太極山から帰った四人。
星宿は皇帝陛下としての執務をこなす毎日。
柳宿は後宮に戻り以前のように暮らす。
睡蓮は後宮で仕事をし、その合間に柳宿とお茶をしたりしていた。
鬼宿といえば…





「…もう2ヶ月経つっていうのに元に戻らないわね」

柳「あたし頭に鳥の巣作らせたりお皿食べる人間なんて生まれてこのかた初めて見たわよ」

「私もよ…。それに、星宿様だって執務はなさっているけど食事はおろか睡眠も取られていないわ…」

柳「きっと、美朱のことや国のことで思い悩み、大変なのよね…。あぁ、お労しい…!」

「なんとかできないものかしら…」

柳「んー…」



頭を悩ます柳宿と睡蓮。今、二人は柳宿の部屋で睡蓮が作った一口酥をお茶菓子にお茶をしていた。




柳「星宿様はともかく、鬼宿は時間が経てば何とかなるんじゃない?」

「そうだといいけど…」

柳「それより!」

「何?」

柳「あたし、太極山から帰ってきてまだちゃーんとあんたの能力聞いていないのよ!今日は話してもらうんだからね!」

「え…、あ、話して、なかったっけ…」

柳「聞いちゃいないわよ!昔から、睡蓮に傷を治す力があって、それで虐められてたのは知ってるわ。あたしがいつだって追い返してやってたんだから」

「そうだったわね」

柳「でも、それしか知らない。あたしは、あんたと18年間一緒にいるけど、知らないことが多いのよ…」





柳宿は自分の手にあるお茶に視線を落とす。
悔しい、という気持ちがあった。こんなにも一緒にいたのに知らないことの方が多いなんて。
もっと、睡蓮のことを知りたい。もっともっと、この子の力になりたい。そう思っているのに。





「…あの力はね、生まれた時からあったの。生まれながらにして光の守護・一等星としての宿命を持って産まれた能力の一つ。あの力があると分かった時から、私は他とは違うんだって感じたわ。どこか異端で、側からみれば気味の悪い力。…両親にも、たくさん悲しい思いをさせた」

柳「睡蓮…」

「この力は、決して治癒能力ではないの」

柳「治療能力ではない?」

「太一君から言わせれば、これは諸刃の剣。治すのではなく移す。自分に返ってくるのよ。使い方を間違えれば、死んでしまうわ」

柳「!!」



ガタッと柳宿は椅子から立ち上がる。




柳「死んでしまうって…」

「例えば、瀕死の相手に使えば、今度は私が瀕死の状態になってしまう。そうすれば相手は助かっても私は助からないかもしれない」

柳「っ」

「それほどではなかったら、後から治療すればいい話なんだけどね。美朱様の時に私からすぐに血が出なかったのは能力で血を止めていたから。後に太一君に枷を外されて能力が解けちゃったけど、それと自分の意思以外で解かない限り血は出ないし1日、2日すれば治るのよ」

柳「でも、痛覚は、あるんでしょ」

「痛みは、あるわ」




柳宿は睡蓮の側に行くと、ギュッと抱き締めた。抱き締められた本人は目を丸くして驚いている。しかし、柳宿の腕が小さく震えているのに気付くと大人しくその腕の中に収まった。





柳「…、これからは、必要以上に使っちゃダメよ…」

「でも…」

柳「ダメったらダメ!いい!?睡蓮!」



グイッと体を離し睡蓮の肩に手を置き柳宿はじっと、真剣な目で話した。





柳「それで、それでもし!あんたが死んじゃったら!あんたがあたしを置いて死んじゃったら!許さないわ!!」

「柳宿…」

柳「康琳が居なくなって、辛くて辛くて仕方なかった時、睡蓮はあたしの側を離れなかった。あの子が居ないなんて考えたくなくて、康琳として生きようと決めた時、周りがあたしをまるで憐れむように見てても睡蓮は変わらず居てくれた!それが、どれだけあたしの心を支えたくれたか分かってる!?」



肩に置いてあった手を睡蓮の頬へ当てる。優しく、包むかのように。



柳「睡蓮まで消えたら、あたしはあたしじゃなくなる。きっと、あんたの後を追いかける」

「ダメよ!そんなの!」

柳「それくらいの想いなの!」

「…!」

柳「それくらい、あんたが大事なの。睡蓮が誰より優しいのは知ってるわ。傷付いてる人を見たらきっと黙って見過ごすことなんて出来ないことくらい分かってる。けど、それで助けてあんたが死ぬようなことがあったらあたしは絶対許さない。周りがどんなにそれを名誉だと、誇りだと讃えたってあたしだけは許さないから!…だから、生きて。何があっても、あたしを置いて死ぬなんてことはしないで」



柳宿の目には、薄っすらと涙の膜が出来ていた。柳宿の思いを知った睡蓮は驚いたが決してそれが重いなんて思わなかった。何故なら、自分自身も柳宿に対してそう思っているからだった。
心が、温かくなった。
今度は睡蓮が柳宿を優しく抱きしめた。





「ありがとう、柳宿。とても嬉しい。貴方の悲しむ顔を見たくないから、なるべく必要以上に使わないようにするわ」

柳「約束よ。絶対に守ってよ…」

「守るわ。だから、柳宿も私と約束して」

柳「どんな?」

「貴方も、私を置いて死なないで」



ギュっと、強く強く抱き締める。





「今まで、ずっと私は柳宿の側にいて、柳宿は私の側にいてくれた。貴方が私を大切だって言ってくれるように私も貴方が大切なの。だから、私を置いて死なないで。もしも、もしも死ぬならその時は一緒よ」

柳「…勿論よ。生きるも死ぬも、一緒なんだから」

「約束ね」

柳「えぇ、約束よ」




体を離し、額を合わせ笑い合う。
たとえこの先何があってもこの約束は破られない、破らない。
2人は今一度、心に誓ったのだった。




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