美朱が熱を出してから三日後。
星「では留守の間城を頼むぞ」
部「御衣」
美「あたし馬に乗るの初めて!お兄ちゃんのバイクには乗ったことあるけど!」
星「そうか…でも良かった。歩けるようになって」
美「うん、なんかごめんね、心配かけて!でも起きたら体も元気だし万全万全!」
「熱が下がられて良かったです」
美「睡蓮にも心配かけてごめんね」
「いいえ、良いのです」
それぞれが馬に乗り、美朱は星宿の馬に乗せてもらう。
睡蓮は後ろから鬼宿と美朱の様子を見ていたがやはりまだどこかぎこちない。
ふぅとため息をついた。
柳「溜息なんてついてどうしたの」
「あの二人がね」
柳「あぁ、美朱と鬼宿ね〜。ったく、いつまであの状態にしとくんだか!」
「なんとかしないと駄目よね…」
柳「森に入ったらなんとかして2人にしてあげましょう」
「そうね」
1日馬に乗り、森に着く。
辺りは暗くなり、日も沈んだ。
星「…すっかり日が暮れたな。今日はここで野宿するか」
明らかに鬼宿と離れた位置にいる美朱に柳宿は後ろから声をかけた。
柳「美朱」
美「わ!」
柳「この近くに泉があるのよ。折角だから水浴びでもしてきたら?そこは治癒力があるって昔から言われてて入ったら今日の疲れも吹っ飛んじゃうわよ!」
美「治癒力の泉が…。うん!ありがとう!ちょっと行ってくるね!鬼宿達には内緒ね!」
タオルを持って手を振りながら美朱は泉へと向かった。
「あら?美朱様は?」
柳「美朱なら泉に向かったわ」
「泉に?」
柳「そ!治癒力のある泉があるから水浴びしてきなさいってね」
「それはいいわ。慣れない馬で疲れただろうし」
柳「で、後はたまちゃんね!」
柳宿はゆっくりゆっくり寝ている鬼宿に近付いていく。
睡蓮はそれを柳宿の後ろから見ていた。一体何をするのだろうと。
するとガシッと鬼宿の足首を掴み引っ張っていく。
そのせいで鬼宿は地面に頭をぶつける。
柳「ほらほら!睡蓮も行くわよ!」
「あ!待って!」
鬼「なにすんらお前はーーーっ!!」
柳「美朱からの伝言!「林の奥の泉で待ってるわ!」以上!」
鬼「なっなんで俺が!!」
柳「男なら女に恥かかせんじゃないわよ!じゃあね!行くわよ、睡蓮!」
「はいはい。じゃあね、鬼宿。きちんと仲戻すのよ」
鬼「うっ…」
どこか睡蓮に弱い鬼宿は言葉に詰まりながら去っていく二人を見ていた。
二人はと言うと、柳宿が睡蓮の手を引っ張り泉の近くの木の下まで行く。
「こんなところまで来てなにするの?」
柳「この上から見ててやるのよ」
「…まさか、覗き見?」
柳「と言う名の経過観察よ!」
「変わらないじゃない…;;」
柳宿に言われて渋々木の上へ登る。
どうやら二人は話が出来て何とかなったようだった。
柳「鬼宿もそこで止める!?そこは一気に押し倒しなさいよ!」
「ちょ!何言ってるのよ柳宿!押し倒すなんて!」
柳「あーら、なぁに?睡蓮ったら顔赤くしちゃって!」
「あ、赤くなんて!」
柳「隠したって無駄よー!私にはなんだって分かるんだから!」
「だから赤くなんてなってないってば!」
柳「あ!なんでそっち向くのよ!こっち見なさい!」
「嫌よ!」
メキメキ
バキッ
「「え…」」
ドサッッ
「いたたた…」
柳「睡蓮、平気?;」
「な、なんとか…; 柳宿は?」
柳「私もなんとかね。あ…」
「? あ…」
美「ぬっ柳宿!?睡蓮!?ってまさか…あーー!!計ったわね!!」
柳「だってあんたカンッタンッに人のこと信じるんだもの!」
美「ありがとう!!」
がばっと柳宿に裸のまま抱き付く美朱。
柳「ちょっちょっと放しなさいよ!!」
美「だって!」
その時、ぱらりと柳宿の羽衣が乱れ、前が見えてしまう。
美朱は目が点になる。
美「おっおっ男!!?」
柳「バ、バレたらしょうがないわね!私は男!それがどうしたっていうの!」
美「もしかして…オカマ…。はっ!じゃっじゃあ睡蓮ももしかして!!」
「私は正真正銘の女です!」
美「なんだ、良かった…!って、睡蓮柳宿が男って知ってたんじゃ!」
「えっと、柳宿から内緒にされていたものですから…」
美「えーー!!てか、おっ男のくせに星宿が好きなのあんた!しかも鬼宿にキスまでしてっ!」
柳「愛のためなら男の道も踏み外すわ!」
美「あ、頭痛くなってきた…。私これから先無事に太一君のところまで行けるのかな…」
「その点はご安心くださいませ、美朱様。この睡蓮が何としてでも美朱様を太極山にいる太一君の元までお連れいたします。そして必ずや元の世界へとお返し致します」
美「睡蓮!!もう睡蓮大好き!!」
やはり慣れない旅、現代人である美朱にとっては苦痛以外の何者でもなかった。
美「いつになったら太一君のいる太極山につくのよ。早く元の世界に帰りたいよォ…。疲れ果てて食欲も湧かないわ」
鬼「嘘つけ!こんだけ食っといて!金のかさばる奴だな!」
柳「まーまー美朱の食欲旺盛なのが今に始まったことじゃないでしょ」
「これだけ食べられれば体力的には問題ありませんね」
美「あれ?星宿は?」
柳「あら?そういえば」
「いらっしゃらないわね…。どこに行かれたのかしら」
美「私見てくるね!」
「お気をつけて」
美朱の食べた食器を綺麗に整頓しながら睡蓮は口を開く。
「柳宿が探さなくてよかったの?」
柳「私が?なんで?」
「だって、柳宿は星宿様が好きなんでしょ?好きな人なら探すんじゃないかと思って」
柳「あぁ〜…、ん、まぁいいのよ」
「?」
首を傾げてまた机に向かう睡蓮の後ろ姿を柳宿は優しい目で見ていた。
確かに、自分は星宿様が好き。でも、この好きはきっと憧れとかそんな好き。恋愛感情ではないのは自分がよく分かってる。
自分が昔から心に想っている相手は変わらない。
柳「(まぁ、鈍い子だから気付かないでしょうけど)」
誰よりも大切で、誰よりも護りたいと思う相手なんてあんたしか居ないのよ。
美朱と星宿が戻ってきて、再び歩き出した一行。
睡蓮が柳宿と雑談をしていた間に鬼宿は美朱に何かを言ったのか美朱は鬼宿に平手打ちをかまして走って行った。
「もう、何してるの鬼宿。美朱様に何言ったの?」
鬼「な、何って別に…」
柳「別にってわけないでしょうよ。あの子あんたの頬叩いて走ってったのよ?」
「また美朱様に気に触ること言ったんでしょ、謝りなさいね」
鬼「わかったよ…」
柳「あんたなんか知らないけど睡蓮には素直ね」
星「…柳宿、睡蓮、変だと思わぬか」
柳「いいえ!私達とてもお似合いだと思いますわ!」
「そうじゃないでしょ、柳宿」
星「睡蓮、感じたか」
「はい。まだ昼間だというのに霧があります…。可笑しいですね」
柳「そういえば…。それに先ほどから同じところを歩いてるような気がしますわ!」
「この状態で美朱様に何かあれば危険です。探さなくては」
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