星宿の刀を鞘に直し、横たわる睡蓮を振り返る。


柳「じゃあ、行ってくるわね」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」




柳宿は部屋を出た。部屋の前にはみんなが待っていた。


柳「…ごめん、出来なかったわ」

美「行こう!!柳宿!!」

星「もう一度、先ほどの医者の元へ」

翼「何が何でも睡蓮を救うんやろ。さっさと行くで!」

柳「みんな…。…えぇ!」




待っていて、睡蓮。必ず助けて見せる。その苦しみから解き放ってあげるから。もう少しだけ、頑張って。







寿「また来たのか」

柳「お願い!貴方にしか頼めないの!睡蓮を助けて!お願い!!」

美「お願いします!!とっても睡蓮苦しんでいるの!このままじゃ睡蓮が死んじゃうの!!」

翼「俺からも頼むわ!他にもう医者はおらんし…っ」

星「少華さんの言う方法はとてもじゃないができるものではないんだ…!」



「少華」という言葉に寿安は反応する。


寿「今…「少華」と言ったか…?」

柳「え?…えぇ。睡蓮は今彼女のうちに…」

寿「そんな…馬鹿な。少華は1年前に死んだはずだ!!」

柳「え…!?」












少「…睡蓮さん、私はあなたがとても羨ましい。あんなにも想われて、あんなにも愛おしい人が側にいて…。…あの人が貴方を殺せないなら、私が貴方を殺してあげる」


少華は刀を睡蓮へ振りかぶったのだった。














星「…ではあの少華は隣の都の娘で1年前に病で亡くなったと言うのか!?」

寿「確かだ。自分はその都の医者だった」

美「え…それだったら…あの人は…」

翼「そ…それやったら今睡蓮とおる少華は何モンやねん!?」

柳「! 星宿様!美朱!翼宿!すぐに睡蓮の所へ!!もしかしたら睡蓮が危ないわ!!」













少華が振り下ろした刀は寝台に深く突き刺さった。


少「なぜ…、動けるの…っ!?」

「ハァっ、…っハァ…、少華さん…、私はまだ…っ、死ぬわけにはいかないのよ…。ハァ…っ、約束、したから…。柳宿と、頑張るって…っ。貴方に殺されて、生き返らせてもらえば…、楽になるかもしれないわ…っ。でも…、それじゃダメなの…っハァ」

少「…っっ」

「少華さん…?どうしたの…?」

少「ダメ…っ、来ないで、睡蓮さん…っ。逃げて!でないと、私は…っ」
















柳宿達は走っていた。一刻も早く睡蓮の元へ行かなければと。しかし、足元に多くの刃物が降りかかる。

美「なに!?」


見れば村人が虚ろな目をして釜や斧を持ち近付いてくる。


柳「こんなことしてる暇なんてないってーのにっ!」

美「なっ、なんなのよ!あんた達!今はあんた達より睡蓮が大事なのよ!?」

翼「なんなんや!サインやったらあとやで!!」

星「都全体が何か異様な雰囲気だ…っ、気を付けろ!」




ドッと押し寄せ襲い掛かってくる村人達。相手は村人。簡単に手は出せない。



星「何をする!!よせ!!」

美「わーん!!近付くなぁ!!」

翼「やめんかい!!燃やされたいんかお前ら!!」

柳「相手が相手なだけに無闇に手を出せないわ!」

星「っ!柳宿!ここは私達に任せて睡蓮の元へお前だけでも先に行くのだ!」

柳「でも…っ!」

翼「あー!もうええから先行け!」

美「後から絶対追いかけるから、早く!!」

柳「っ、ごめん!ありがとう!!」



柳宿は一人馬に乗り睡蓮の元へ走る。
















「少華さん…?少華さんどうしたの…?何処にいるの?」

少「私はここよ…」


その時、部屋の扉が勢いよく開く。



柳「睡蓮!!その人から離れて!!」

「え…?」

柳「少華は1年も前にもう死んでいるのよ!!その人は少華さんじゃないわ!!」



少華は睡蓮の腕を強く掴む。


「っ」

柳「睡蓮!」

少「…もう遅いわ。この娘は返さない。骨の髄まで食い尽くす」

柳「っ」


近くにあった机を持ち上げ少華に投げようとした時、一つの声が動きを止めさせた。




寿「待て!…少華」

柳「美朱!星宿様!翼宿!無事だったのね!…その人は?」

美「それが突然出てきて少華さんの所に連れて行けって…」

少「…寿安…」

翼「ええええ!?あのおっさん!?全然違うやん!!」

寿「…この都に病を広げたのはお前か…。人の精気を吸い、喰らう妖怪になったというのか」





美朱は何気なく後ろを見る。それを見た途端顔を引きつるせる。
近くにいた翼宿の肩をトントンと突く。
翼宿も振り向き見ればそこにはさっき追い払ったはずの村人が窓から押し寄せていた。
勢いよく窓を閉める。


翼「なっなんやねん!!」

美「ちょっとどうなってんのー!気持ち悪いよーー!!」

寿「…多分、少華に生き返らせてもらった連中だ。…というより、そう見えてるだけで操られている死人…。そうだろう、少華。…なぜ」

少「…貴方にそんなことが言えるの」




少華は睡蓮を引き寄せ、人質にとる。



少「1年前、私が病で死の床に伏していた時、いくら待っても貴方は来なかったじゃないの!きっと来てくれるも信じていた!どんなに苦しくても最後まで耐えた…っ!…それなのに…っ。…どう?貴方が私をどうこう言う権利があるの!?まずこの子を殺して…次に貴方を殺してあげる!」

星「翼宿!柳宿!」

翼「おお!」

柳「はい!」



攻撃をしようとした3人に立ち塞がるように立つ睡蓮。動かない体を無理やり動かし、少華を庇う。


「少華さんを殺してはダメよ!」

柳「睡蓮!それは妖怪よ!倒さないと…!」

「少華さんは、妖怪なんかじゃないわ!そうでしょ、少華さん…」



少華の方を向き、笑いかける。



「逢いに来たんでしょう?あの人に。貴方の愛する人に。恋人だったんでしょう?逢えないまま貴方は死んでしまった。悲しくて辛くて仕方なかったのよね。でも、悲しいからって好きな人と、愛する人と戦っちゃいけないわ!貴方の心が泣いてる。助けてって、寂しかったって泣いてるわ…」



睡蓮の言葉に少華は正気に戻り、へたり込む。それを気配で察し、支える。





少「…そうよ、寿安。私は貴方を待ってたの…。…お願い…私を助けて…」


少華の体から本物の妖怪が姿をあらわす。その妖怪が一番近くにいた睡蓮を絡みつき持ち上げる。




少「寿安…お願い!貴方の力ならこの化け物を倒せるわ!このままだと、睡蓮さんが…っ!!」

寿「少華…お前…っ、それは「病魔」か!!お前か…取り憑かれていたのか!!」

少「ごめんなさい…っ!寂しくて、悲しくて…気付いたらこんな…っ。お願い!早く私を!早く!寿安!!」



寿安の瞳の奥には少華と暮らした愛おしい時間が映る。





少「睡蓮さん…、ありがとう…。大丈夫…。すぐに目も体も治る。…大好きな人たちにきっと逢えるわ…。…さようなら…」



寿安は己の力を少華にぶつけた。その力で少華に取り憑いていた病魔は消えた。






さようなら、寿安…。
ただもう一度貴方に逢いたかった…。
さようなら…。














病魔が消えた途端、まるで家も何も無かったかのように消えてしまった。


翼「家が…、幻やったんか!」

美「なんにもない…」

星「全ては少華に取り憑いていた病魔が作り出したものだったというわけか…」

柳「睡蓮!!しっかりして!」



倒れていた睡蓮を慌てて抱き起こす。幸い怪我もなく無事である。


翼「わっ!みんなミイラになっとるわ!術が解けたんやな!これで病気も治るで!」

美「そっか!これで睡蓮の目も体の苦しさも治るんだ!」

柳「どう、睡蓮。あたしの姿が見える?」

「…いいえ、見えないわ…」

星「なんだって!?そんなはずは…っ」

寿「…大丈夫。病魔の近くに、いすぎたせいだ」


温かい光が睡蓮に注がれる。目の前が光に満ちてくる。真っ暗だった世界に光が差し込む。




柳「…睡蓮、見えた?」


心配そうに覗き込んでくる柳宿。その頬に手を当てる。


「…見えるわ。やっと見れた…、柳宿の顔が、やっと…」

柳「睡蓮…!!良かった…っ!」


ぎゅっと抱き締める。その瞳にまた自分が映った。それが嬉しくて。


美「やった!!睡蓮の目が治った!!ねぇ!あたしの姿も見える!?」

「はい。美朱様のお姿も拝見できます」

星「私の姿も見えるか?」

「星宿様のお姿も、ちゃんと」

翼「お、俺も見えるか?」

「えぇ。見えるわ」



みんなの顔に笑顔が戻る。


「ありがとうございます。治してくださって」

寿「いや。治ってよかった」



その時に寿安の手の平がちらりと見える。


「あら…、その文字…」


それを目敏く見つけるのが美朱だ。


美「あーー!!これ!朱雀の証!!」

寿「自分は七星名で軫宿。今の力は「治癒力」だ」



倒れていた少華を抱き上げながら話す。


軫「…だから医者になった。人を救いたかった。少華が突然高熱を出した時も…、頼まれて遠くの村に診療に行っていた。だが、間に合わなかった。一番救いたかった人を…救えなかった…。何が「名医」だ。この能力ら…、何の役にも、立たなかった」


一粒の涙が少華の頬に落ちる。





「貴方は、少華さんを救ったわ…」

軫「え…?」

「病魔に取り憑かれていた少華さんを、普通の少華さんにしてあげたのは誰でもない、貴方よ。本当の最期に、貴方に会えて、貴方に救ってもらってきっと少華さん喜んでるわ。だって、見てみて…」



軫宿の腕の中で永遠の眠りに付いた少華。



「とても幸せそうな顔をしているもの…」

軫「っ、少華…っ」



これで6人目の七星士が集まった。残りは一人。ついにそこまで来たのだった。











その夜の宿で。



「もう大丈夫よ、柳宿」

柳「いーや!昔っからあんたは大丈夫じゃないのに大丈夫っていうのが癖なのよ!で、八割は大丈夫じゃないの!」


宿の一部屋にみんなが集まり食べたり飲んだり話したりしている。
その中で柳宿は睡蓮の体を気遣って少しは横になれという。だが睡蓮はもう大丈夫だと言って横にならない。



美「あー、出たよ、柳宿の睡蓮心配性」

翼「過保護なんか?」

美「過保護っていうか、愛故?」

翼「愛故?」

星「柳宿は睡蓮を愛しているんだ」

軫「そうだったのか…」

翼「や、やっぱり柳宿は睡蓮のこと…」

美「だってあの二人見てたら分かるじゃない!あ、さては翼宿〜、睡蓮狙ってたわね!」

翼「っ///!!?そ、そんなわけあるかい!!」

星「諦めるんだな、翼宿」

美「そうそう!睡蓮には柳宿が居るんだから叶いっこないわよ!」

翼「なっ、せ、せやからちゃうゆーてるやろ!!//」

美「照れてるところが怪しい〜!」

翼「だーーっ!!うっさいわ!!」

軫「…いつもこうなのか?」

星「まぁ、そうだな」









「でも軫宿に治してもらったし、体もだるくないし目も見えるし…」

柳「そこで油断してまた変なのにかかったらどうするの!」

「…そこまで私抜けてないわよ」

柳「もーっとにかく!あたしがどんだけ心配したと思ってんの!目が見えなくて体は動かない、終いには一度殺して生き返らせないと死んじゃうって言われたのよ!?」

「うん、ごめんね、柳宿…。本当に、ごめんなさい。今回はとても貴方に心配かけたわ。辛い思いもさせた。あんな酷なこと、させてしまったんだもの…」

柳「…っ、あたしは、あんたが大事なの。何よりも大事なの!だから苦しい思いも辛い思いもさせたくない!」

「うん、私も柳宿のこと大事よ。苦しい思いも辛い思いもさせたくないって思ってる」

柳「〜〜〜っっ!睡蓮!!あたしがなんでこんなに心配してるか分かってんの!?」

「え、だからそれは私があんな風になっちゃって…」

柳「それもあるけどちがーう!!あたしはあんたが好きなのよ!!好きだからこんなに心配してるの!!」

「え…っ」

柳「え?…っ///!!」



柳宿は自分が何を言ったのか思い出し思わず口を覆う。

柳宿と睡蓮の後ろにいた四人はまさか告白するとは思ってなかったのか思い思いの表情をしている。特に美朱はキャーッ!キャーッ!騒いでいる。



「…あ、あの…柳宿…」

柳「っ、こんな形で言うつもりなかったけど…本当だから」


柳宿を見ると、じっとこちらを見ている。恥ずかしくて目を逸らしたいのに何故かそらせない。



柳「…ずっと、好きよ。あんたのこと。幼い頃からずっと。あたしは睡蓮しか見てないわ」

「っ」



そのまま、柳宿は立ち上がると宿を出た。残された睡蓮は固まっている。そんな睡蓮をちらりと美朱は見る。


美「あ…」


美朱が見た睡蓮は口に手を当てて、赤くてどこか嬉しそうで、それは恋をする女の子の顔だった。




美「(なんだ、睡蓮も柳宿が好きなんだ…。両思いなんじゃん、二人とも!あーぁ、柳宿ったらこんなに可愛い睡蓮見ないで出て行っちゃうなんて勿体無いなぁ!もう!)」



ふふっと美朱は笑うと睡蓮に抱きついた。


美「良かったね!睡蓮!!」

「み、美朱様!!//」

美「睡蓮も柳宿が好きなんでしょう?」

「う…っ///」

美「両思いなんじゃない!ちゃんと睡蓮も返事しないとね!」

「で、でも…そんな…」

美「恥かしい?」



コクンと頷く睡蓮。そんな睡蓮がツボだったのかさらにぎゅーっと抱き締める。




美「もーう!睡蓮かわいいーー!!これが柳宿の良いようにされるなんてー!!」

「み、美朱様!//」



美朱は星宿と翼宿と軫宿に止められるまで睡蓮に抱き付き騒いでいた。

出て行った柳宿といえば…。










柳「…やってしまった…っ!」



近くの泉で項垂れていた。




こんなつもりはなかった。この気持ちはもう少し温めて心の中に置いておくつもりだった。
いずれは言おうと思ってはいたけど、今言うつもりはなかったのだ。



柳「あ〜、どうしよう!でも言っちゃったもん仕方ないわよね…。取り返しはつかないし…」


まるで自分の想いが睡蓮に伝わっていないようでムッとしたのだ。それで思わず…。





柳「思わずってそれでもタイミングとシチュエーションってもんがあるでしょーよあたし!!」



柳宿はその夜、遅くまで泉で悶々と悩み続けたのであった。



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