Novel
07
「ほら、入部届け」
「ありがとうございます!」
「今書いて出してもいいし、別の日でもいいし」
「今書きます!」
「待て待て待て」
体育館の床で書こうとするから止めて、せめて椅子に座って書きなさいと促す。
「お、宮野。新しい部員か?」
近藤が首にタオルをかけ、歩み寄る。
「はい。あ、近藤先輩とポジション同じですよ」
「てことは、センターか!まぁ良い体つきしてるし、向いてるな」
「雪森。3年の近藤春利さんだ。お前と同じポジションのセンター」
「い、1年3組の雪森敦です!センター志望です!よろしくお願いします!」
「はははっ!宮野!こいつ元気だな!」
「でしょう」
「おーい。入部希望者の1年、集まったぜ」
「今行きます。じゃあ、雪森もおいで」
「はい!」
ネットを挟んで向こうを見ればバレー部も新入部員達を集めている。部内の説明や紹介をしているんだろう。
「…えー、主将の宮野愁です。君達1年の一つ上だ」
「一つ上」という言葉にざわざわとする。それはそうだ。強豪と言われる音駒高校バスケ部の主将が自分達の一つ上。たった一歳しか変わらないのにこのバスケ部を率いている。
「なんで2年が主将なんだとか、3年が主将じゃないのか、なんて声を聞くことは少なくない」
「「ッ」」
「2年だから、3年だから、1年だから。そんな安っぽい年功序列の型に嵌っているなら、この部には要らない」
─────技術のある者が上に立つ。指導力のある者が上に立つ。そして率いていく。
「主将が3年でなければならない理由なんて何処にもない。逆に、1年が主将になってはいけない理由もない」
「バスケはコートに5人。その5人が全員3年、全員2年、全員1年でも別に可笑しくない。それで部が伸びるならそれを推そう。1人が伸びても意味がない。全員が平等に伸びてこそチームは強くなる」
1人が抜きんでても、周りがそれに合わせる力が無ければ成り立たない。コートで孤立してしまえば、それはチームの負けに繋がるのだ。
「勝敗の決まる世界にいれば、強さを求める奴は少なくない。強さも確かに大切だ。だが、土壇場の状況下で最も必要とされるもの。それはチームワークだ。チームワークの無いところはどんなに強くても負ける」
バスケをしてきて、時々目にした。子供だからか、それとも単細胞なのか、チームワークより己の力を過信して勝とうとする。
「練習はハードだ。やる気のない部員は辞めてもらう!やる気のある奴だけ残れ」
愁の言葉で戸惑っていた1年生の目が変わる。やる気に満ちた目だ。貪欲さを持つ目。それを見て、愁は小さく笑う。
「入部届けには予め希望ポジションを聞いている。変更があれば後で言いに来い。未経験者、経験者が居るだろうから、今日は顔合わせと少しパス練習をして終わりだ」
「「はい!!」」
「2、3年から何かありますか?」
振り返り聞くが、3年の先輩と2年の同期はどの人も首を横に振った。
「いやいや。なーんもねぇよ。俺らの言いたいこと全部お前が言ってくれし」
「そうそう。いやぁ頼もしいな、宮野」
「やっぱお前に主将任して正解だな」
「……なんですか、藪から棒に」
ケラケラ笑う3年と2年を見てから、もう一度1年に向き直り、準備運動をするよう声をかけ、解散させた。パーっと散らばる1年を横に、数人の部員が愁に近寄り何かを話す。その様子を、ネットを挟んだバレー部の数人は見ていた。
「1人が伸びても意味がない。全員が平等に伸びてこそチームは強くなる。か…」
「あいつの言ってることは何にも間違ってねぇな」
「むしろ正論だ」
「最後の1点って時とか、巻き返しの時とか、やっぱチームワーク必要だしな」
「はぁー。俺の幼馴染はかっけーな、本当に」
「見習えよ、黒尾」
「海に言われると、なんかドスンと来るな…」
「もっと言ってやれ、海」
「ヤメテ、夜久クン」
そこにバレー部も収集がかかり、2年レギュラーもそちらへと足を向けた。