Novel
11
第一印象は、
「……大変だろうよ、赤葦くん。心が折れるだろうけど頑張ってくれな」
俺と同じ苦労人なんだろう。という感じ。
「宮野愁」
見たことはなかったけど、聞いてはいた。バレー部に入部して、木兎さんのスパイク練に付き合っていた時に良く聞かされたから。
「あんなあんな!音駒にすんげー選手いるんだ!」
「貴方が言うならそうなんでしょうね。ポジションはどこなんですか?」
もしスパイカーならば、トスを上げてみたいと思った。この人がここまで言うから。
「ポイントガード!!」
「…………は?」
バレーにそんなポジションはない。あるとしたらそれは…
「…バスケ、ですか?」
「おう!バスケ部!」
暇があればバレーしよう!暇がなくてもバレーしよう!なこの人が他の競技に興味を持っている。それだけで、少し興味が湧いた。この人が興味を持つ人はどんな人なんだろうかと。
「なんかな、鳥みたいなんだ」
「鳥、ですか」
「1回黒尾に言われて見に行ったんだ。バレーじゃないなら興味ねぇ!って言ったけど、まぁ見てみよろって言われたから仕方なく!」
「はぁ」
「見たらさ、なんつーか…。俺が見てきたバスケと違ったって言うか…。凄かったんだよ」
その時のことを思い出しているのか。バレーをしている時のように目がキラキラとしている。本当に不思議だ。そして、また少し、興味が湧いた。
「目が上に付いてんのか横に付いてんのか後ろに付いてんのかって思った!」
「アンタ何言ってんスか?」
「だから鳥みたいなんだよ!」
まるで、上から見てるようで。コート全てが見えているようで。僅かな隙間も全て見えているようで。
「素早くて、綺麗なんだ!」
ルールはよく知らない。並程度。バレーほど興味はない。触れる程度。なのにどうして、
ガコンッ!
「(こんなに惹き付けられるんだろう)」
シュートを決めたその人は仲間とハイタッチをしていて、とても楽しそう。
「…黒烏か。上手いこと付けるな」
「本当にな」
「黒烏」とはなんだろう。これは木兎さんからも聞いていない。あの人を指すんだろうか。
「空から見ているかのようなパス。何処からともなく突然やってきてボールをカットする。自由に空を飛んでいるかのようなドリブル。鋭い観察眼。ずば抜けた頭脳。まさしく、烏」
再びゴールに吸い込まれるように落ちていくボール。それを放ったあの人は、とても、とても、
「(……綺麗だ)」
木兎さん。やっと今、貴方の言葉を理解出来ました。
本当に鳥のよう。幻覚だろう。羽が見えた気がした。真っ黒な、羽が。
歩いてくるその人は、見ていたバレー部の人達と仲良く話している。試合中とはまた違う。砕けてて、年相応。綺麗な顔立ちだからか、ギャップを感じる。今だって、黒尾さんと声を上げて笑ってる。木兎さんが空気を読まず乱入して行ったけど。
試合中は、とても鋭い目をしている。鷹の目のよう。けど、一度(ひとたび)試合が終われば、16.17歳の高校2年生の顔に戻っている。
「珍しいな。赤葦がストップかけねぇなんて」
木葉さんの言葉で思考がプツリと切れた。知らない間に、俺はこの人を見ていたようだ。ずっと。
「赤葦くんだってぼーっとする時あるわな。人間だもの」
「まぁそうだな。そんな時もあるか」
何も言わない俺に自然にフォローを入れてくれる。後ろから猿杙さんの声が聞こえた。もう休憩が終わったのか。歩き出す先輩達の後ろを追おうと足を向ける。
「赤葦くん」
「!」
驚いた。気付かれたんだろうか。俺が自分でも気付かないうちに貴方を見ていたことを。
「練習、頑張れ!でもほどほどにな!」
黙っていた俺を見て、声を掛けてくれたのか。その目は試合中だけでなく、バスケだけでなく、他のところでも鋭い。鋭いけれど、嫌じゃなかった。
「……はい」
返答に満足したのか、その人は背を向けて歩いて行った。少しそれを見て、俺も踵を返した。
第二印象は、
「綺麗で、鋭い人」