Novel
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「…じゃあ、飲んだんじゃなくて、飲まれたんですね」
「そう!まだ封も開けてなかったのに俺の飲んでさ。そしたら俺飲むもんねぇじゃん?だからこうして買いに来たわけ。後で絶対利子つけて返してもらう」
あの馬鹿行平め…!と言っているが、その顔はしょうがないなと言った感じで、怒っている様には見えない。
「…宮野さんは、黒尾さんと孤爪とは幼馴染みなんですよね」
「おー」
「どうしてバレーじゃなくて、バスケなんですか?」
「んー…そうだなぁ」
悩ませただろうか。真っ暗で、でも満天の星空を見上げて宮野さんは唸った。
「バレーより、バスケが性に合ったから、かな」
「…誘われなかったんですか?」
「誘われた誘われた。けどなぁ、なーんか違うなって。バレーも魅力的な球技だと思うけど、それをするのは俺じゃない。じゃあなんだろうって思った時にバスケに出会って、あぁ、これだって」
そう語る宮野さんの目は、木兎さんが宮野さんを語る目と同じだった。キラキラと、輝いている。
「コート全面味方であり敵である。端から端まで走って、ドリブルして、カットして、パスして、シュート。何度も相手からボールを取られても取り返して、繋いで。それがすっげぇ楽しいんだよ」
まるで少年のよう。好きなことを話すその表情は、好きで堪らないといった感じ。
「んで、終了のブザーと共にゴールに落ちるブザービート。俺はポイントガードだから滅多にないけど、それが出来た時ってのは最高なんだ」
初めて向けられた、純粋無垢な笑顔。これは、あの時黒尾さんと話していた時と同じ顔。今までのは、少し違ってて、なんて言えばいいのだろう。…どこか、大人びていて、年相応だけど思いっきりじゃない感じ。上手く言えないけれど。
「…本当に、好きなんですね。バスケ」
だからかな。ちょっと笑ってしまった。木兎さんが興味を持つ人。音駒のバレー部レギュラーに慕われている人。同じバスケ部の部員からも信頼を受ける人。
───とても、綺麗に動く人。
少しの興味が、知らない間にだんだん大きくなってて。バレーだけを見てきたのに、今日1日、しかも公式戦でも練習試合でもないプレーを見ただけなのに…。
「(こんなにも、魅せられた)」
初めてだ。けど、嫌じゃない。もっと見てみたい。もっと知ってみたいと、逆に思った。違う競技の選手だからだろうか。1ファンとして純粋に見れる。
「(…いつの間に、ファンになってたんだろう)」
でもそれも嫌じゃない。
「ぅわ!え!ごめん!なんか俺ばっか話して!」
「え?」
「バスケの話なんてそんな興味わかないでしょ?それなのにごめんな。なんかバスケの事になると熱くなっちゃってさ、ははっ!」
「……いえ、そんなことありません」
「へ?」
「とても、楽しいです。知らないことを知れて」
「赤葦くん…」
じっと見られるのが少し恥ずかしくて、顔を前に向けた。目線は、少し下。
「木兎さんがよく話していました、貴方の事を。素早くて、綺麗だと。話だけでは分からなかったんですが、今日宮野さんのプレーを見て分かりました。とても綺麗にプレーをする人だって」
沈黙。
不味いことを、言っただろうか。それなら謝らなければ。顔を上げて宮野さんを見る。そこには顔をほんのり赤くした宮野さんが居た。
「ぅ…あ、その…」
「……(赤い…)」
「そ、そんな風に言われたの、初めてで…。き、綺麗とか…」
「……言われたこと、ないんですか?」
「…ない」
むず痒い!と言って首筋に手を当てる宮野さんを見て、
「…ははっ」
声を出して笑った。
「え、あ、赤葦くん?」
「ふふ、すみません」
第一印象、「苦労人」
第二印象、「綺麗で、鋭い人」
「宮野さん」
「ん?」
「また、見に行ってもいいですか?」
「おう!いつでもおいで!あ、でも、バレーは優先な?ほら、木兎拗ねるから」
「ふふ、はい。分かってます」
第三印象、「少年のようで、可愛い人」