Short | ナノ
「ごめん睡蓮、あれ取ってもらっていい?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう」




「ねぇ柳宿、さっきのあれなんだけど…」

「あぁ、ちょっと待ってね」

「うん」




「この間あそこでね〜」

「えぇ?本当?ふふ、おかしい」

「あたしも笑っちゃったわ」















「なんでや」

「なにが?」


美朱が現代から持ってきたプリッツをぽりぽり食べながら(物珍しいのか他のみんなもそれに手を伸ばしている。星宿はお仕事中)翼宿を見る。


「柳宿と睡蓮!!」

「が、どうしたんだよ」

「いつも通り仲がいいのだ」

「おかしいところなんてありませんよ?」

「いいや!ある!!あの言葉数!!あの少ない情報量!!ほぼ代名詞中心の会話!!」

「それがどうした?」

「あれでなんで会話が成立すんねんんんんん!!!」




翼宿には分からなかった。なぜあれで会話が成立する。なぜあれで話が続く。というかなぜ主語なしで分かる。


「俺には分からん…!」

「そんなの決まってんじゃない!」

「なんや?」

「愛よ!愛!」

「愛…?」

「愛があれば主語なんていらないのよ!!」

「けど、柳宿は睡蓮に告白してねぇし…」

「もー、鬼宿ったらー…。告白したから愛があるとか告白してないから愛がないとかじゃないんだよ!」

「そんなもんなんか?」

「でもお二人を見ていたら幸せそうなのが分かります。特に言葉なんてなくても通じる仲なんじゃないでしょうか」



張宿の言葉に翼宿と鬼宿以外がうんうんと頷く。
二人の仲の良さは公認済み。美朱と鬼宿にも負けてない。



「けどさ、なんで急にそんな話になったんだよ」

「確かにな」

「それがな、いつも俺が通るところにあいつらがおるんや」

「たまたまじゃない?」

「いやま、たまたまやと思うけど」

「それでどうしたのだ?」

「会うたんびに話しとるんや」

「そりゃ、何かしら話しているとは思いますが…」

「んで、やっぱ耳に会話が入るんや。その会話がいっつもほぼほぼ代名詞の会話やねん。なんであれで通じるか訳わからん!」

「だからそれは愛だってば」



いつまで経っても答えが見つからない。いや、見つかってるのかもしれないが。(愛という答え)



「こういう時は本人たちに聞いてみればいいんじゃないか?」




という軫宿の助言により聞いてみることにした。







2人を探し始めて数分。
まずは1人目を発見。



「おーい!柳宿!」


呼びかけに気付いたのか振り向く。


「あら、翼宿じゃない」

「ん?睡蓮は一緒やったんちゃうんか?」

「都に用事があるって言ってたからさっき別れたのよ」

「柳宿一緒に行かんかったん?」

「ついて行こうかって言ったけど大丈夫だって言うから」

「ふーん…そっか」

「で、なんか用があったから呼び止めたんじゃないの?」

「あぁ!そやった!あんな、なんで睡蓮と柳宿の会話は代名詞だけで通じるん?」

「…は?」


こいつ何言ってんのみたいな顔で翼宿を見る柳宿。


「いや、せやから…」

「二度も言わなくても聞こえてるわよ。えっと、なんで代名詞だけで会話が出来るって?」

「おん」

「んー…」


腕を組み、目を瞑って考える柳宿。それをじーっと待つ。




「言わなくったって分かるからかしら」

「へ?」

「分かんのよ、睡蓮が伝えたいこととか言いたいことって。別に睡蓮が顔に出やすいとかそんなんじゃないのよ。逆にあの子顔に出にくいし。けど、なーんか分かんのよ。不思議よね〜」



まぁ、付き合いが長いってのも一理あるかもしんないけどねと付け足し笑う。
翼宿はふーん、そういうもんなのかという感じだ。











続いて2人目。
遠くから荷物を持って歩いてくる睡蓮の姿を発見。


「睡蓮ー!」

「翼宿。どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことあってな。って、なんや重そうやな…。半分持ったるわ」

「え、いいの?ありがとう」

「ええてええて」



暫く特に会話もなく歩く。



「ところで、私に何か聞きたいことがあったんじゃない?」

「そや!あんな、なんで柳宿と睡蓮の会話は代名詞だけで通じるん?」

「え?…んーと…」



うー…と唸り考える睡蓮。もちろん歩くことも忘れない。



「伝えなくても分かるからじゃないかしら」

「え…」

「特別な言葉とか、特に必要のない言葉は無くたって伝わるのよ。あぁ、今はこの話をしててあの時のことを言ってるんだなぁって。殆ど無意識的なものだから深く聞かれると私にも分からないんだけどね」


ずっと一緒にいるからかもしれないわねと付け足して。



「…同じなんやな」

「ん?」

「…いや、なんでもあらへん」














「で、聞いた結果どうだったの?」

「んあ?」

「だから、柳宿と睡蓮に聞いたんでしょ?どうだった?」

「あー…。まぁ、なんや。お互いがお互いを理解してたっちゅーことやな」

「やっぱり、愛なんじゃない!」

「…かもしれへんなぁ」




けど、愛っていう漢字一文字で表すには薄い気がした。2人の間にある愛はそんな薄っぺらいもんではなくて、もっともっと分厚いもの。

なんたって2人して同じような回答をするんだ。言わなくても分かる。伝えなくても分かる。付き合いが長いから。ずっと一緒にいるから。

本当にお互いがお互いを分かっていて、理解しているんだなと思わされたんだ。


そして、今日もまた…。




「ねぇ、これなんだけどさ。前に見てたでしょ」

「それ、私が前にあそこで見つけた…」

「あたしもこれ見てすぐに睡蓮の顔が浮かんじゃってね。買っちゃった。貰ってくれる?」

「でもいいの?それ高かったんじゃ…」

「いいのよ!私が送りたかっただけなんだから。ほら、付けてあげるわ。後ろ向いて?」

「ありがとう。…どう?これ、似合ってる?」

「えぇ、よく似合ってるわ」



またほぼ代名詞の会話をしている。まるで、二人にしか分からない、秘密の暗号のようだ。


END




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