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柳宿と付き合っている設定




ぽちゃん


池に石を投げる。波紋が広がる。




「…はぁ」


もやもや、もやもや。

消えない。





「あんなの、見なかったら良かった…」





こんな気持ちになるなんて、知らなかった。私の中にこんな想いがあったなんて。


「やだなぁ…こんなの」




そんな睡蓮の後ろ姿を井宿が見付ける。



「睡蓮」

「井宿」

「どうしたのだ?そんなところで。柳宿が探してたのだ」

「…っ」



柳宿の言葉を出した途端睡蓮が顔を逸らす。珍しい。




「柳宿と喧嘩でもした?」


ふるふると首を横に振る。



「んー…、これはないと思うけど、何か言われたのだ?」




ふるふるとまた首を振る。
井宿はますます首をひねる。
そりゃそうだ。柳宿と睡蓮は仲が良い。喧嘩なんてほとんど見たことないし、その喧嘩というのも可愛いもの。
ほとんどがお互い笑っていて幸せそうなのだ。



「無理にとは言わない。けど、話してみたら楽になることもあるのだ」



井宿の言葉に睡蓮は顔を上げる。微笑む井宿。ゆっくりと睡蓮は口を開いた。





「実はね…」

「うん」

「都に、行ったの。買うものがあって。その帰り道にたまたま柳宿を見つけたの」

「うんうん」

「せっかくだから声をかけようと思ったんだけど、柳宿誰かと話してて…。楽しそうに話してるから邪魔しちゃ悪いかなって思って声をかけるのやめようと思ったの。そしたらたまたま話してる相手が目に入って…」



そこで口籠る睡蓮。もしやと思う。



「…話してた相手は女の人だったのだ?」

「…うん」



やっぱり。しかし、柳宿という人物は想い人に対しての気持ちが分かりやすい。分かっていないのは睡蓮くらいなもので。





「私、なんだか急に胸が苦しくなってその場から走ったの。こんなの、初めてだから…どうしたらいいか分からなくて…」



なるほど、分かった。良かったのだ、柳宿。睡蓮はちゃんと君を想っているのだ。




「睡蓮、それは嫉妬というのだ」

「嫉妬…?」

「その女の人と柳宿が話しているのを見て胸が苦しくなって走り去ってしまったのだ。それ以上その姿を見たくなくて。それはその女の人に睡蓮は嫉妬をしてしまったのだ」

「私が、あの女の人に…」

「だが睡蓮、柳宿が楽しそうに話しているときは大概君のことなのだ。柳宿は君のことになるといつも以上によく笑うのだ。その時も、きっと睡蓮の話をしていたのだろう」

「私の、話を…」

「だ。柳宿は君しか見えてないし、君しか見ていない。同じ七星士のおいら達にも威嚇するのだから。何も心配することはないのだ」





さぁ、もうすぐ君を探している柳宿が来るんじゃないかな。







「睡蓮〜!睡蓮〜!」





「あ…」

「さ、君の大切な人がお呼びなのだ。行ってやるといい」

「…ありがとう、井宿。聞いてくれて」

「これくらいお安い御用なのだ」



睡蓮はもう一度ありがとうと言うと柳宿の元へ駆け寄っていった。それを後ろから眺める。



「…柳宿!」

「あ!いた!探してたのよ」

「ごめんね。どうしたの?」

「ふふ、さっき都に行ってきてね、買い物をしてきたのよ」

「…都に」

「そこで、これ買ってきたの」



柳宿の手のひらにあるのは一つの簪。


「前に簪が折れちゃったって言ってたでしょ。だから新しいのをプレゼントしてあげようと思って」

「これ…私に?」

「そうよ。あたしがあんた以外に物送るなんてないわよ。色々あるもんだから迷っちゃって。睡蓮にどんなのが似合うかお店の人と話してたからいつの間に睡蓮の話になっちゃってさ」










「柳宿が楽しそうに話しているときは大概君のことなのだ」











「…ふふ」

「?なぁに?」

「ううん、なんでもない。この簪、ありがとう。大切にするね」

「気に入ってくれたなら良かったわ。長い時間選んだ甲斐があるってもんよ」

「でも私柳宿から貰ってばかり…。たまには私からも柳宿に何かプレゼントしなくっちゃ」

「あら、あたしはいつも貰ってるけど?」

「え?」

「睡蓮って存在をもう貰ってんの。あんたが隣に居るだけであたしは満たされてる。だからなーんにも要らないわ。睡蓮が居てくれたらそれでいいもの」

「柳宿…」

「ほら、後ろ向いて。挿してあげるから」

「うん」



睡蓮は後ろを向き、柳宿は睡蓮の髪にその簪を挿した。



「どう?」

「うん、似合ってる似合ってる。やっぱりその色と柄ね!」

「ありがとう、柳宿」

「どういたしまして」



幸せそうに笑う2人。その2人を見ていた井宿も優しく微笑んだのだった。


やっぱり2人は笑っているのが一番なのだ。悲しい顔は似合わない。喧嘩なんてもっと似合わない。

けれど、今回は嫉妬という可愛いもの。本人は気付いていなかったようだが。





「想い合うことは幸せなことなのだ」


END




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