ちょうど、艦橋からの扉が開いた瞬間だった。その瞬間、真っ先に飛び出してきたティアにフローリアンのアイシクルが直撃した。運が良かったのか、それとも無意識だったのだろうか。ルークと、それから難なくそれをジェイドは避けた。ルークに避けられたことが不満だったのか、目を見開くジェイドなど気にもせず、フローリアンは持っていた短剣の柄で肩を軽く叩く。その顔には、ありありと不満そうな表情を浮かべながら。

「もう、なんで避けちゃうかなー」
「…な、なんだお前…!」

急に攻撃をしていたフローリアンに対して、警戒心がむき出しなルーク。当たり前だよな、とフローリアンは思いながら、何故か神妙そうな顔で自分を見ているジェイドに気付いた。そして、フローリアンは知っている。ジェイドがレプリカの第一人者であるということについて。シンクから聞かされていたのだ。だからといって、別段ジェイドを憎んでいるわけでもなかったので、興味無さそうにフローリアンが肩を落とす。それも、あからさまに。

「も〜、なーにー、さっきから僕のこと見て」
「いえいえ。導師イオンにそっくりだと思っただけですよ」
「だって、兄弟だもん。双子?あ、三つ子か!真ん中だしね〜僕」

短剣を右手に持ったまま。頭の後ろで手を組んだ。三つ子、の言葉にまたジェイドが眉間に皺を寄せる。レプリカだということは言うな、と散々に色々な方面から言われているため、フローリアンはそれもちゃんと理解していた。もっとも、現段階で気に食わない、とされているのはジェイドではなく、ルークの方なのだが。

「ま、いいや!とにかく、僕はあんたらが気に入らないから此処でフルボッコ決定ね!」
「おいジェイド、こいつも六神将か?」

も、ということは。誰かやられたんだろうか。フローリアンがその言葉に目を細めている中、ジェイドは明確なことは言わずに、首を横に振ってその手に武器を握った。倒れているティアが目覚める気配はない。もっとも、一兵卒であるティアがフローリアンの譜術を避けられたとも思わないが。それも[戻って]きていなければ、の話である。

「いえ、違いますよ」
「正確に言えば、六神将補佐?かなー」

教団兵ではないけどね、とは言わずに心の中だけにしまっていた。それを言えば、確実に隙を狙われると思ったからだ。殺すな、と言われた。だったら適当に殴って牢屋にでも入れておけばいい。とんとんっとつま先で甲板の床を叩いた。その手に持っている短剣は肩の上に乗せられている。にんまりと笑ったフローリアンは、その短剣をルークへ向けた。

「手加減なんて出来ないからね?せいぜい死なないように頑張ってよ」

笑顔に押されたのか、それとも別の理由からか。一歩下がったルークをかばうようにジェイドが前に出て槍を構える。それに眉を寄せたフローリアン。封印術が使われたはずだ。しかし、それが本当にかかっているのか、フローリアンには分からない。何より、死霊使いに怪我なしで勝てるほど、フローリアンもまた強くないのだ。まぁいい。目的はルークであってジェイドではない。そう思いながら、床を弾いた足を上げる。短剣術だけではない。体術も勿論使える。しかし、

「フローリアン!」

呼ばれた名前に、フローリアンは立ち止まる。そしてジェイドは、目の前にいるフローリアンに、再び目を見張る。それもそうだ、今までフローリアンは名乗りもしなかったのだから驚くのは当たり前なのだ。むぅっと膨れた顔をして、フローリアンは振り返る。たった今、何処からか戻ってきたらしいシンクの姿がそこにあった。短剣を持ったまま、上げられたまま行き場のなくなってしまった足で、再び床を弾いた。

「ちょっと!いいところだったのに、邪魔しないでよシンク!」
「いいところに、じゃないよ。あの人の命令を無視する気?」
「良いって言われたんだもん」
「行動に関してじゃない」


バレている。思いっきり殺すつもりでやろうとしていたことが。シンクの言葉に、フローリアンはふと黙った。そんな様子を見ていたジェイドに気付いたシンクが、にやりと笑った。ジェイドが[戻って]いるということはイオンの連絡から気付いていた。

しかし、今のこの態度を見て、それが確信へと変わった。仮面がないシンクと、そして今はまだいるはずもないフローリアンの存在。そして、恐らく彼の考えていることは、アッシュだ。アッシュと呼ばれるはずの、特務師団の師団長。彼こそがレプリカルークだという、そのジェイドの考えに。間違ってはいない。しかし、バレても困る。


「それで?そこにいるルークサマを庇いながら、六神将二人とフローリアン相手に出来るわけ?いくら死霊使いと言えどそれは無謀だと思うんだけどな」

勿論、ルークにつけた“サマ”というのは嫌味である。それに気付いているのかいないのか、二人、という言葉に不思議そうに首を傾げるルークと、シンクを怪訝そうに見ているジェイドを確認して、シンクはにやり、と笑った。当然、上で見ているんだろう。今の状況を見て、遊んでいる一人の人を思い浮かべて、息を吸い込んだ。


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