美朱が元の世界に帰って早3ヶ月。その間、倶東国と紅南国の関係は悪化し、宰相達に至っては「宣戦布告」と言いだした。昔から、倶東国は紅南国を欲していた。


そんな中、美朱が元の世界からこちらの世界へ帰ってきたという噂が流れ、柳宿と睡蓮は美朱に会いに行こうとした。






柳「美朱!」

美「柳宿!睡蓮!」

柳「やっぱり!久しぶりねぇ!」

「お元気になさっていましたか?」

美「うん!元気だよ!あ、ねぇ、鬼宿はどこにいるの?」

柳「あぁ、鬼宿なら居ないわよ」

「金儲けをしに田舎に帰るんだとつい何日か前にここを出て行かれました」



睡蓮の言葉に美朱は落ち込んだような表情を見せた。その表情に気付いた睡蓮は慰めるように声をかけた。




「ふふ、美朱様が落ち込むことはありません。貴方様が帰られてからというもの鬼宿はまるで魂が抜けたかのように虚ろでしたので」

柳「そうよ〜?気が抜けたみたいにボンヤリしちゃって!あんたに見せたかったわ!」

美「本当?」

「はい」

柳「だから心配しなさんなって!」

美「うん!あ、そうだ!それなら私鬼宿に会いに行く!」

「お一人でですか?危険にございます」

柳「そうよ。仮にもあんたはこの国の巫女なのよ?攫われたりでもしたらどうすんのよ」

美「んーー…。あ!じゃあ、睡蓮一緒に来て!」

「え、私ですか?」

美「うん!」

「それは構いませんが…」

美「やったー!」

柳「睡蓮が行くならあたしも行くわよ」

美「二人いれば安心安心!あ、でも外に出るんだから…、柳宿!男の子の格好してね!」

柳「はぁ!?」

美「だって睡蓮が居るんだよ!こんなに綺麗で可愛くて女子力満載な睡蓮が誰かに襲われたりしていいの!?」

柳「うっ…」



美朱の言葉に思わず言葉が詰まってしまう。確かにそうだ。このままじゃ外に出れば確実女3人だと見くびられる。何かあった時には遅いなんてことはしたくない。まぁ、そんな時はあたしがそいつら地に伏せてやるけど。





柳「…仕方ないわね。睡蓮に免じて着替えてやるわよ」

美「わーいわーい!」





















星「鬼宿に会いに行く?たった一人でか?」

美「ううん!柳宿と睡蓮が付いてきてくれるって!ねっ」


美朱の振り向いた先には、きちんと男装をした柳宿と動き易いチャイナ服に着替えた睡蓮が立っていた。


美「ちゃんと男の子の格好してくれたのよ!」

柳「女装のまんまじゃあんたを守り辛いし、第一は睡蓮の為に決まってんでしょ!」

「でも、久々に柳宿の男姿見たわ。やっぱり似合ってるわね」

星「…そうか。気をつけるのだよ。倶東の密偵が侵入しているという情報があったから…」

「必ず美朱様をお守り致します」

星「頼んだ」



外に用意された馬に乗り、出発する。柳宿の方へ美朱が乗り、睡蓮は一人で馬に乗った。






「…暗くなってきたわね」

柳「本当。まだ日暮れの時間ってわけでもないはずなのにね…。…あら?」

美「何!?真っ暗!!」

柳「おっかしーわねー。道間違えちゃったかしら!」

「でも、こっちの方向であってたはずよ」



馬で走っていると蹄が石に躓き美朱が馬から落ちてしまう。


美「いたーーっ!」

柳「ちょっと、あんた大丈夫!?」

「美朱様!お怪我はありませんか?」

美「うぅ〜…、あ!リボン!ど、どこ!?あ、あった…」



髪から取れたリボンを暗闇の中手探りで探し見つけ手に取ると手の近くに釜が刺さった。




美「なっ、何すんのよ!」

鬼「お前何者…美朱…?」

美「…鬼宿…」

鬼「…美朱。本当に、お前か…?…ほんの三ヶ月ほどなのに、もう何千年も離れてたみたいだ」

美「鬼宿!…逢いたかった…!」



再会した2人は暗闇の中抱き合い、美朱は嬉しくて涙を流した。







柳「…あんたら、周りの大勢シカトして何ムード作ってんのよ」

「あははは;; まぁ、久々に会えたんだし」

村「鬼宿さん、その人達は…」

鬼「あぁ、こいつは美朱。朱雀の巫女だ。で、こっちはオカマ」



ゴスッッ



鬼「基、俺と同じ朱雀七星士の柳宿!」


重い柳宿の鉄拳が鬼宿の頭に落ちた。



鬼「で、こっちは頼りになる睡蓮!こいつはあの光の守護・一等星なんだ」

村「貴方が光の守護…」



村人の目が睡蓮に向いたので、睡蓮は小さく会釈した。





鬼「倶東との聞いただろ?こんな状況だ。不審な奴らが最近出回ってるらしくてよ。金儲けにこの村の用心棒やってんだ!ま!俺がいる限りこの村も安心だろーけどな!」


その時、風も無いのに村人の持っていた火が消えた。当然周りは騒つく。
騒然とする中、美朱の後ろから手が伸びてき、そのまま暗闇の中へ美朱を引きずっていった。



鬼「美朱!」

「鬼宿!美朱様を追って!」

鬼「あぁ!」



去っていく鬼宿の後ろ姿を見送った後、直ぐに睡蓮は背後からの気配を感じた。
すぐさま辺りに網間の細かい糸を張り巡らせる。
すると、一気に矢が飛んでくる。張り巡らせた糸で跳ね返るものもあるが、通り抜ける矢もある。
その一本が柳宿へと飛んで行った。



「柳宿!」


ドンっと、柳宿を押し倒す。押し倒された柳宿はそのまま地面に倒れる。




柳「いたた…っ、! 睡蓮!」

「く…っ」

柳「睡蓮、あんた私をかばって…っ」

「平気よ…、傷はそこまで深くはないわ」

柳「でもすぐに手当てしなきゃだめよ!」

鬼「柳宿!睡蓮!一体何が!?」

美「きゃっ!し、死んでる人が…っ」

柳「…見ての通りよ。美朱が引っ張られて睡蓮に言われたあんたが飛び込んでいったと同時に美朱のいた方に向けて矢が飛んできたのよ!睡蓮は、あたしを矢から助けたせいで怪我を…」

鬼「睡蓮が怪我を!?すぐに村へ行こう!」

柳「えぇ、その方がいいわ!菌が入っちゃったら大変だもの」



美朱は鬼宿に支えられて、睡蓮は柳宿に支えられて村へと歩いた。そこで、睡蓮の怪我の手当てをし、晩御飯をご馳走になった。



柳「痛くない?睡蓮」

「大丈夫よ」

柳「もう…、心臓が止まるかと思ったわ…。あんたを見たら腕から血を流しているんだもん」

「咄嗟に糸を張り巡らせたんだけど、通り抜けた矢がやっぱり何本かあって。その一本が柳宿に飛んで行ったから思わず…」

柳「はぁ…。おかげであたしは助かったけど、それで睡蓮が怪我しちゃ意味ないわよ…。今度はあたしがあんたを守るからね」

「ふふ、うん」




2人の仲をじーっと見ている美朱。美朱は初めて会った時から何処と無く柳宿の睡蓮を見る目に気付いていた。
優しくて、大切なものを見るような目。愛しい人への目。




美「(柳宿ってもしかして睡蓮のこと…)」

柳「あら、なぁに?美朱」

美「へ?」

柳「ジッとこっち見ちゃって。なんなあった?」

美「あ、なんでもないなんでもない!にしてもね、その狐顏が「朱雀の巫女」は倶東国に狙われてるって…」

鬼「確かに、この国を護る朱雀の巫女は敵国には邪魔だろうな」


鬼宿の言葉にしゅんとしてしまう美朱。やっぱり、自分がいては周りに被害が及ぶのではないか。

すぐさま睡蓮は目の前に座ってた鬼宿の足を軽く蹴る。



鬼「あたっ」


目で美朱の方を見て顔で促すようにする。



鬼「いや!まぁ、んな顔すんなって美朱!俺がいるだろ!俺が守ってやるから安心しな!」

美「鬼宿…」

村「鬼宿さん来てください!西の入り口に変な奴らが!」

鬼「何金ズルか!!」



その言葉に美朱、柳宿、睡蓮は鬼宿に冷たい目線を送る。それに気付いた鬼宿は態とらしく咳払いをする。だが、バレバレである。


鬼「ゴホン…!い、いやそりゃ大変だ。柳宿クン、睡蓮サン、美朱を頼むよ」


そう言い残すとまるで鼻歌を歌いだすかの如く家を出て行ったのだった。



柳「…美朱ぁ。七星士探す前に鬼宿の金儲け主義治した方が良くない?」

村「いや、鬼宿さんは決して無理な金額は取りませんよ。いい人だ」

柳「何言ってんのよ!良い人ってのはね、ボランティアで用心棒する人のことよ!」

「まぁ、何か訳があるのかもしれないけどね」

柳「わけって?」

「んー、それはまだわからないけど…」



















朝、まだ時間帯的には早くみんな眠りについている頃だ。
美朱はやはり受験生ということもあってか、英単語の勉強をしていた。
外から音が聞こえ、窓を覗けば馬の側にいる鬼宿の姿。


美「(どこに行くの、こんな朝早く…。トイレ?付いて行ってみよう!) 柳宿!柳宿起きて!」


柳宿を揺り起こすがなかなか起きない。そこで、荷物からあるものを取り出し、それを柳宿の目をに当てた。
朝、静かだったはずなのに柳宿の悲鳴が響き渡った。
あまりの悲鳴に寝ていた睡蓮はガバッと体を起こし辺りを見渡す。
見れば柳宿が片目を抑えて体を丸めており、その側で美朱が懐中電灯片手に笑っているではないか。




「ぬ、柳宿?どうしたの?」

柳「み、美朱がぁー!」

美「いやーなかなか起きないから思わず!」

柳「だからってやり方があんでしょうが!!」

美「それより!早く起きて!鬼宿追いかけないと!」

柳「それよりってなに!目より大切なもんなんてあるわけ!?」

「ま、まぁまぁ落ち着いて!とりあえず、着替えましょ」



3人はいそいそと着替えて、急がせる美朱の後に続くと視線の先には馬に乗る鬼宿。
柳宿は未だ目が疼くのか涙目で片目を抑えている。



美「ねぇ、どこ行くのかな?」

柳「ううっ、あんた!もし失明したら弁償してもらうから!」

「弁償より手術費用よね…」




鬼宿の後を付いていけば見えたのは一つの村だった。
なにやら、村の人と親しげに話す鬼宿。



柳「どうやら彼の出身地らしいね」

「だったら村人と親しげなのも頷けるわ」

美「ここが…、鬼宿の生まれて育ったところ…」



家の陰に隠れて見ていたが、一つの家へ向かう姿を見て柳宿は美朱の名前を呼んだ。




鬼「…忠栄、春敬、結蓮、玉蘭!」

「「「「兄ちゃん!!」」」」


嬉しそうに走り寄る子供達に、その子達をとても愛おしそうに抱きしめ、笑う鬼宿の姿がそこにはあった。


鬼「親父俺だ!帰ったぜ!」

親「鬼宿…」

鬼「ほら、こんだけ儲けてきたぜ。体の具合はどうだ?」

親「…すまんな。わしはまぁまぁだ。畑は忠栄がやってくれてるし」

忠「…でも、やっぱりダメだよ。なかなか実らなくて」

鬼「…そっか。俺な出稼ぎに出て正解だったな」

親「…鬼宿。わし達のことを心配してくれるのは嬉しいが、お前もそろそろ自分の幸せを考えないと。このまま一生わし達の面倒を見るわけにはいかないだろう。…嫁でも貰って…」

鬼「親父、いいんだ。俺は…。さ、そろそろ行かねぇと!忠栄、俺の代わりにみんなを頼むな」

春「兄ちゃんもう行っちゃうの?」



立ち上がった鬼宿の足に結蓮がぎゅっと抱き着いた。やはり、まだまだ幼い。大好きな兄にはそばにいて欲しかった。


結「言っちゃダメ…」

鬼「ほら結蓮。人形買ってきたから!」

結「兄ちゃんの方がいい!」


大切な妹の細やかな願い。その願いに応えてやれない悲しさ。鬼宿の心には家族のそばにいたい気持ちと朱雀七星士のしての使命との葛藤があった。





鬼「…結蓮、兄ちゃんな、お前たちが幸せになるならなんでもしてやる。離れてても、いつもお前たちのことを思ってるから…」



鬼宿達の話を家の窓の下で聞いていた美朱、柳宿、睡蓮はお金稼ぎは家族のためだったのだと感動(その中で涙を流しているのは美朱と柳宿)した。

しかし、家の中から鬼宿の結蓮を呼ぶ焦った声が聞こえた。美朱は隠れて聞いていたなんて事を忘れて窓から身を乗り出し家の中へ入った。




美「どうしたの!?見せて!」


鬼宿に至っては妹の一大事に焦りはしたが、まさか居たとは知らなかった美朱の存在、そして窓から入ってくることに驚きを隠せない。




美「凄い熱…風邪かもしれないわ!ベッドはどこ?何か冷やすものを用意して!汗を出さなきゃいけないから上に布団重ねるの!」



テキパキと指示を出す。最後に濡らしたタオルを結蓮の額に乗せ、息を吐く。







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