星「何!?美朱が一人で倶東へ向かったと申すのか!!」

柳「はい。申し訳ありません…。私達が付いていながら…」

星「すぐ馬を引け!」

「星宿様、一体何をするおつもりです?」

星「美朱を連れ戻しに行くのだ!」

「いけません。いくら陛下と言えどそれは許されるべき行為ではございません。今陛下が倶東へ向かえば戦争を勃発させかねません。そうなれば国の民、美朱様はどうなるのです!皆を犠牲にするというのですか!?」



睡蓮の言葉を聞いた星宿は気付いたのか、ハッとした顔になり表情を暗くさせた。





「っ、申し訳ありません…。陛下にこのような口を聞いてしまい…っ」

星「いや…、睡蓮の言う通りだ。どうかしていた。お前が言ってくれなければ、私はすぐにでも向かってしまうところだった」

「…今は、連れ戻しに向かった鬼宿を信じましょう」

星「…そうだな」



柳宿と睡蓮は星宿に一礼し、部屋を出る。お互いに顔をあわせるとはぁとため息を吐く。






柳「偉いことになったわね」

「まさか、倶東へお一人で向かわれるなんて誰も考えやしないもの」

柳「鬼宿が、無事美朱と帰ってくるのをあたし達は待つしないのね…」

「えぇ…。歯痒いわね…。何もしてあげられないなんて」

柳「美朱が言ってたその唯って子と会えればいいけど」

「美朱様のお友達よね。こっちに来たっていう」

柳「そうそう。あの様子じゃ親友って感じかしらね。まぁ、あたし達がどうこう今考えても状況は変わりゃしないわ。待ちましょ」

「そうね」





美朱が倶東へ向かい、それを鬼宿が追ってから数日が経った。
星宿に書類を届けに向かった睡蓮は顔色の悪い星宿を見て表情を曇らせた。


「陛下、少しはお休みください。この何日かお食事はおろか睡眠も取られていらっしゃらないでしょう?」

星「…国のこともだが、美朱のことを思うと何も口に入らぬ。無事でいてくれれば良いが…」

「大丈夫ですよ。鬼宿達が付いていますし、美朱様は「朱雀の巫女」なのですから」

星「…そうだな。きっと、元気な姿で帰ってきてくれるであろうな」

「はい。それに、顔色の悪い陛下を拝見されればきっと美朱様はご心配なされます。あのお方はお優しい方ですので。なので、少しでも構いません。何かお食べになってください」

星「あぁ、分かった」

「では、私は失礼いたします」

星「…睡蓮」

「はい」

星「ありがとう」

「ふふ、いいえ」



部屋を出て、自室へ向かう。廊下から見える空を立ち止まって見上げる。青くて、高くて、手の届かない空。今亡き人達を思い浮かべ、空から目を逸らす。




柳「睡蓮?」



顔を上げて前を見ればそこに居たのは柳宿だった。


「柳宿、どうしたの?」

柳「あんたこそどうしたのよ、突っ立っちゃって。なんかあった?」

「ううん、何にもない。ちょっと空を眺めてただけよ」

柳「…本当に?」

「本当よ」



じっと睡蓮を見つめる。本人は大丈夫だ、何にもないなんていう。けど、顔を見ればどこか無理をしている笑顔。聞かれたくないのか、聞いて欲しくないのか。


柳「…、あたしにくらいは頼りなさいよ」

「え?」

柳「こっちきて!」

「ちょ、どうしたの!」

柳「良いから!」


柳宿は睡蓮の腕を引っ張って小走りする。引っ張られる本人は頭の上に?を浮かべていた。






「わぁ…」

柳「どう?綺麗でしょ」



目の前に広がるのはこの紅南国を一望出来る丘。そして目の前に広がる花々。


「こんなところ、あったのね…」

柳「あたしもね、最近までは知らなかったのよ。後宮にいたら外に出らんないしね。でもこの格好して、朱雀七星として動き出してからは外にも出るようになって、それから見付けたのよ」


目の前に咲く色とりどりの花を見る。睡蓮は花が好きだった。見ると心が安らぐから。
たくさんの花がある中、一つの花に目が止まった。
その花にそっと近寄り、優しく触れる。



「これ、スイートピーね」

柳「ん?あぁ、本当ね」

「小さな喜び、優しい思い出」

柳「なに?それ」

「スイートピーの花言葉よ。あと…」

柳「まだあるの?」

「…私を、忘れないで」


さぁーー…と、風が吹く。何枚かの花弁が舞う。睡蓮の後ろ姿を見ていた柳宿。舞う花弁の中に座り込みスイートピーを見ているその姿はどこか儚くて、消えてしまいそう。

だから…、だから腕を取った。

驚いて振り向く。そんなことお構いなしに抱き締める。





「柳宿…?」


ぎゅっと、強く強く。何処にも行かないように。消えないように。




柳「あたしは…」

「ん?」

柳「あたしは、何があってもあんたのこと忘れたりしないわよ」

「……」

柳「死んでしまった康琳をあたしがいつまでも忘れないように、睡蓮のことだってあたしは忘れない。忘れるもんですか」

「柳宿……」

柳「あの人達だって、あんたのこと忘れてなんてないわよ」

「!…気付いて、たの」

柳「当たり前でしょ。だって、もう直ぐじゃない、命日。睡蓮が忘れない限り、あの人達は睡蓮を忘れることなんてない。消えたりしない」

「…柳宿も」

柳「ん?」

「…柳宿も、消えたりしないよね」


抱き締めていた腕を解いて睡蓮の顔を見る。不安そうな、泣きそうな。久しぶりに見た。誰にも心配かけないように笑って、人に尽くしてばかりで、自分のことなんて二の次な子。



柳「消えないわ。睡蓮置いて、消えれるわけないでしょ」

「本当?」

柳「本当よ。なぁに、この柳宿様の言葉が信じらんないの?」


ちょっと戯けて、笑いながら言ってやる。そしたら、ほらね。少し笑ってくれるでしょ。




「ふふ、ううん」

柳「…あんたは、笑ってる顔が一番綺麗なんだから、笑っときなさい」

「ありがとう、柳宿」

柳「いいの!」


あんたが笑ってたら、それでいい。あんたが笑えば、あたしは幸せなんだから。




柳「さぁて、そろそろ帰らないとね。日も暮れてきたわ」

「本当ね。行きましょう」


花に別れを告げて、並んで歩く。




「また、見に来ようね」

柳「もちろん」


風で揺れるその姿は花達が手を振って笑ってくれてるようだった。


















「美朱様が戻られた?」

「はい。今し方門番達がそのような話を…」

「そう、ありがとう」







「柳宿!」

柳「睡蓮!どしたの?」

「美朱様が戻られたのよ!」

柳「本当!?今どこにいるの?」

「きっと星宿様のところだわ。行きましょ!」



急いで星宿の元へ行けば誰かが話している姿が見える。後ろ姿からしてそれは鬼宿、井宿、美朱の姿だ。


柳「美朱!」

「美朱様!」

美「きゃーっ!柳宿っ相変わらずオカマそーじゃん!!」

柳「美朱っ!相変わらずバカそーじゃん!!」


手を取り合い笑う。


美「睡蓮ーー!!」

がばっと睡蓮に抱き付く美朱。



「お帰りなさいませ、美朱様。この睡蓮、貴方様のお帰りを今か今かとお待ち申し上げておりました」

美「待っててくれてありがとー!睡蓮に会いたかったよーー!」

「私もです。ご無事で何より」

柳「でっ、友達には会えたの?」

美「えっあ、うん!まぁ!」

「それは良うございました。さぁ、お部屋にお戻りください。長旅お疲れでしょう」

美「うん!」



柳宿、睡蓮は美朱を部屋へと送り届ける。



「ゆっくりと休まれてくださいね。後で疲れ身に効くお茶をご用意いたします」

美「ありがとっ!」

柳「じゃ、またね美朱!」









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