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「あー!腹減った!」
「晩飯なんだろなぁ」
「この匂いは…」
「カレーだ!!」
もう空いて空いて仕方ないのだろう。みんな食べ物に飛びついていく。
「…あっちにも机があるんですね。少し多くないですか?」
「あぁ。そっちはバスケ部だ。なんでもバレー部とバスケ部は合宿所一緒だそうだ。絶対経費削減だな」
「そうなんですね…」
「バスケ部」
ということは、あの人もここで食べるのか。
そんな事をぼんやり考えながら席に着く。すると、扉の方がガヤガヤとしてきた。
「お、愁達来たみてぇだな」
「だな」
「でも少し来るの遅くないか?」
「大方、大食いの速水が暴れるからそれを抑えてたんだろうよ」
「あいつも大変だなぁ」
「今度胃腸薬やるか」
「やっくん専用の胃腸薬?大変だねぇ、やっくんも」
「テメェのせいだろうが、黒尾」
「え、俺?俺のせい?」
「…限りなく、クロのせいだと思うよ」
「この間廊下で愁さんにあった時、なんかお腹押さえてたんスよ。大丈夫なんスかね?」
「…心配」
「すぐにやろう。宮野が心配だ」
「やっぱりストレス胃だと、太◯胃散か?」
「その辺りが無難だな…」
「キャ◯ジンじゃね?あれ覿面だぜ?」
「キャ◯ジンは胃もたれ二日酔いだ!」
あの人は、とても慕われているようだ。バレー部レギュラーからとても。それから、俺も胃腸薬を渡すならキャ◯ジンより太◯胃散をオススメする。
話し声が近くなる。そちらに目を向けると、丁度バスケ部が入ってきた。
「いやー、悪いね。作ってもらって」
「そっちはマネ居ねぇし気にすんな!」
「音駒、マネ取んねぇの?」
「んー…」
「大体がこいつ目当てで来るから仕事にならんのよ」
「なるほどなぁ」
「愁イケてんもんな〜」
「顔イケてて、性格良くて、主将で、頭も良い。国語が異常に出来ない点は神様が与えた美点だな!」
「うるせぇよ!行平!テメェは数学馬鹿悪りィだろうが!」
「数学出来なくても生きて行けんだよ!」
「それなら国語出来なくても生きて行けんのと同じだろうが!」
国語、出来ないのか…。意外だな。なんでも卒なく熟しそうなのに。人間何処か欠点は持っているもんなんだな。
あと、あんな風に話すんだ。それも、意外だ。でも、高校生らしい。
「んー?どうした?赤葦」
「…なんでもないです。木兎さん、ご飯落とさずに食べれるようになって下さい。小学生ですか」
「あれ、本当だ落ちてる」
「気付いてなかったのかよ」
「ぶははははっ!木兎ォ、お前後輩に注意されちゃあおしまいだな!」
「何おー!黒尾ー!」
「おー、やんのか?買うぜ?バレーで」
またこの人は、しょうも無いことで騒いで。乗せられてどうすんですか。食べてる途中なのに立ち上がるなんて行儀が悪い。
「止めろ、食事中に!」
「木兎さん、お座り」
黒尾さんは夜久さんに頭を叩かれて、木兎さんは俺に言われて椅子に座る。けど、どうしてか、とても失礼な事を思われている気がしてならない。それは夜久さんも同じな様だ。
「黒尾。お前今失礼な事考えてなかったか?あ?」
「な、何のことかな夜久さん」
「今日の自主練は禁止です」
「あかーしぃぃぃ!!ごめんーー!!」
それから謝られたけど、とりあえず無視をした。食事終了後、しょぼくれモードに入って面倒になった。でも今日は合宿1日目。無理をすれば後に響く。明日は自主練に気が済むまで付き合うと言えば、垂れ下がった髪が元気を取り戻した。とても単純でバレー馬鹿だと思った。
「あれ、赤葦どこ行くんだ?」
廊下に出ると小見さんに声をかけられた。
「少し自販機に」
「そーかそーか。気を付けてな!」
「はい」
小見さんと別れて自販機に向かう。一つしか無いから、別に迷わない。辿り着くと先に人がいた。
「…あ…」
思わず漏れた声にその人が気付いた。
「ん?お、赤葦くんじゃん」
「こんばんは」
立ち止まれば不自然だから、そのまま自販機へと歩いた。だから、当然この人との距離は縮まる。
「赤葦くんもなんか買いに来たんだ」
「はい。サッパリしたもの、飲みたくて」
「あ、じゃあこれとかオススメだぜ」
指差されたものを見れば、レモン水。
「酸っぱいの平気?」
「はい」
「なら良かったら一回飲んでみ!サッパリしててうめぇから」
「じゃあ…」
小銭を入れて、それを押す。ガコンと音を立てて落ちたそれを手に取る。
「宮野さんがオススメするこれ、飲んでみます」
選んだのはレモン水。薄黄色のラベルに包まれた、透明の水。
じっとそれを見る。共通の話題なんてなくて、特に何も出てこない。でも、ここで終わりにしたくないと思った。
「宮野さんは、何を買ったんですか?」
「俺?俺これ」
見せられたのスポーツドリンク。無難な線を行っていて不思議ではないが、残ってなかったのだろうか。
「飲み干しちゃったんですか?」
「それがさ、聞いてくれる?赤葦くん。俺の愚痴!」
「え、あ、はい」
立ち話もなんだからと、近くのベンチに座る。これは、ちょっと予想外。