柳「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「平気平気!柳宿は心配性なんだから」

柳「当たり前でしょ!あんた連れ去られたんだから!」

「あれは私の力不足で、私の責任。もっと力があれば周りにも、柳宿にもこんなに心配かけなかったわね…。ごめんね」

柳「…、はぁ、いいの。こうして戻ってきてくれたんだから、それ以上は望まないわ」

「これからは、気をつけるね」

柳「えぇ」










星「七星を四人で捜しに行く!?」

美「うん!充分に休んだしね!ごめんなさい、四神天地書無くしちゃって。でも、太一君がヒントの出る玉をくれたから頑張ってみる!」



星宿に背を向けて行こうとする美朱を呼び止めた。


星「…美朱!」

美「なに?」

星「いや…、気をつけてな」







柳「美朱、あんたどの馬に乗る?」

美「へ?」

柳「だってあんた馬に乗れないでしょ?誰かの馬に乗らなきゃ」

美「あ、そっか!んー…睡蓮一緒に乗っていい?」

「構いませんよ。では私の前にお乗りください」



睡蓮は美朱を前に乗せ、自分は後ろに乗って馬の手綱を持った。
柳宿と井宿も自分たちの馬に乗り、準備はできた。



「しっかりと捕まっていてください」

美「うん!」



そして四人は宮殿を出て残りの七星士を探しに出かけた。




美「うーん。七星に関連する場所まで来たら反応するはずだけどなー。街中には反応なかったし…」


いつも通りに振る舞う美朱。その姿を後ろから見る。柳宿も黙って美朱の話を聞いている。きっと思うことは同じなのであろう。




柳「…美朱、鬼宿のことなんだけど」

美「あっ!字が浮かんだきた!!山…?」

「そういえば、この先にレイ閣山があると聞きました。あそこには山賊がいるという話も…」

柳「まぁ大丈夫!なんとかなるわよ!ねっ井宿…え…」

美「あれ?」

「井宿が、いない?」



そういえばさっきから会話に参加していなかったなと3人はふと思うのだった。
仕方がないのでとりあえず足を進める。




美「あぁぁあ〜…お腹空いたぁ」

柳「さっき朝ごはん食べたでしょうが」

美「だってもうお昼だよー?お腹空いちゃうよー!」

「ふふ、ではどこかでお昼に致しましょう。腹が減っては戦は出来ぬと言いますし」

柳「睡蓮は美朱に甘いわ…」

「そうかしら?」

美「わーい!あ!睡蓮、柳宿、見て!お食事処発見!!」



美朱の指差す方には確かにお食事処が。一同はそこへ馬を走らせ、近場に馬を括り付けると、店の中へ入っていった。






美「おじさーん!メニューないですかあー?」


店の人がメニューを机に置いてくれる。どれにするか美朱は迷っているようだ。




美「うーん…、よし!お金いっぱい貰ってきたし、ありったけの料理くださーい!」

柳「…」

「…」

美「井宿一体どこいったのかな?」

「…美朱様、無理に笑わなくてよろしいのですよ?」

柳「そうよ。鬼宿が気になるんでしょ?」



心配する2人を他所に、美朱はあっけらかんとした表情を浮かべる。



美「あぁいいのよもう!」

柳「良いってあんたっ!!」



バンッッと思いっきり机を叩く柳宿。己の力を忘れたのかなんなのか、机は見るも無惨に真っ二つとなった。


柳「あ…」

「…柳宿」

柳「オ、オホホ。あたしとした事がつい力んじゃって!」

「自分の力忘れちゃダメよ…」

柳「とっとにかく!鬼宿ナシで平気なの!?」

美「だって…行っちゃったものは仕方ないじゃない!それに…、睡蓮が行ってないだけ、まだ良かったって思ってるもん…」

「美朱様…」

美「睡蓮まで鬼宿と同じように消えてしまってたら、きっとあたしこんな風になれなかった…」



暗い空気の中、料理は運ばれてきた。美朱は料理を目にして嬉しそうに顔を綻ばせた。


美「わーい!美味しそう!」

柳「はぁ、まっ、鬼宿と美朱のことに関してはあたしの口出すこっちゃないけど…」



チラリと他の客を見やる。一組の男たちが怪しげに笑う。それを見た柳宿はもしかしたらと思い、美朱に食べてはいけないと叫ぶ。


美「え?なに?」

柳「あーーーっ!!馬鹿ーーーっっ!!しかもあたしと睡蓮の分まで!!」

美「うっ…」


美朱は苦しそうな様子を見せた途端椅子からズルリと落ちてしまう。



「美朱様!」

柳「睡蓮危ない!!」



睡蓮へと振り掛かる刃を柳宿が白刃取りで捉える。相手は大男。力もそれなりにある。しかし力では負けない。素手で剣の矛を折ってやる。そして思いっきり蹴り飛ばす。

隣にいた睡蓮もまだ襲ってくる男と戦っていた。振り下ろしてくる剣を避け、回し蹴りを食らわす。また一人、と睡蓮へと襲いかかる。


2人が美朱から目を離した隙に、一人の男が斧を持って美朱へ振りかざす。



柳「美朱…っ!!」

「美朱様!!」


間に合わない、そう思った時男がゆらりと傾き倒れた。
その後ろにいたのは剣を構え立っている星宿の姿。


柳「星宿様!」

「陛下!」

美「星宿!?」

星「大丈夫だったか!3人共!」

柳「あたしと睡蓮は大丈夫なのですが、美朱が…」

星「毒を盛られたのか!?」

美「う、ううん…」

「違うのですか?」

美「食べ過ぎて、お腹が…」


バコンっと柳宿に頭を叩かれる美朱。転ける星宿。苦笑いの睡蓮。


「よほどお腹が空いておられたのですね」

柳「余計な心配かけさせんじゃないわよ!」

星「ま、まぁ、何もなかったのだから良いではないか」

美「うぅごめんなさーい!」






四人はレイ閣山へ行く途中の話の中で休憩をしていた。美朱と星宿は話があるようで別のところへ行った。
睡蓮は近場の泉から水を取りに行って帰ってきたところだ。



柳「あ、帰ってきたわね、睡蓮」

「どうかした?」

柳「ちょっとこっち来て!」


手を引っ張られて座らされたのは木の陰。


「なんなの?」

柳「いいから!」



耳を澄ませば、聞こえてくるのは美朱と星宿の声。




美「え!?じゃあ井宿が身代わりに!?どーしてそんなこと!!」

星「…お前のことが心配で…。鬼宿のこともあるし」

美「やだ!星宿まで気にしてんの?あたし平気だってば!」


笑う美朱に一枚の紙を渡す。




星「…これをご覧、美朱。鬼宿の書き置き…、一番最後の言葉なんて書いてるか分かるか?…「我愛イ尓」。…鬼宿のお前への心からの気持ちだ。鬼宿はこの国を家族を…、何より愛するお前を護るために敵国へ赴いたのだ」

美「……ってる…、わかってる!だから、納得しなきゃいけないって…っ!だけど…っ、鬼宿…っ!!」



星宿に涙を流して抱き付く。それを木に隠れて見ている柳宿と睡蓮。



「…やっぱり、辛かったのね。…辛くないわけないわ。愛する人が、そばに居ないんだもの…」


睡蓮の頭に浮かぶのは笑っているあの人達。もう二度と見ることも叶わない、大切な人達。

睡蓮の悲しそうな表情を見る柳宿。そっと、手を引いて睡蓮の頭を抱き締める。




柳「…そうね。大切な人がそばに居ないのは、辛いわよね」


柳宿にも、その気持ちは痛いほど分かる。可愛くて仕方なかった妹を亡くした辛さは今だって癒えない。前を向いて立ち上がれたのは今腕の中にいる睡蓮のおかげ。



柳「悲しいに、寂しいに、決まってるわ…」

「だからこそ、私たちが支えてあげないと」

柳「そうね。鬼宿の代わりに」


体を離し顔を見合う。護るべきは私たちの巫女。悲しさも辛さも寂しさもその笑顔の下に隠そうとする健気な巫女。


ガッと音がする。そちらに顔を向ければ美朱の頭の上から落ちる針の仕掛け。
咄嗟に星宿が身を呈して庇う。


柳「星宿様!」

「美朱様!」


駆け寄るが自分の足元に自分以外の影が映る。それは柳宿の足元にも。顔を柳宿の後ろへ向ければ木の棒を振り上げようとする一人の男。




「柳宿!!後ろ!!」

柳「え?…うっ!」


頭を殴られ意識を失い倒れる柳宿。駆け寄ろうとした睡蓮も同じように頭を殴られ、柳宿に折り重なるように倒れた。
























美「…う…」


美朱は意識を取り戻し、体を起こす。そこには自分と同じように倒れている星宿、柳宿、睡蓮の姿。


美「星宿!柳宿!睡蓮!」


その声に意識を取り戻す3人。




柳「ん…」

星「美朱…?」

「ここは…一体…」

美「良かった!3人とも無事だったのね!」


起き上がった際に星宿は美朱を庇った際に怪我をした部分が痛む。



美「星宿!?その傷…さっきあたしを庇って…!?」


しかし顔を合わせては気まずそうに目を反らす。



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