「そこにいるんでしょ!?さっさと降りてきなよ!」

あぁ、バレてるな、と思った。かなり大きな声で叫んでいるらしいシンクの姿に、小さくため息を零した。この状況で、俺に出て行けと?シンクの考えていることは分かる。恐らく、ジェイドが俺の(とはいっても、レプリカルークのだけど)存在に気付いていることに。だから、此処で違うという錯覚を起こさせたいんだろうな、とか。正直、バレたらバレたで構わないんだけど…。行くのがかったるいなぁ、と思いながら。


その場から立ち上がり足を踏み外す。勿論、わざとだ。第三音素を使って、少し距離のある甲板に落ちてくる。タンっと軽快な音を立てて、シンクの少し後ろに降りた俺の姿に、ジェイドが眉をひそめたのが見て分かった。

「なんだ、気付いてたのか」
「遊んでたでしょ」
「えぇ!?遊んでたの?酷い!」

フローリアンが俺に巻きついてくる。なんて緊張感がないんだ、とは思ったが。ジェイドの方へと視線を向ければ、槍先は少し下がっているのが見えた。さすがにここではまずいと思ったのだろう。思い出すのは、勿論。

「…フレイ・ルーティス響将ですか。ケセドニア北部戦以来ですね」

そう、それがあるからこそ、ジェイドにだけはバレない自信があったというのに。その事実を知られたくはなかった。特にシンクには。どうせまたあとで色々言われるんだろう。それを分かっていながら、ジェイドに向かって言葉を続けた。

「二年前のことをよくもまぁねちねちと覚えてるよな」
「痛い思い出ですからねぇ」

ルークも、ケセドニア北部戦という言葉には反応した。キムラスカとマルクトの抗争だ。知らないはずがない。そして、それに俺が出ていたということを知らないシンクは、俺のことを思いっきり睨んでいたが。イオンも知らないだろうな。知っているのはアリエッタとリン、あぁディストも知ってるか?まぁそのくらいの人間しか知らないことだ。今の神託の盾にそれを知っている人間はどれだけいるんだろうか。ま、少しくらいはいるだろうけど。あまり話題に出したくない思い出でもあることは確かだし。


「どうしてもやりたいっていうのなら、止めないけど……。さぁ、どうする?」

封印術は俺が持っている。ラルゴには持たせなかった。そのことに果して気付いているのか、いないのか。響将、という地位を聞いてか、ルークもジェイドに任せるといった感じだろう。そもそも、ティアが倒れているこの状況。六神将が二人もいるこの中で、ジェイドが無謀にもこちらに戦いを仕掛けてくるとも思えないし。思った通り、持っていた武器を下ろして、降参とでも言うように肩を竦めた。それに少なからず驚いているのは、ルークだが。

「六神将二人、にしても貴方の戦闘能力は甘く見ているとこちらがやられますからね」
「ま、俺ももう部下に怒られんのは勘弁して欲しいしな。それにその台詞そっくりそのまま返すぞ。フローリアン、武器を取り上げてこい」
「えぇ!?フレイ、どうせなら…」
「どうせなら―…もねぇよ。これ以上ことを大っぴらにする気か」

むくれているフローリアンの頭をぐしゃぐしゃに撫で、騒ぎを聞いて譜歌が切れたらしい。起き上った神託の盾兵たちに命じて、牢屋へと連れて行かせた。ジェイドの視線が痛いのもあるが、それ以上にシンクからの視線が非常に痛い。理由は勿論分かっている。だからこそ、どうすることも出来なくてため息をつくしかなかったのだが。


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