Novel
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音駒…音駒…
「ここだ」
「おーい、木兎!」
「おー!黒尾ー!」
駆け寄ってきた黒尾に手を振る。
「迷わず来れたんだな」
「今は便利な地図アプリがあるからな!」
どうだと自信満々に胸を張って言えば黒尾はなんか呆れてた。なんで?
「よし、じゃあ行くか」
「おう」
体育館に着けばなかなかに多いギャラリー。
「人すげぇな」
「まぁ音駒のバスケ部って言ったら強豪だからな。お、愁。あれだよ、俺の幼馴染み」
「ん?」
黒尾が指差す人物を見る。黒尾位背が高くて、青のゼッケンを着てる。
「1年でレギュラー?」
「おうよ。すげぇだろ、俺の幼馴染み」
「すげぇ!」
それからすぐに試合が始まった。バスケのルールはあんまり知らない。とりあえず、ボールをゴールに入れる。んで、あんまし持ち過ぎたらダメ。持ったまま3歩以上は歩いたらダメ。こんくらい。
それくらいしか知らないし、バレー以外興味なんてないけど、でも…
「……すげぇ…」
何がって言われると、ちょっとむずい。俺感覚人間だから。頭で考えるのは得意じゃない。
「鳥みてぇ…」
コート内を走って、走って、走って。ボールを手にしたら知らない間にそのボールは他の人の手に渡ってて、え?見てた?って感じ。渡した人の方なんて全然見てないのに的確なパス。で、え?いつの間に?って思うくらい早く、相手が持ってたボールを持ってる。
「あいつな、「黒烏」って呼ばれてんだ」
「黒烏?」
「なんでも、中学の時のユニフォームが黒で、それ着て試合に出てるあいつは烏みたいだかららしい。上から見てるみたいなパスにカット。自由に飛ぶ鳥みたいなドリブル。的確なパス回しに、キレる頭。それが、烏みたいだって」
「烏…」
そういや昔テレビで見たなんかの番組で、烏は頭が良いって言ってた。
気付けば試合は終わってて、音駒の圧勝だった。黒尾の幼馴染みはずっとスターティングメンバーとして出てた。凄かった。とにかく凄かった!
「すげぇな!お前の幼馴染み!なんか知らねぇ間にボール持ってるし、知らねぇ間にボール渡してるし!!シュートしねぇのかなぁとか思ってたらしたし!!すげぇ!」
「分かった分かった。興奮してんのは分かったから」
「んでもって、めっちゃ綺麗だな!素早いっていうか、なんてーか、うん、綺麗だ!」
「来て良かった?」
「良かった!!」
「んじゃ、あいつに会いに行こうぜ。今頃裏でいるだろうし」
「行っていいのか?」
「見終わったら行くって言ってるから大丈夫だ」
黒尾の後をついていけば、さっきまでコートの中を走ってたあいつがいた。
「愁!」
「鉄!」
「お疲れさん。良かったぜ」
「いやー、まさか1年で、しかもフルで出ると思わなかったからビビったわ」
「謙遜しいめ。っと、そうそう。言ってた梟谷のバレー部、木兎」
黒尾と話してたそいつの目がこっちを向く。ほー。これが世に言うイケメンってやつ。多分。
「初めまして。鉄の幼馴染みの宮野愁。よろしく」
「黒尾が言ってた梟谷の木兎光太郎!よろしくな!なぁなぁすげぇな!」
「へ?」
「後ろのやつ見えてんの?見てないのにパスしてたじゃん?あれすげぇな!!それから、めっちゃ素早くボール取ってた!!バシッて!!んで、あんなとこからシュートしてた!すげぇ!!」
「……」
「おいこら落ち着けよ」
「へ?」
「…ふ、はははっ!」
「え?」
「ぼ、木兎って、面白れぇのな…!そんなバシバシ言われたの初めてだ。はははっ、面白れぇー!でもサンキューな」
そう言って目を見て笑ってくれた。なんかそれが嬉しくって、俺も笑った。
「なあなあ、俺も愁って呼んでいい?」
「おー、全然いいぜ」
「愁ー!!」
「なんだー?」
「呼んだだけー!」
「なんだそら」
「懐いたなぁ木兎」
「これが、俺が愁と出会った話!」
「へぇ、そこで木兎は宮野と会ったんか」
「俺らはお前の紹介で会ったしな」
「そう考えると、俺ら宮野の試合見たことねぇな〜」
「あー、ないな」
「どんなものか、見てみたい」
2年の同期と、1年の赤葦とで合宿2日目夜に話してた。俺と愁の出会いを。
「…それにしても木兎さん」
「んあ?」
「黒尾さんからの最初の話、すっかり忘れてたんですね」
「!!」
「それなー」
「もう頭ん中バレー一色に染まってそれどころじゃねぇ!みたいな」
「で、でもちゃんと思い出した!」
「それ宮野に話したら悲しがんぞ〜」
「!!…やっぱり?」
「んまぁ、あいつなら笑って気にしなさそうだけどな」
「!!だよな!!」
「すんませーん」
「ん?誰だ?」
「俺出ますね」
赤葦が扉を開けると、そこには
「あれ、宮野さん。どうしたんです?」
愁が居た。
「たまたまさっき体育館行ったらこれ置いててさ。木兎のんじゃね?」
見ればそれはタオル。
「あ!俺のだ!」
「やっぱなー。なんか見たことあんなーって思ったんだよ。来て良かった。ほれ」
「サンキュー!愁!」
「いえいえ。んじゃ、俺戻るわ。おやすみー」
「おやすみなさい」
「おやすみ!」
「わざわざ届けてくれるとは」
「優しいなぁ〜」
「ふふん!それが愁!」
でもなぁ、怒ると一番怖いのも愁である。