いている。今はマルクトにいるガイはナタリアの様子など分からなかったせいか、ティアの浮気発言に驚いているように見えた。

「…そう?勘違いなら良かったけれど。毎日のように鳩を飛ばしていたと聞いたからてっきり…誰と連絡を取っていたの?」
「ルークに毎日連絡を取りたがるほどの相手がいたのか!?どこのどいつだ!?」
「おい、お前ら何を勘違いして…。ガイに至っては俺をなんだと思っているんだ」

その過保護の矛先はあのレプリカルークに向けて欲しい、と出かかった言葉を飲み込んでため息に変換して吐き出した。言ったところで無駄だ。

「別に誰だろうとお前たちには関係ないだろう」

そう言ってあしらったつもりだったが、二人の目は依然としてルークに向いている。誰だか白状しろとその瞳が語っていたが、とてもその相手の名前を口に出せる状況ではなかった。ジェイドあたりにその事実が知れた日には、問い詰められるに違いない。

だって、言えるわけがないのだ。ルークが手紙を出していた相手は六神将の頭と呼ばれていた神託の盾騎士団の次期主席総長と呼び名の高いその人だったなんて。残念ながら返事は一切却ってこないばかりか、反応すらなかったのでコンタクトを取ろうとすることは早々に諦めたが。

「ナタリアに心配されるって相当だぞ…」
「おい、何か聞こえなかったか?」
「こら!話を反らさない!」
「テメーのその母親気取りの態度やめろ!」

ガイの心配するような呟きに混じって、何か聞き覚えのある音が耳に聞こえてきた気がした。既にシュレーの丘内部を歩いていたため、鳥の声や魔物の声とは無縁の場所だ。そこに飛び込んできた高い音は、金属がぶつかり合うような音だった。

「誰かいるわ…!」

母親気取りのガイを無視して、その音にルークと同じく気付いたらしいティアは無意識に武器である杖を握り締めている。その姿を確認してから、ルークは走り出した。この先にあるのはパッセージリングだけだ。そこで誰かが何者かと戦っている。

「あ、おい!ちょっと待てって!」

走り出したルークに続いて、ティアも走る。二人が同時に駆け出して行った姿を止めようとガイが声を上げるが、残念ながらそれで止まる二人ではない。

「後先考えないのはあいつと一緒か…」

ぽりぽりと頭をかきながら、ほんの少しだけ嬉しそうにガイが呟いた。それもほんの一瞬の出来事で、すぐさま駆け出してパッセージリングのもとへと向かう。

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