母親がここ五日間仕事で出張している。だから家のことだったり妹のことはすべて自分がしなくてはいけない。勿論自分のことも。
モモカンには理由を話して朝練には少し遅らせて行かせてもらってる。なぜなら妹を保育園に連れていかなければいけないから。
そして帰りも早めに上がらせてもらって保育園まで迎えに行く。
たまに帰りにスーパーに寄って晩御飯の買い出し。
電車に乗れば珍しいのかきゃっきゃ騒ぐ妹をなんとかする。

ここ五日間、正直あんまり寝れてない。部活に家のことに学校のことに追われて睡眠時間はほぼほぼ3時間程。そろそろ体が重く感じてくる。目も開いてるのか開いてないのかよく分からん。



「おにーちゃん、おにーちゃん!」

「んー、どしたー」

「今日もやきゅう?」

「今日も野球だな」

「明日もー?」

「明日もー」

「ぶー…」

「どしたよ、膨れて」



手を繋ぎながら歩くが桃がぷくーと膨れる。フグみたいだ。怒られるから言わないが。3歳児だと侮ってはいけない。3歳児も立派な女の子だ。




「…桃もおにーちゃんと遊びたい」

「あー」




そーだよな。遊びたいよな。やっぱ保育園だけで遊びます、だけじゃ物足んないよな。けどま、これでも帰ったら遊んでやってんですよね。宿題後回しで。





「でも夜遊んでるだろ?」

「もっと遊びたいー!」

「んー…」



いや、困った困った。でもにーちゃんも体しんどいんだな。桃さん分かってますかね。いや分かんないか。仕方ないよな。なんせまだ3歳児。



「じゃあ今日は帰ったら遊ぶか」

「ほんと!?」

「おー、本当本当。何して遊ぶか考えとけよ」

「はーい!」



機嫌が良くなったのかルンルンと今にも何か分からない歌を歌いだす勢いだ。この間は本読んでたら目の前で急に台詞言ってポーズ決められた時は何してんのみたいな目で見たが、その後怒られた。

「おにーちゃん知らないの!?これね、ぷりきゅあなんだよ!ぷりきゅあ!だめだなー、おにーちゃん」

って。そうかにいちゃんダメか。ごめんな。ってなったな。





「ほれ、着いたぞ」

「あーもう着いたー」

「今日も1日怪我なく遊んでくること。分かった?」

「わかった!」

「よし」



そこに保育園の先生が駆け寄ってくる。



「桃ちゃんおはようございます。今日もお兄さんと仲良く来たんだね!」

「うん!おにーちゃんと一緒に来た!」

「じゃあ桃ちゃんはお靴脱いで、先にお部屋に行ってこようか!」

「はーい!じゃあまたね、おにーちゃん!」

「またな。あー走るな走るな。走るなら前向けー。転ぶぞー」



元気なことはいいが走る時は前向いてくれ。危険だから。



「ふふ、今日もお迎え来てくれるんですか?」

「あー、来させてもらいます」

「そうですか。学校のことや家のことで大変だと思いますけどよろしくお願いします」

「こちらこそ、桃のことよろしくお願いします。じゃあ、俺学校行くんで」

「はい。ではまた」

「はい。失礼します」



保育園を出て走って駅へ。ちょっと今日暑くないかなんて感じたが走ってるせいかって考え直す。

電車の中では少しの時間も睡眠時間に変換。たった二駅。されど二駅。寝ます。

着いたところで起きてまた走ってグラウンドへ。前は思わなかったけどグラウンド遠いわ。やっぱ今日暑くね?
更衣室行って着替えて帽子持ってグラウンドへ向かう。





「はよー」

「お、愁はよ。今日も送ってきたのか?」

「おー。で、ダッシュな。なぁ今日暑くね?」

「暑い?んー、そうか?今日は涼しいくらいだけどな」

「俺だけかよ」




まぁいいかと朝練に参加。
んー、やっぱ暑いって。走ったのがダメだった?でも毎朝ここんとこ走っているんですが…。

ただ一人心の中で暑いな暑いななんて言っているうちに朝練終了。また眠い眠い授業が始まる。















「であるからにして、ここのxの値は…」




ふぁ…とあくびを一つ。窓側でしかも天気がいいと眠くなる。日差しが憎い。寝させよう寝させようとしてくる。


「じゃあここを…、はい、窓を見てる如月。解いて」

「え?」

「ここ、ここ」

「あー…」


聞いてなかった。全然。



「答え教えようか?」

「いんや、なんとかなるって」


泉からの助けを貰わずにとりあえず前に行く。黒板の前で文章読んでちょっと考える。




「お、如月珍しいな!難しいか?」

「んー…、あ、なるほど」

「え、分かったの?」

「え、はい」



チョークを手に取って書き始める。書き終わって先生の方を見たらなんか落胆してた。



「はぁ、余所見してたからわざとちょっと応用問題出したっていうのに解いちゃうんだもんなぁ。はい、正解」

「いや、眠くて」

「ちゃんと家で寝てんのか?」

「…まぁ」

「部活と勉強頑張るのはいいがちゃんと寝るんだぞ」

「はーい」



自分の席に行って席に座る。隣の田島は夢の中だ。次当てられんのはこいつだな。








休み時間。次の授業の準備をする。隣の田島は騒いでた。俺の予想通り次に当てられたのは田島だった。結局分からずじまいで先生に怒られてた。どんまい。




「なぁ愁」

「ん?」

「お前ちゃんと寝てる?」

「え、まぁ、それなりに。なんで?」

「昨日夜中にたまたま起きた時お前の部屋電気付いててさ。夜の2時だったかな…。まだ起きてんのかって思って」

「あー、桃寝かしつけて宿題やって洗濯してたら時間って結構経つんだよな」

「大丈夫かよ?ここんとこずっとだろ?」

「んー…でもしなきゃいけねぇしなぁ」

「あんま無理すんなよ?」

「おー」











お昼休み。机に集まってご飯を食べる。
いつもなら普通にお腹が空くはずが今日はあまり食欲がない。
だから田島からの盗み行為があっても怒らなかった。むしろもっと食ってくれって感じ。



「どうしたんだよ、愁。俺がとっても怒らねぇなんて!」

「あんま腹減ってなくて」

「食欲ないのか?」

「みたい」

「だ、だい、じょう、ぶ?」

「こんな日もあるって」

「やっぱ顔色悪い。保健室行くか?」

「行くほどでもないって」



ほとんど手つかずの弁当を目の前に自分でも体のだるさを知る。きっと寝不足だ。次の授業フルタイムで寝たらきっと復活する、はず。








5限目、フルタイムで寝ようと計画を立てていたのに先生に3回も当てられてフルタイムどころじゃなかった。なんの恨みがあって今日3回も当てんだよ。田島を当てろよ田島を。なんなら浜田でもいい。俺をチョイスするな。




6限目英語。次こそはフルタイムで寝よう。そう思っていたのに先生から超長い英文を翻訳しろと言われた。鬼畜め。


「えーっと…。町の人々は彼の処刑を命じた。その処刑というのはその街に昔から伝わる儀式であった。しかしその儀式を止めるものが現れた。彼は隣の国のものであった。村の人々は邪魔な彼も一緒に処刑しようと口々に言った。彼はこう言った。このような儀式は廃止すべきである。人の命は平等に存在し、簡単に処刑されるものではない。命を大切にできないものは何も大切に出来ない」

「完璧ですね。座っていいですよ」



席に座れば隣の田島が話しかけてくる。


「すっげーな!あんな長げーの訳せるなんて!」

「なんとなくで訳すんだよ、英語ってのは」

「なんとなくで訳せるもん?」

「訳せる。あとは気合だ」

「まじか!」

「なんの話ししてんだよお前らは」


泉につっこまれてそこで話を終えた。いや、終わらせた。あんまりにもしつこく話しかけてくるから。















掃除の時間。箒を持って遊んでいる浜田と田島。その2人のお尻を泉が容赦なく箒でハリ倒す。


「遊んでねぇでやることやれ!」

「泉が怒ったー!」

「尻いてぇ!!」


俺はというと机運び当番なわけで、箒軍団が掃除を終えない限り出番がない。三橋も同じ。


「何やってんのかね、本当」

「い、いた、いた、そう!」

「あぁ、ケツバットならぬケツ箒?」

「う、うん!」

「バッドよりはマシだろうけどな」

「バット…いた、い」

「え?あ、そっか、そういやモモカンにされたんだっけ」

「(コクンッ)」

「いい音してたな」

「いた、いたか、った」

「それも今となればいい思い出だって」




おーい!運んでいいぞー!




「机運ぶか」

「う、うん!」















部活開始。

準備運動を終えていつもの練習に入る。額から流れる汗を二の腕で拭く。帽子で扇げば微妙な風が。生温くてあまりいい風とは言えない。




「暑いか?」


阿部が話しかけてくる。


「俺は暑いんだけど、お前らはそうでもないんだろ?」

「今日はまだいつもよりマシだな。昨日は暑かったけど。…確かに顔が赤いな。それに顔色も悪い」

「え、まじ?」



頬に手を当てる。うん、心なしか熱いような気もしないでもない。



「最近お前忙しそうだし、泉も言ってたけどあんま寝てねぇんだって?」

「んー…」

「ちょっとベンチで休んどくか?本当に顔色悪いし」



あんまり言われると本当に顔色悪いのかって思ってしまう。ここは素直に頷いたほうがいいな。これ以上心配かけんのもあれだし。



「阿部がそこまで言うし、そうするわ」

「おう。後でしのーかにポカリ貰っとけよ」

「あぁ」



踵を返してベンチに向かおうとする。ぐらりと揺れる視界。世界がぐるぐる回る。平衡感覚が保てなくて足元がふらつく。膝から地面に落ちてしまう。頭が痛くてぐらぐらして目も開けられない。



「愁!?」


阿部の声が聞こえる。




「どうした!」

「愁が倒れた!」

「えぇ!?」



バタバタ駆け寄ってくる音がする。


「大丈夫か!愁!」


あぁ、これ孝介だ。大丈夫だって言いたいけど声出す気力がない。




「あっつ!こいつ熱あるぞ!」

「えぇ!!ど、どうしよ!どうしよ!」

「とりあえず保健室連れて行くぞ!」

「どうしたの!?」

「モモカン!しのーか!」

「如月くん倒れちゃったの!?」

「それが愁熱あるみたいで…!」

「あらやだっ、本当じゃない!如月くん!如月くん!声聞こえる?」

「…っ、はい」



辛うじて声を出すも正直もう限界ギリギリ。ここまで自分酷かったっけ。


「立てそう?」

「…はい、……っ」



周りが手を貸してくれる中立ち上がるが体に力が入らずに前のめりになる。慌てて前にいた花井が抱き留めてくれる。



「もう立てる状態じゃねぇんだ…っ」

「愁、大丈夫か?愁!」



田島の声が聞こえる。でもだんだんそれも遠く感じる。何言ってんのか全然聞こえない。


そのまま愁は気を失った。



「愁?おい愁!」

「どうした花井」

「ダメだ、意識ねぇ!」

「こうなったら花井くん!如月くんを担いで保健室向かって!」

「ぅえ!?あ、はい!」
















練習が終わり、ゾロゾロとみんな保健室へ。今日は愁の事もあってかいつもより早めに終わった。




「失礼します…」


中に入ったけど先生は居なかった。ちょうど席を外しているところみたいだ。



「先生いないね」

「席外してるんだね」

「愁はどこだ?」

「こっちじゃね?」


唯一カーテンが敷かれてるところに向かい静かに開けると、そこには眠っている愁の姿。



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