幻「…残念やったな。でも死んでもうたもんは戻ってけぇへん。…頭はもう、戻ってけぇへんねん」

柳「…星宿様…」

星「…っ」



もう、死んでいない。なら、あの時どうして玉に反応があったの。1ヶ月も前に亡くなっていたなら、もう反応なんてしないはず。反応があったなら、それは生きているということ。

もし生きているというのなら、なぜ隠すの?隠さなければならない理由がある?






攻「そや幻狼。なんやったら夜が明けたら頭の墓行くか。お前も会いたいやろ」




みんなでレイ閣山の頭の墓へと向かう。そこには一つの棺が。
その中に、探していた五人目の七星士がいる。


幻「頭…」

美「…どうしようっ」

柳「どうします、星宿様。翼宿が居なくては…」

星「うむ…。しかし死者を蘇らせるわけにもいくまい」



悩みあぐねる美朱達にレイ閣山の山賊が口を漏らす。


「あの、頭。聞いた話なんでっけど」

幻「なんや」

「北の張宏でなんや妙な力で病気を治したり死んだ人間生き返らせたりする奴がおるとかおらんとか…」

美「え!?おじさんそれマジ!?」

「ま、まぁ根も葉もない噂やがな!」

美「だったら確かめにその張宏へ行くわ!」

柳「美朱!」

美「今は1%の可能性でも縋りたいもん!当たって砕けろよ!!でも、その前にご飯を一杯」


みんなが美朱の場違いな言葉に転ける中、睡蓮は神妙な顔をしていた。どうにも信じられなかったのだ。死者を生き返らせる方ではなく、もう翼宿が死んでいるという事を。
その姿を幻狼はじっと見ていた。

















「では、張宏へ参りましょうか」

美「うん!…じゃあみんな!元気でね!」


去っていく美朱達を見送るレイ閣山の山賊達。本当に信じるとは思わなかったのだろう。口々に信じられないと零す。


「ほんま信じて行ってもうたわ!」

「あの娘、純粋ちゅうかアホちゅうか…」

「ペース狂うたなぁ。現に俺ら「山賊」ちゅう職業忘れとったがな!飯までご馳走してもうたし」

「まぁええ。幻狼が頭になったんやし、俺らも安心や!」



未だ美朱達の去った方向を見る幻狼。その後ろ姿を攻児は見ていた。



攻「…朱雀の巫女か…。光の守護・一等星も居ったな。ほんまは一緒に行きたかったんちゃうんか、幻狼!」

幻「アホ抜かせ!俺は頭や。先代の意志もお前らも捨てられっかい!第一女は嫌いや!」


立ち上がり、攻児の側から離れようとする。そんな幻狼に攻児はそれで本当にいいのかと再度問いかけるも、幻狼は何も反応を示さなかった。










美朱達は暫く馬で走り、休憩を取っていた。
木の幹に座り、美朱は鬼宿が書いた手紙をずっと見ていた。


星「美朱、ほら川の水だ。冷たくて美味いぞ」

美「ありがと」

星「…鬼宿の置き手紙を、見ていたのか?」

美「う…うん」

星「大丈夫だ。すぐに会えるよ。張宏までまだ少しある。力を蓄えて病にかからぬよう気をつけるんだよ」



美朱と星宿の姿を実は近くで見ていた柳宿と、柳宿に連れられ聞いていた睡蓮。

美朱の後ろからぬっと出てきて(主に柳宿が)目に涙をためる。



柳「なんっか最近いじらしいわよね!星宿様!」

美「わっ!!」

「驚かせてしまい申し訳ありません、美朱様」

美「柳宿、睡蓮!…ねぇ、柳宿は怒ってないの…?」

柳「そりゃショックだったわよ!でもねー、「負けた」って感じよ。あれじゃ例えあたしが女でも入り込む隙が無いわよね。…それに、あたしにはもういいのよ」

美「良いって…、あ…!柳宿やっぱり!」

柳「しー!今はまだ内緒よ。なんたって鈍い子なんだから」

「?なんの話ですか?」

美「うぇ!?い、いやぁ!なんでもないよ!」

柳「そうそう!星宿様のことに関してはなーんにも怒ってないわ!ってことを言ってたの!」

「そう」



休憩もそこらへんにして四人はまた馬に乗り張宏を目指した。




「ここが張宏のようですね」


ついた村は閑散としており活気がない。村人の声がする方向を見れば担架を運んでいる。また別の方向へ目をやれば青い顔をして項垂れている者もいる。






「これは…酷い…」

星「こんな状態になっているとは…」

柳「美朱!見て、玉が…」



柳宿の見せる玉には癒という文字が。


美「ってことは、この街に朱雀七星の1人がいるの!?」

「もしかすると、噂の力を持っている方かもしれませんね」

美「やっりぃ!!一石二鳥じゃん!」

「きゃっ」



美朱の上げた腕がたまたま後ろにいた人にあたり、その人はその場に倒れてしまった。


美「あーーっ!ごめんなさい!!」

「いえ…、私の方こそ」

「お怪我はありませんか?」

「はい、すみません」



睡蓮が手を出し立ち上がらせた瞬間、その女性の後ろに美朱が周り、あろうことか胸を掴んだではないか。


星「美朱!!」

美「だって過去に2回も騙されてるからー!本当に女かと思って!」

柳「どっどーも重ね重ねすみません!」

「悪気があったわけではありませんので!」



悪びれのない美朱に対し、柳宿と睡蓮が代わりに頭を下げて謝る。
すると、顔色の悪いその女性はふらりと体が傾く。
前にいた睡蓮が思わず支える。






「っ、大丈夫ですか?」

美「え!ど、どしたの!?あたし変なとこぶった!?」

「いいえ…、大丈夫です。じゃあ急ぎますので」

「そんなフラフラの体では危険です。いつ倒れてしまうか…」

「でも、私すぐに揚さんのところへ行かないと」

「…その揚さんという方の家はどちらでしょう?」

「え?」

「折角ですのでお送りいたします。歩くのも辛いでしょう。私の後ろにお乗りください」



睡蓮はその場にしゃがみ込む。



「そ、そんな!申し訳ないです!」

「お気になさらずに。さぁ、どうぞ」

美「睡蓮、あたしがおぶるよ?」

「美朱様にそのような事はさせられません。この睡蓮にお任せを。さぁ」

「…ありがとうございます」



女性は睡蓮の背中に乗り、乗ったのを確認したら睡蓮は立ち上がり歩みを進めた。


「申し訳ありません。すこし寄り道をしても構いませんか?」

美「もちろん!」

柳「構わないわよ」

星「放ってはおけぬしな」

「ありがとうございます」



ずり落ちてくる度にまた抱え直し、歩き続ける。そんな睡蓮を後ろから女性は見ていた。


「……とても、美味しそうな気ですこと…。光の守護・一等星さん…」

















「あ、あそこが揚さんの…」



女性が指差す家を確認し、その家へ向かう。
家の扉を開けるとまるで待っていたかのように家のものが出てくる。
睡蓮はゆっくりと女性を降ろす。




「少華さん!!」

「良かった…!来て下すったんだね!」

「…苦しみ出したと思ったらあっという間に…っ」

少「大丈夫。任せておいて」



少華はゆっくりとその死人に顔を寄せると口付けをした。するとどうだろう。死んでいたはずの人間の指が動き、目を開いた。





美「生き返った!!」

星「これは一体…」

「たいしたもんじゃ。…ここ1ヶ月、原因不明の病が流行ってな。高熱の後体の一部が麻痺してしまう。話では妖怪物の怪の類の仕業らしく、医者では治せんのじゃ。じゃが、あの少華さんは病は治せぬがあぁして死者を生き返らせることが出来る。しかも生前の元気な状態に戻るんじゃ。病に苦しむぐらいなら、いっそ死んで生き返らせてもらう方がどれほど良いか…」

「まさか、本当にこんな力が存在していたなんて…」

柳「やったね、美朱!早速頼んで…」

美「少華さん!!」



柳宿が振り向けば美朱が少華を壁ドンしているところだった。


柳「い、いつの間に…;」

「美朱様は行動がお早いから…;」

美「お願い私と一緒にレイ閣山に来て下さい!生き返らせて欲しい人がいるの!!」

少「こ、困ります。行って差し上げたいのはやまやまですが…、私はこの都から出られません。この都の人達をおいて行けないのです。それに…、一歩でも出たら私の力は失ってしまいます」



少華の言葉を聞いた美朱はだったらここに翼宿を連れてくると言い家を出た。幻狼達に頼み棺ごとこちらに持ってくると。
その後を追いかける柳宿、睡蓮、星宿。

家を出たはいいものの、辺りは枯れた木々だらけ。どうにもこの先に道があるようには見えないのだ。




柳「美朱、待って!ここどーやらお墓みたいよ」

星「道を間違えたか…。美朱!一回戻ろう」

美「んなヒマはないわ!早く戻って翼宿を連れて来なくっちゃ!」

「しかし、迷ってしまっては元も子も……っ!」


急に体が重くなり、ガクンと足から地面に付いてしまい、体が倒れる。



柳「睡蓮!?」

星「どうしたのだ!」

美「どうしたの、睡蓮!」


倒れ込んだ睡蓮に駆け寄る。柳宿が睡蓮を抱き起こし、顔を見る。




柳「睡蓮!しっかりして、睡蓮!」

「う…っ、なんだか…、体が重くって…」



睡蓮の額に手を当てるととても熱い。急な発熱に驚きを隠せない。


柳「…熱だわ!」

美「村に戻ろう!このままじゃ睡蓮が…っ!」

星「美朱の言う通りだ。すぐに村に戻って…っ」


突然背後から馬の鳴き声が聞こえる。振り返って見れば地面から出てくる手に馬が飲み込まれていっている。なす術のない馬はそのまま地面へと消えていく。

月々と手は増えて行き、睡蓮たちに襲いかかる。慌てて柳宿は睡蓮を抱き上げ立ち上がる。

















肉をくれ、もっとくれ…。
出させん、この都から。
お前たちの肉を、肉をくれ…。



















柳「っ、これも妖怪物の怪の仕業ってわけ?睡蓮が今こんな状態だっていうのに…っ」

「…ぬり…こ、」

柳「睡蓮!」

「私を置いて…、逃げて…っ」

柳「何言ってんの!?そんな事できるわけないでしょ!!」

「でも…、私がいたらっ、足手纏いになるわ…っ!」

柳「置いて行くもんですか!あんたをこんなところに一人置いて行くなんてこと、絶対にしないわ!!」




まだ妖怪の手が伸びていないところへ睡蓮をそっと横たえらせる。


柳「待ってて。すぐに始末して戻ってくるから」

「ごめんね…」

柳「いいの!」



柳宿は近くにあった大木を掴み、妖怪へと振り下ろす。
星宿も美朱を庇いながら妖怪と戦う。

しかし幾ら何でも数が多い。倒しても倒しても地面から這い出てくる。




柳「これじゃきりがないわ!」

美「一体どうしたらいいの!?」

星「一人一人倒していてはらちがあかぬ!」



とうとう睡蓮の元までその手が忍び寄る。来る気配に気付いた睡蓮は体を起こし前を見据える。しかしいかんせん体が重く鉛のよう。いつものように攻撃が出来ない。



「っ、こんな体じゃなかったら…っ」

柳「睡蓮!!逃げて!!」

星「逃げろ!!睡蓮!!」

美「睡蓮!!」





捕まる。そう思った瞬間、辺りは火の海。群がっていた妖怪物の怪は一瞬にして灰と化した。



幻「んまに、こんな事やと思たで!」

星「幻狼!」

美「幻ちゃん!!来てくれたのね!」

幻「ほんまは来る気なかってんけどお前らだけやったら頼りないさかいな!正解やったわ。話し合うて攻児が頭になったんや。先代も…許してくれはるやろ」

「どうして…」

幻「アホ、まだ分からんのか。「翼宿」は俺や。幻狼はニックネームや。騙してすまんかったな」



腕にある「翼」の文字。それを見た一同は声を上げる。もっと早く言えよと。



「「「あーーーーっ!!!」」」

柳「何でもっと早く言わなかったのよ!!ボケーーーッ!!」

星「全く苦労かけおって!!」

美「本当だよ!!だったらわざわざここに来る必要なかったじゃん!!…あ、いや、六人目ここにいるから来て良かったのか」

翼「しゃあないやろ!!俺かて頭にならなあなんかったんや!先代とみんなの意志無視して出来るか!?…でも、攻児やみんなは「行ってこい」言うてくれたんや」

「そうだったの…。来てくれてありがとう。でも、どこに字があるの?」

柳「え?」

美「睡蓮、今目の前に見せてくれてるよ?」

星「美朱の言う通りだ、睡蓮。お前の目の前にあるぞ」




睡蓮の言葉にみんなは困惑する。確かに美朱の言う通り、翼宿は目の前に腕を出し、文字を見せてくれているのだ。



翼「何、ゆうとんねん。ほら!見せとるやんけ!」

「え…?…ごめんなさい、良く、見えなくて…」

柳「…まさか…、」



柳宿の頭に過るよは先ほど村の人が言っていた言葉。

『高熱の後、体の一部が麻痺してしまう』





柳「……失明…?」



信じたくないことが、起きてしまった。



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