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その人は皇帝陛下のお側に居て、常に矛となり盾となる。
力量もあり、才もある。
いつも忙しそうに働き、そして誰にでも平等に笑い、話す。
そんな彼はいつでも人に慕われ愛されていた。





「陛下、こちらの書類を分類しておきました」

「あぁ、ありがとう。睡蓮、お前もそろそろ休んで良いんだよ」

「いえ。陛下が執務をなされているのいうのに私が休むなど出来ません」




彼は真面目だ。何事にも熱心に取り組み、しかし程よい息抜きも忘れない。



「では、私も休憩するとしよう。睡蓮、共にお茶でも飲まないか?」

「そんな、」

「良いんだよ。私がしたいと言っているんだ。どうだ?」

「畏まりました。では、今お茶の準備をして参ります」

「ありがとう」



一礼をして執務室を出る。少し急ぎ足で廊下を歩く。後ろから声がかかる。



「あ!睡蓮!」



振り向けばそこには美朱と鬼宿と翼宿の姿。



「美朱様、鬼宿、翼宿。どうされました」

「たまたま見かけたから声掛けてみたの!」

「珍しいじゃねぇか。お前が星宿様の側を離れてるなんて」

「お茶の用意をしようと思って。あぁ、そうだ。3人も一緒にどうだ?」

「俺らもええんか?」

「陛下のことだ、多い方が楽しまれる」

「わーい!あ、じゃあ柳宿も呼ぼうよ!井宿は太一君のとこだし、張宿は勉強してるし、軫宿は隣の村に診療で行ってていないから呼べないけどさ!」

「そりゃいいや。柳宿も呼ぼうぜ!」

「じゃあ俺が呼んでくるので、美朱様たちは先に陛下の元へ」

「うん!」

「ほなな!」




そのまま3人に背を向けて柳宿の部屋へ向かう。睡蓮と柳宿は昔からの幼馴染。お互い仲が良く、考えていることも分かるほど。柳宿は睡蓮になんでも話せ、睡蓮もまた柳宿になんでも話せた。




コンコン



「はーい?」

「睡蓮だ」


部屋の主が扉を開けて顔を出す。




「睡蓮じゃない!どうしたの。今仕事中なんじゃ」

「陛下が休憩しようって言って。それでお茶をするんだけど柳宿もどう?」

「あら、いいの?」

「いいよ。美朱様たちもいるんだ」

「ならお言葉に甘えようかしら」

「陛下の元へ行く前に給湯室に寄りたいんだけどいい?」

「いいわよ」




二人は柳宿の部屋を出て給湯室へ。





「んー、どのお茶がいいかな…」

「そうねぇ…。これなんてどう?」


柳宿が選んだのは白鶏冠(はっけいかん)。




「あと味もすっきりしてるから飲みやすいわよ」

「そうだな、それにしようか」



急須に茶葉を入れて湯を入れる。その間柳宿は人数分の湯呑みを用意する。



「お茶菓子どうする?」

「この間作った老婆餅を用意するよ」

「あ、あれあたし昔から好きだわ。睡蓮が作った老婆餅って他のとはなんか違うのよね」

「特別なことは何にもしてないんだけどなぁ」




カチャカチャと音を鳴らして用意し、お盆に乗せる。



「さて、じゃあ行こうか」

「あたしも持つわよ?」

「いいよ、大丈夫。その代わりなんだけどあっちに着いたら扉開けてくれる?」

「分かったわ」



星宿達がいる執務室まで歩き、部屋に着くと柳宿が扉を開けてくれる。






「お待たせ致しました、陛下」

「ご苦労、睡蓮。柳宿も」

「あたしは何もしていませんわ。ほとんど睡蓮がしましたの」

「そうか。睡蓮、今日は何にしたんだ?」

「はい。今日は後味がすっきりしている白鶏冠と、お茶菓子に私が作りました老婆餅をご用意致しました」

「老婆餅か。あれはとても美味しい。特に睡蓮が作る老婆餅は格別だ」

「もったいなきお言葉に御座います」



湯呑みにお茶を注ぎ、座っているみんなの前に置いていく。真ん中に老婆餅を置けば、さぁお茶の始まりだ。

この人数でお茶をするのは初めてのこと。





「このお餅美味し〜!!睡蓮すっごく美味しいよ!!」

「それは良うございました」

「本当に美味いな!何個でも食べれるぜ!」

「沢山あるから遠慮しないで食べてくれていいから」

「こんな美味い餅食べたん初めてや!睡蓮料理できんねんな!」

「並だけどね」

「いつもながら睡蓮の作る菓子は美味しいな。今度は茶点が食べたいな」

「では次は茶点を御用致しましょう」

「昔を思い出すわ。よく作っては持ってきてくれたものね」

「柳宿はいつも美味しいって言ってくれるから作り甲斐があるんだ」



パクパクパクとみんなが茶菓子を食べていく。お茶も飲みながら。




「そういえば」


そこで星宿が思い出したように声を出す。みんなの目が星宿に向く。


「どうしたの?星宿」

「いや、睡蓮」

「はい?」



お茶を飲んでいた睡蓮は湯呑みから口を離し星宿を見る。




「お前、婚儀なんていつの間に挙げたのだ」

「「ブーーーッ!!」」

「ゴホッゴホッ!」

「なになに!?どういうこと!星宿!睡蓮!」



鬼宿と翼宿はお茶を吹き出し、柳宿は気管に入ったのか咳き込む。美朱は興味津々といった様子で星宿と睡蓮に詰め寄る。



「え、婚儀?」

「睡蓮!いつの間に婚儀なんて挙げたの!?あたし聞いてないわよ!」

「え!?いや、婚儀って一体…」



柳宿に詰め寄られるが睡蓮は身に覚えがないのか狼狽えている。



「婚儀を挙げたのではないのか?兵から聞いたのだ。お前がつい先日祝いの花を貰っていたと」

「花を…?」



睡蓮は記憶を呼び起こし、過去を思い出す。花…、花…?


「あ…」

「なんだ、なんか思い出したのか?」

「いや、そういえば花貰ったなって…」

「やっぱり花貰ってんじゃない!」

「や、でも、その花は弟から貰ったんだ」

「弟ぉ?」

「苞明くんが?」

「どういうことなのだ」

「実は…」











「睡蓮様」


呼び止められ、振り向く。そこには宮殿の兵が。



「どうした?」

「それが苞明と名乗る少年が睡蓮様とお会いしたいと」

「苞明が?」




門の方へ行くと苞明が立っていた。



「苞明」

「兄上!」

「どうしたんだ?」

「実は渡したいものがあって」

「渡したいもの?」

「うん!はい、これ!」



目の前に出されたのは色とりどりの花。しかしその花というのが…


「兄上、もうすぐ誕生日でしょ?だから早いけど渡しに来たんだ!」

「ありがとう。でも、この花婚儀の時の花だぞ?」

「え!?うそ!」

「本当。なんだ、店の人に聞かなかったのか?」

「お祝いに花が欲しいって言ったらこれなんてどうだって言われて…。綺麗だったからそれにしたんだ」

「きっと店の人も祝いっていうから婚儀の事だって勘違いしたんだな。最近は婚儀が沢山あるから」

「う〜…、兄上ごめんなさい」



しょぼんとする苞明を見て笑い、頭を撫でてやる。


「そんなこと気にしないさ。苞明が選んでくれたならなんでも嬉しいよ。ありがとう」

「ううん!えへへっ」

「さ、もうすぐ日も暮れる。暗くなる前に帰りなさい」

「うん!じゃあまたね!」

「またな。気をつけて帰るんだぞ」

「はーい!」












「てことがあって…」

「なーんだ!じゃあ誕生日プレゼントに苞明くんから花を貰ったってわけね!」

「はい」

「焦ったー…。睡蓮が結婚なんていつの間にって思ったぜ」

「ほんまやで。いつも仕事仕事やのにいつの間に相手見つけたんかと思ったわ」

「ごめんごめん。まさかそれを見られてるなんて思わなかったからさ」

「そうだったのか。勘違いをしていたのだな」

「紛らわせてしまい申し訳ありません」

「はぁ、びっくりしたわ…。本当に婚儀を挙げてたならなんであたしに言わないのって怒るとこだった!」

「ちゃんとそういう相手が出来たら1番に柳宿に言うよ」

「約束よ!」

「うん」

「でもさぁ、睡蓮ってカッコいいから良い人なんてすぐ出来ちゃいそう!」

「確かになぁ。男の俺らから見てもかっこええなって思うときあるし」

「なんつーの?男気ってのがあるよな」

「それに睡蓮は才もあれば武にも長けているからな」

「いつか睡蓮も結婚して誰かと家庭を作るのねぇ…」



それぞれが口々に言う中、言われている本人は目をぱちくりさせ、微笑んだ。






「今は婚儀をするよりも大切なことがあるさ」

「大切なこと?」

「朱雀の巫女・美朱様を護り、巫女を護る七星士を護り力を与えこの国の繁栄を願うこと。それが何より大事でそれ以外に今しなければならないことなどありません」

「睡蓮…」



じーんとする5人。鬼宿と翼宿は目に涙を浮かべている。



「お前ほんまにおっとこまえやなぁ!!」

「俺お前を見習うよ!!」

「睡蓮ったら本当に良い人過ぎ!!」

「お前がいるからこそ、我々は戦え、前に進んで行ける。感謝している」

「護るのがあんたの仕事かもしんないけど、あたしにだってあんたの背中護らせなさいよ!」

「ははっ、うん」



その後も6人は仲良くお茶をし、兵が覗きに来るまで話していた。

END





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