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柳宿と付き合っている設定





睡蓮という人物とは。

彼女は聡明で穏やかでとても戦う人には見えない。
分け隔てなく注がれるその優しさにみんなが睡蓮を慕う理由の一つ。

いつも優しい微笑みを携えて、朱雀七星士と朱雀の巫女たちを温かく見守っている。
そんな彼女に朱雀七星士も朱雀の巫女も大変懐き、慕っている。

その中でも一番付き合いが長いのは七星士が1人、柳宿である。幼い頃から一緒に育ってき、泣くも笑うも一緒だった。朱雀の巫女に仕える宿命を同じくして持ち、その宿命を互いに誇りを持っている。

そんな彼も、彼女の怒る姿などは殆ど、嫌全く見たことがないかもしれない。


そう、見たことがないのだ。








「今回ばかりは私とて許しません」


そう言って部屋を出て行く睡蓮を七星士と巫女は驚いたように見ていた。そして、怒らせた元凶である2人を他はじとりと睨むのであった。


「睡蓮が怒っちゃったじゃん!」

「睡蓮さんが怒るところ、僕初めて見ました…」

「いつも穏やかだからな」

「喜怒哀楽の怒とは無縁な人なのだ。なのに…」

「今回ばかりは私たちもどうにもしてやれんな」

「あたしなんて18年間一緒にいるのに睡蓮が怒った姿初めて見んのよ!?あんたら何やったの!」



非難の嵐に怒らせた張本人達、翼宿と鬼宿は小さくなっていた。




「俺らもわざとじゃねぇんだ!」

「たまたま!たまたまなんや!」

「だーから!何したの!」


眉間に皺を寄せ、腰に手を当てて近付いてくる柳宿を目の前に鬼宿と翼宿は顔を見合わせ言い辛そうに話しだす。



「実は…」









俺と鬼宿が廊下で必殺技のエアー練習しとったんや。


「烈火神焔!!」

「気弾!!」

「んー、もうちょいこう、腕を前に出したほうがええんとちゃう?」

「やっぱそうか?いつも素手だからよ、なかなか慣れなくて」



その後も幾度となく特訓をしたんや。それは血が滲む思い。





「血が滲もうが滲まいがどーでもいいのよ」

「まぁ聞けや!」





その時や、後ろから睡蓮が来たんや。せやけど俺とたまは特訓に夢中やったから気付かんかった。

睡蓮の方は俺らが廊下で特訓してるのに気付いて引き返そうと俺らに背を向けた。向けたと同時に俺が鉄扇を振り被ったんや。





「それでそれで?」





その鉄扇が運悪く睡蓮の首に掛かってたであろう首飾りに引っかかったねん。俺はそれに気付かんかったからそのまま振り下ろそうとしたん。んなら、その首飾りが睡蓮の首から取れて鉄扇と一緒についてきたねん。



「あ…っ!」

「よっしゃーー!烈火神焔!!」

「んなもんにこの俺が負けるかぁぁ!!」



睡蓮が着けとった首飾りがプラスされた俺の鉄扇はそのままたまに真っしぐら。向かってきた鉄扇をたまが拳で受けた。その時に、たまの拳で首飾りが割れてもうたねん。



パリン



「パリン?」

「なんの音や?」

「あ?これ…硝子か?」

「ん?おぉ、ほんまやな!やけど、なんでこんな所に…」

「んー…。ん?お!睡蓮!どうしたんだよ!」

「なんや睡蓮!居ったんか!どないしてん」

「それ…」



睡蓮が指差したんは割れてしまった首飾りや。


「あ?あぁ、これがどないしたん?」

「それ…、大切な…」

「もしかして…これ睡蓮のもんだったのか!?」




たまの手のひらの中にある、もう割れて元通りにならんそれを見て顔を歪めた後睡蓮は走り去って行ったんや。

で、その後みんなでここで集まった時に最後に睡蓮が来て、さっきに至るっちゅーわけや。




ゴンッゴンッ!!



「いったぁぁぁぁああ!!」

「なにすんだよ!!柳宿!!」

「ちゅーわけや。じゃないでしょーが!!何綺麗にまとめてんのよ!!」

「せやかてこんな思っきし殴らんでもええやんか!!」



頭にコブ一つずつ作り涙目な鬼宿と翼宿。その2人に怒る柳宿。その姿を後ろで眺める美朱、星宿、井宿、張宿、軫宿。



「けど、あんなに優しい睡蓮が怒るんだもん。その首飾りよっぽど大事だったんじゃ…」

「でなければ、あの睡蓮があそこまで怒ることもあるまい」

「一体どんな首飾りを壊したのだ?」

「もしかしたら、誠心誠意睡蓮さんに謝れば許してくれるかもしれませんよ」

「出て行き際に許さんって言ってたけどな…」

「壊れた首飾りってのはこれだよ」



鬼宿がポケットから出す。それをみんなで覗き込み見やる。


「わー!綺麗!これ、睡蓮の瞳と同じ色の翡翠色じゃない!」

「誠に美しい…」

「とても綺麗なのだ!」

「睡蓮さんによく似合いますね!」

「あいつは色が白いからな。こういう色がよく似合う」

「この首飾り…」

「柳宿知っとるんか?」

「…これは、あたしが初めて睡蓮にあげたものよ」

「「「「えええええ!!!」」」」



翡翠色の首飾り。忘れもしない、初めて睡蓮にあげたもの。あの子の綺麗で澄んだ瞳の色と同じ色。一目見て気に入って、幼いながら一丁前に睡蓮に渡したのがまるで昨日のよう。



「まだ、大切に持ってくれてたのね…」


柳宿の手に渡った、もう形のない首飾り。指でそっと撫でる。



「…その、すまんかった、柳宿」

「俺も、ごめん…」



いつもの元気が嘘かのようにしょんぼりする2人。そんな2人を見て柳宿は小さく笑うと軽くポンポンと拳の裏で頭を叩いた。


「あたしに謝ったって意味ないでしょ。謝る相手、間違ってんじゃない?あたしも一緒に行ってあげるからそんなしょげなさんなって」

「「柳宿ぉぉぉおお〜!!」」

「抱き付くな!!気持ち悪い!!」

「「あだっっ!!」」

「その代わりと言っちゃなんだけど、ちょーっと付き合ってもらうわよ」

















「…はぁ」


首元を触る。いつもあるものがない。当たり前だ。だってあの時壊れちゃったのだから。


「宝物、だったのに…」


柳宿…、柳娟が初めてくれた首飾り。まだ、康琳もいて柳娟が柳娟だった頃。差し出されたものは綺麗な翡翠の首飾り。そのころじゃ高かっただろうその首飾りを私に似合うだろうからと買ってプレゼントしてくれた。
とても嬉しくて肌身離さず今まで持ってきた。


「でも…、いくらなんでも大人気なかったもしれない…」




あんな言い方…、きっと二人を傷付けた。


「…謝らなきゃ」







池の畔で佇んでいる睡蓮の後ろ姿を3人は見ていた。
なかなか踏み出せない2人、その様子を最初はまぁ仕方ないかと見ていたが段々イライラしてきた柳宿。



「だーーっ!焦れったいわね!!男だったきちんと言わなきゃいけないことくらいパパッと言いなっさい!!」


ドンっ!!


「「おわぁぁああ!!」」



ドシャーーッ



「え?」




振り返れば柳宿に突き飛ばされ顔面スライディングをした鬼宿と翼宿。
どこかやりきった感のある柳宿。



「な、何すんねん柳宿ぉぉぉおお!!」

「己は自分の力を知れと言っとるだろーがぁぁあ!!」

「ただ見てるだけで行動に移さないあんたらにだけは言われたくないわ!!」




「柳宿、鬼宿、翼宿…。どうしたの…」

「ふぅ。睡蓮、この馬鹿2人の話、聞いてやってくんない?」

「え…」



見れば睡蓮に向かって正座をしている。そしてガバッッと頭を下げた。それはもう地面に食い込むんじゃないかというほどに。




「すまんかった!!睡蓮!!」

「ごめん!!睡蓮!!」

「え、え?」

「柳宿から聞いたんだ…。あの首飾りは柳宿から初めて貰った物だって」

「そない大切なもん、何年も持ってたのに俺らが一瞬で壊してもーて…、ほんまにすまん!!」




困惑した表情で二人を見た後、後ろで立つ柳宿にも目をやる。柳宿は片手を腰の横に当てて困ったように笑うだけ。


「こいつらもこいつらなりに反省してるのよ。許してあげてくれない?」


もう一度鬼宿と翼宿。とても気まずそうな、申し訳ないような顔をして座り込んだまま。そんな二人を見て、ふふっと小さく笑ってしまった。



「私の方こそ、ごめんなさい」

「え…」

「あんな言い方、いくらなんでも大人気なかったわ。ただ、何年も大切にしていたものだったから、ショックが大きくて…。本当に、ごめんなさい」

「睡蓮が謝る必要なんてあらへん!!」

「そうだ!俺らが謝んなきゃいけねぇんだから!」

「ふふ、じゃあお互い様ってことにしておきましょう。ね?」

「…それで、ええんか?」

「えぇ、いいの」


優しく微笑む睡蓮。安心させるように笑いかけるその顔に鬼宿も翼宿もやっと顔に笑みを浮かべた。




「じゃあ、この話はおしまいね!あと…、睡蓮、これ代わりと言っちゃなんだけど…」


柳宿がポケットから何かを取り出し睡蓮に後ろを向くように言う。言われた通り素直に後ろを向く。後ろから腕を回され首に何か掛けられる。



「! 柳宿、これ…」

「初めてあたしがあげたのは壊れちゃったでしょ?だから、代わりに新しいのをあたしから睡蓮にプレゼントするわ」


首元に光る綺麗な翡翠色と菫色。


「あたしと、睡蓮の色よ」


気に入ってくれた?と、茶目っ気に聞いてくる柳宿に、睡蓮は目に嬉し涙を浮かべ、柳宿に抱き着いた。そんな睡蓮を優しく抱き留める。


「ありがとう、柳宿!大切にするわ」

「えぇ」




一件落着、と綺麗に収まった。
が、柳宿がそこで2人を離すわけもなく、最後に忠告するのだった。


「ただし、次睡蓮のなんか壊したらあんたらの骨のどっかが壊れるってこと覚えておきなさいよ」

「「はっはいぃぃぃいい!!」」






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