鬼「…お前、俺の跡つけてきたな…」
看病に頭が走っていた美朱は自分がつけてきた身だということをすっかり忘れていた。
持っていた麦帽子をかぶり、消えようとするが消えない。
鬼「消えるか!アホッ!!」
まるでコントのようなくだりを見ていた睡蓮は服の裾を引っ張られるのを感じ、下を見る。
同じ視線になるために膝を曲げ座り込んで話しかける。
「どうしたの?」
玉「あの人、兄ちゃんのお嫁さん?」
「あら、鋭いわね〜。ふふ、そうね。今はそうじゃなくても、何れそうなるのよ」
鬼「こっこら!睡蓮!俺らはそんなんじゃねぇよ!」
美「そっそうだよ!あたしまだ中学生だしっ!」
「そんなに焦らなくても。今だなんて誰も言ってないわ。何れって言ったじゃない、ねぇ柳宿」
柳「そうそう。それに、あんなこと言って、2人はすでにCまで行ってるんです、お父さん」
鬼「柳宿!!真顔でデタラメぬかすな!!」
騒ぎに目を覚ましたのか、結蓮は辛そうに声を出す。それを見て、鬼宿がそばにいた方がいいと判断した美朱は水を汲みに行ってくると家を出た。
「熱、上がってきたわね」
鬼「なぁ睡蓮、結蓮なんとかならないか?」
「んー…、持ち合わせている薬草でなんとかなるかもしれないわね」
鬼「薬草?お前、薬作れるのか?」
「ほんの少しよ。独学で勉強しただけ」
柳「こんな難しいこと睡蓮しちゃうのよ。凄いでしょ」
鬼「あぁ、本当に頼りになるぜ!」
「煽てたってなんにも出やしないわよ」
擂粉木を用意し、胸元から幾つかの薬草を取り出す。それを小さく千切って擦っていく。
興味深そうに見ていた鬼宿だが、何かに気付いたのか顔を上げ美朱の名前を呼んだ。
鬼「美朱!?」
柳「鬼宿?」
そしてそのまま家を出てしまう鬼宿に薬を作っていた睡蓮を顔を上げる。
柳「どうしたのかしら、鬼宿」
「あんなに焦るなんて…、まさか美朱様に何かあったんじゃ…っ!」
自分も行こうとする睡蓮の手を柳宿は掴み引き止める。
柳「今あたしたちがここを離れたら誰もこの子達を守れないわ!」
「…っ、そうね…」
柳「心配かもしれないけど、ここは鬼宿に任せましょう。それに、薬も早く作ってあげないとね」
「…えぇ」
もう一度そこに座り直し、薬を作る。暫くして薬が完成し、それを水で薄めて結蓮へ飲ます。
「少し苦いかもしれないけど、我慢してね」
結「うん…」
ゆっくり飲み干した結蓮を見て頭を撫でる。
「これできっと大丈夫。熱も時期に下がるわ」
忠「ありがとうございます!守護様!」
「いいのよ。気にしないで」
柳「にしても、あの2人遅いわね」
「どこまで行ったのかしら」
柳「またイチャイチャしてたりして」
「まさか!」
柳「考えられなくもないわよ〜」
睡蓮の隣に腰掛け足を組みながら話す。あの二人は何処ででもイチャつくのである。
柳「まぁ、仲がいいならいいでそれで構わないけど…っ、睡蓮」
「えぇ、感じたわ。誰か居る」
柳宿と睡蓮は立ち上がり、辺りを警戒する。忠栄達を結蓮の側に寄せ、守るように立つ。
一本の紐が睡蓮の足首に纏わり付く。それに気づき、その糸を払おうとするが、次は腹、手首、首へと糸が絡みつく。
そのまま柳宿達と離され引っ張られる。睡蓮は黒ずくめの男に囚われ、身動きが取れない。
柳「睡蓮!!」
「く…っ」
柳「あんた!睡蓮を離しなさい!」
「ふっ、そんな口を開けるのも今のうちだ」
男は睡蓮に縛り付けた糸と同じものを柳宿や子供達にも絡ませ、宙吊りにすら。
「やめっ、なさい! 柳宿達を離して!」
「お前には傷を付けずに持ち帰れと言われているが、少しくらいなら良いだろう」
さらに糸が睡蓮の体に纏わり付き、きつくきつく縛り付ける。
「あぁっ!」
柳「睡蓮!!」
騒ぎに気付いた鬼宿と美朱が駆けつけてくる。
鬼「親父!柳宿!睡蓮!」
鬼宿が目にしたのは宙吊りにされている自分の妹弟達に仲間の柳宿。そして、黒ずくめの男の腕の中で誰よりもきつく縛られている睡蓮の姿。
柳「美朱!鬼宿!来ちゃダメよ!!」
「貴方達まで…っ、巻き添えになってしまうわ!!」
二人の言葉を聞かずに鬼宿は男に突っ込み攻撃をしようとする。しかし、鬼宿も柳宿、睡蓮と同じように糸の餌食になってしまう。
美「鬼宿ーーっ!」
鬼「っ、外れねぇ!」
「どうだ、朱雀の巫女。この者たちを助けたければ…、大人しくお前が殺されろ。そして、倶東国へこの光の守護・一等星を迎え入れる」
その言葉を聞いた美朱は前へすっと歩き出す。
「いけません!美朱様!」
柳「ダメよ!美朱!」
鬼「美朱!!よせ!!」
そこに、杖を持った一人の男が現れる。美朱にはどうやら見覚えがあるようだ。
美「きつねさん!?」
その男が念じると今まで動きを封じていた糸が切れる。
もちろん、男の腕の中にいた睡蓮の糸も切れる。そのことに気付いた男は逃さんと言うかのように睡蓮を後ろから捕まえ針を飛ばす。
その針で杖を持った男の衣服が所々切れる。
そこには左膝に井の文字が浮かび上がっていた。
睡蓮は自慢の足技で相手の脛を蹴り、自分から離れたところで男と正面に向き合い思いっきり右頬に回し蹴りをお見舞いした。
吹っ飛んだ先は柳宿の足元。
立ちあがり逃げようとする男の腕を今度は柳宿が自慢の怪力で掴み上げる。
柳「おっと。さぁて、いろいろ聞かせてもらおうかしら。特に睡蓮をあんな目に合わせたんだからタダじゃ許さないわよ。まず、美朱と睡蓮を狙って何人倶東国からこの国に入り込んでるの!言いな!」
何かに気付いた鬼宿と狐男。
鬼「危ない!!」
どこからか矢が飛んでき、その矢が男の背中に何本も刺さる。
狐「よく気配を感じ取ったのだ鬼宿クン。見直したのだ!」
鬼「いやー、それほどでも」
柳「あんた達!あたしをかばう気ないの!」
男「ふ…ふふ、今に見ていろ…。「青龍の巫女」が見つかり、一等星が倶東につきさえすれば…こ…んな国…など」
美「青龍の巫女!?どういうこと!?ねぇ、答えて…っ、…死んだ…」
柳「睡蓮!」
「柳宿…」
柳「あんた、首に跡が…」
「結構きつく締められちゃったから。でも、大丈夫だよ」
柳「…睡蓮は女なんだから、傷作っちゃダメよ」
「もう、柳宿は心配性なんだから。平気よ。でも、生傷は控えないとね。お嫁にいけないわ、ふふ」
口元に手を当てくすくす笑う睡蓮。そんな睡蓮の片手を取り、頬に手を当てる。
柳「その時は、あたしが…」
美「やっぱり貴方七星士の一人だっだのねーー!」
何かを言おうとした柳宿の言葉はそれより大きな声の美朱に掻き消されてしまった。
「? なに、柳宿?」
柳「…いいえ、なんでもないわ」
何焦ってるんだか…。まだ、話すときじゃないのに。あたしらしくないわ。
井「おいら井宿と言うのだ!狐さんじゃないのだ」
忠「あの…、顔の皮めくれてますけど…」
井「大丈夫!スペアがあるのだ!」
それに一同ずっこける。顔にスペアってなんだそれ状態だ。
柳「な、なんか変なやつだけどさ、やったわね!四人目見つけたじゃない、美朱!」
美「う…ん」
四人目が見付かっても美朱の心が晴れることはなかった。なぜなら、鬼宿に泣きついている彼の兄弟たちを見ると、自分のせいで怖い思いをさせてしまったと負の念にかられるのだ。
美「…あの、ごめんなさい、あたしのせいで…」
親「なになに。朱雀の巫女様がこんなボロ屋にに来てくださっただけでも有難い」
美「でも」
鬼「そうだ美朱。気にするな。お前は何も悪くねぇよ」
「…でも、倶東にも同じ七星の伝説があるなんて」
井「おいら旅の途中で聞いたのだ。この紅南国に「朱雀の巫女」と光の守護・一等星が居ることを知って倶東も「青龍の巫女」を探し出そうとしているのだ。そして、一等星を倶東側につけようとしているのだ」
柳「美朱が狙われるのは分かるけど、なんだって睡蓮まで狙われなきゃならないわけ?」
井「光の守護・一等星というのはその時代に1人しか存在しないのだ。一等星が付けばその国は永遠に繁栄すると言われているのだ」
柳「そんな…、だから睡蓮は倶東から狙われているっていうの!?」
井「だ。どの国も一等星のことは喉から手が出るほど欲しがっているのだ。なので睡蓮、君も注意しなければならないのだ」
「えぇ、分かってるわ」
柳「ふぅ。しかしまぁ、話を戻せば考えてみりゃそうよね…。あの砂かけババァ…基太一君は四方の国に太祖それぞれに「四神天地書」を渡したんだわ!光の守護・一等星のことが書いてあったとしても、探したって異世界からやってくる女の子なんてそうそういるわきゃないのにねぇ」
「朱雀に巫女が現れたと知れた今、倶東国も目を光らせて青龍の巫女を探しているはずだわ。…もしかしたら、すでに見つけていることだって考えれれる…」
3人の話を側で聞いていた美朱は顔を青くしてしまう。そのことに気付いた柳宿はどうしたのだと声をかける。
しかし、なんでもないと言葉を濁らせ用を足してくると外へ出て行った。
鬼「遅過ぎる!どこまで行ったんだあいつは!」
「確かに遅いわ。迷ってしまわれたのかしら…」
井「美朱ちゃん出しなに「唯ちゃん」って言ってたのだ」
鬼「ちょっと待て!確かに「唯」って言ったのか!?」
井「どーやらおいら達の話を聞いてて様子がおかしくなったようなのだ」
「井宿、貴方気付いていたの?」
井「だ」
鬼「唯…、初めて美朱に会った時一緒にいた…?じゃあ、まさかあの子もこの世界に!?」
鬼宿はダッと走り出し家を出る。
柳「鬼宿!?」
鬼「柳宿!睡蓮!井宿!弟達を頼む!!」
柳「どーしたのよ一体!」
「なにか心当たりがあるんじゃ…」
井「さて、おいらも様子を見させてもらうとするのだ!」
暫くして、鬼宿が走って戻ってきた。家で鬼宿の弟達と一緒にいた柳宿、睡蓮は帰ってきた鬼宿を迎え入れる。
「「美朱/様がいなくなった!?」」
鬼「あのバカ1人で倶東国に行く気だ。連れ戻してくる!」
柳「ちょっとあんた一人で行く気!?」
「鬼宿待ちなさい!」
鬼「柳宿、睡蓮!お前たちは栄陽に戻って星宿様にお知らせしろ!」
柳「でもあんた一人じゃ!」
鬼「…俺な、今まで家族のために生きてきたんだ。みんなが幸せになるまで自分の望みなんて捨てる気だった。…だなら女なんて目に入れる気もなかったよ。俺は…あいつが好きだ。だから命にかけても守ってやる!」
柳「…たま」
鬼「だから「たま」で止めるなよ!猫じゃねぇんだから!…柳宿、お前にだって、俺の気持ちわかるだろ?」
鬼宿の視線が柳宿からその隣にいる睡蓮へと移される。
心配そうに鬼宿を見つめる睡蓮。
柳「…当たり前でしょ。あんたより分かってるわよ」
鬼「だろ?だから俺は行く」
「…鬼宿」
鬼「ん?」
「気をつけて。必ず二人で帰ってきて」
鬼「あぁ!」
馬に乗り、走り去っていく後ろ姿を見送った後、柳宿と睡蓮も馬に乗り直ぐに紅南国にいる星宿の元へと走ったのだった。
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