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ひび割れたノクターン

人型近界民の侵入。
それに上層部はもちろんのこと、全ボーダー隊員に少なからずの動揺と焦りを生ませた。
しかし本部へ侵入した人型一体においては、諏訪隊とボーダー本部長忍田、そして風間隊の連携。それによって被害は最小限に抑えることが出来た。

だがそれでもまだ、市街地には数体の人型近界民とラービットが蔓延っている。動けるA級からB級の部隊が総出になって動いても、全てを排除するには難しい状況であることは、火を見るより明らかだ。
烏間隊全隊員はそれぞれが散り散りバラバラになり他の部隊のフォローに当たる。そうしながらも、捕獲用近界民・ラービットを一体一体、確実に殲滅していった。

柴崎は片手にイーグレットを持ちながら周囲の状況に意識を配る。
狙いがC級隊員であることが分かりながらも、この多勢だ。加えて新型の近界民、ラービットまで出てきては動き辛いったらない。
頻繁に狙撃手達と自隊のメンバーとの連絡は取り合っているも、何処も難航しているようだ。
赤井は烏間の指示で玉狛と合流。花岡は嵐山達と合流し片っ端から近界民駆除を行っているらしい。烏間については太刀川と共に本部を狙ったバムスターを切ったあと、本陣に向かい新型と応戦しているとのことだった。

敵の狙いはC級隊員。緊急脱出が出来ない彼らを狙う理由としては、なんらかの理由からトリオンを片っ端から奪うためであろう。
それでも最も手っ取り早く、膨大な量のトリオンを手に入れたいと、彼らだって考えているに違いない。
たとえ積り積れば山となっても、C級を捕獲したところで限りがある。
短期的なものを狙ってか、それとも。
そこまで考えて、柴崎は一人の少女の姿を脳裏に浮かべた。
今このボーダーにおいて、彼女のトリオン量は抜きん出ている。狙われて当然と言えるだけのものだ。
だが早々にあの玉狛の面子が彼女を手放すようにも見えない。
となると……散らばる人型近界民は、彼女の捕獲を邪魔させないための策とも言える。



『こちら東。今から出水と緑川、それから米屋を中心に人型近界民へ攻撃を開始します。俺たち狙撃手組はその援護に向かうつもりですが、この作戦で問題ないですか?』

「構わないよ。さっきくれた敵情報を見る限りじゃ相手は射撃型トリガーを使うようだけど、地上戦だけとは限らない。空中戦の見込みも考えて攻撃に当たるよう、あの三人に指示を出しておいて」

『分かりました。柴崎さんは、これからどの方向へ?』

「そっちが苦戦しそうなら加勢に向かうけど、近くに配置している部隊を見る限りじゃ、特にそれは必要なさそうだし、俺はラービットの始末に向かうよ」


あとの指揮はお前に任せる。
そう伝え、無線より東からの了解の返答を聞いてから、柴崎は壁の陰から立ち上がる。

相手の目的から考えられる今後の展開を予想しようとしたところで、得られるものはそう多くない。
現状は刻一刻と変わりつつあるし、味方側の動きが良くなれば天秤も容易くこちら側へ傾く。
逆にあちら側の戦力が大きくなれば、ボーダー側はなんとしてでも市民の安全確保とC級隊員の退避を優先せざるを得なくなる。

なんともやりにくい戦況だ。
吐きたくなるようなため息を喉の奥で塞き止めると、柴崎は靴底で地面を蹴った。


迅から聞いていた話だと、最悪の未来ではあの三雲修が命を落とすと言う。
彼は烏間も柴崎も世話になった、空閑有吾の実の息子が属する隊の隊長だ。戦闘能力はまだまだだが、自分自身の力量と、それを見据えた作戦を立てて動く、所謂玉狛第二のブレーンとして機能しているボーダー隊員。

その点については烏間も良く自分自身を理解していると評価をしているし、柴崎においても過信をせず、その上で常に最善を目指そうとする姿勢には好感を抱いていた。

そんな彼が、迅の言う最悪の未来で死ぬかもしれない。
それはどうあっても避けさせたい未来であり、今後の彼らの為にも、潰させるような芽ではないと満場一致の意見で烏間隊は迅の要求を受け入れている。

『万が一、その時が来てしまったら』
『その時は、誰でも良い。メガネくんの命を繋いで欲しいんだ』

断る理由など何処にもなかった。
仲間を大事にすることは烏間隊の行動指針でもある。命を投げ出すような誰かが居たら、殴ってでも戻らせる。それでどんな風に思われても、命があるからできることがある。

未来は誰かの投げた小石一つで変わるのだと、彼は言っていた。
だからこそ、確かな未来は存在しない。
だから未来は、幾通りも存在する。

だから、その幾通りのラインの最も最善と言える未来を、どうにか得ようと今全員が手を伸ばして戦っているのだ。



『柴崎、そっちはどんな感じだ』


無線が一度ジジ、という音を鳴らしたあと、聞こえて来たのは烏間の声だった。
どうやらあちらは一旦状況が落ち着いたらしく、手の空いた今こうして連絡をくれたようだった。


「手当たり次第ラービットを撃ち落としてるところだよ」

『そうか。…赤井と花岡が人型近界民と接触したらしい。近くには出水と、玉狛第二の三雲修、それから……キューブ化された雨取千佳が居るとの報告だ』


走っていた柴崎の足が止まる。
キューブ化。キューブ化といえば、嵐山隊の木虎と諏訪隊の諏訪もキューブ化になったと聞く。諏訪においては本部の研究員の手によって復活したが、木虎においては未だキューブ化のままだ。


「…妥当といえば妥当か」


止めてしまった足を再び動かし、一旦瓦礫と化した家に身を潜めたあと、振り向いたラービットの目を撃ち抜く。
動きを止め、攻撃の機能を失ったそれから目を離すと、再び彼はそこから移動をする為走り出す。


『まぁな。雨取千佳といえば、トリオン量がとんでもない。狙われて当然だ』

「俺はてっきり彼女は避難しているとばかり思っていたけど、三雲くんと行動を共にしていたんだね」

『あぁ。民間の避難に当たっていたらしいが、彼女らのいた方向が南西地区だったらしい』


南西地区。情報では一番避難が進んでいる方向だ。
忍田の判断からいけば、避難の進んでいない地区を最優先とし、逆に避難の進んでいる、つまり南西地区は後回しにするというものだ。
その案自体には賢い選択とも言えた。相手はこちらの数を上回る。その利で行けば、優勢なのはアフトクラトル側だ。
しかしだからこその、一方向ずつの確実なる撃破を選択したのだろうことは、烏間にも柴崎にも、容易に想像ができた。自分達が指揮官でも、今後の戦力を考えればその策を取る。
だが今回に限って、後に回される方角には雨取千佳が居た。そのために三雲修は彼女を守ることを優先とし、そちらへ足を向けたのだろう。

そうして、力及ばずして彼女はキューブ化された。
だが烏間からの通達の続きにはこうあった。
出水、赤井、花岡の援護を受けて、三雲がキューブを手に本部へと向かっていると。
つまりまだ彼女は敵の手に渡っていないということを表す。

だがその裏側には、こういう事実が隠れていた。


「てことは、彼の死線が濃くなったわけだ」


右手に持っていたイーグレットを左手に持ち変える。屋根から屋根へ、そのあとマンションの屋上まで。換装体であることを活かし一気に飛び上がった柴崎は、着地後尚も追ってくる二体のラービットを少しばかり振り返ることで目視をした。
だが足を止めることなく走ると、彼はそのまま手摺を掴み飛び越えては、宙へ体を投げ出す。
それには当然ながらラービット二体も飛び降りた柴崎を追うために手摺までやってくる。だがその直後、一体のラービットの目に飛び降りたはずの彼の左足が打たれた。

飛び降りたと見せかけ、寸前で手摺を掴むことで距離を保つ。そのあと大凡で計った着地点にグラスホッパーを出現させれば、足元に跳ね返しを生む。
そうしてスコーピオンの特性を活かし、刃先を打った足から出現させたのだ。

的確に急所とも言える目を潰されたラービットの機能は完全に停止。直後爆破の音を立てると、土煙を周囲に立ち込めさせた。
その煙幕とも言える煙を利用してか、もう一体のラービットが横から仕掛けてくる。
だがどうやらそれすらも彼は読んでいたらしく、左手に構えていたイーグレットの銃口を残る一体、ラービットの目へ照準を合わせると、慈悲の欠けらも見せることなく真っ直ぐと撃ち抜いた。

前に一体、横に一体。
計二体のラービットを、凡そ数分間で倒した柴崎は屋上から見える三門市へと顔を向けた。
警戒区域に聳える民家の数々は瓦礫と化している。ところどころから爆音や交戦の音が聞こえてき、何処もかしこも、戦いの最中であることは十二分に窺える光景だった。



「どうにも、此処からが踏ん張りどころって感じだね」

『…あぁ、全くその通りだ。奴等が手に入れたいのは、雨取千佳が持つトリオンだ。その彼女がキューブ化したものを彼が手に持ち逃げるということは、彼自身が、敵に最も狙われることを意味する』


これが迅の言っていた未来。
三雲修の命が、生きるか死ぬかの瀬戸際になる理由の一つ。
となれば是が非でも彼の元へ、一刻も早く向かわなければならない。
向かう方向はただ一つに絞られた。


「…なら直ぐにでも本部へと向かうのが得策かな」

『それが最優先だろうな。お前は今どこにいる』

「俺は、」


風を切るような音。それを拾って直ぐ、柴崎はそこから地を蹴り飛び上がる。
その状態で振り返って見てみると、先程まで立っていた場所には大きく亀裂が入っており、タイルは剥がれ、粉砕されていた。あのままあそこに居れば、なんてこと、想像しなくても分かる。
確実に緊急脱出を余儀なくさせられていた。

柴崎は近くの家の屋根に一旦着地をする。だが間を置くことなく直ぐに振ってくる大鎌に、再度飛び上がることで彼はそこから距離を取った。


『柴崎!どうした!』


無線から烏間の声が聞こえてくる。
恐らくこちら側の音が聞こえたのだろう。
しかしどうにも、此処から先は悠長に彼と話している暇もなさそうだ。


「烏間、悪いんだけど本部には先に一人で向かってくれる?」


一度は仕舞ったスコーピオンを再度出現させる。片手にイーグレットを持ったままで闘いにくい。それに一対一の接近戦ともなれば、狙撃用のイーグレットでは相手にならない。
本当なら当たって欲しくなどなかったが、いつかのためにとトリガーの中身を少し変えておいて正解だった。
メインのトリガーには攻撃としてイーグレットとアイビス。サブには今まではスコーピオンを一つのみであったが、迅から近々大規模侵攻があると聞いてから、サブに入れていたカメレオンを外し、そこにはメインに入れていたグラスホッパーを。そして空いたそこにはもう一つ、スコーピオンを入れて攻撃力を強化させた。

まさかこれを使うことになるとは思わなかったが、接近戦のことを考えれば、あの時の判断は正しかった。
先程の屋上では左手に持っていたイーグレット。それを仕舞った今、彼の左手に持たれるものは、二つ目のスコーピオンだ。



「ほぉ玄界のやり手か。だが相手にとって不足はねぇな」


足止めを食らわされてしまったが、『これ』を本部方面へと行かせるわけにはいかない。
最悪の未来から少しでも遠ざけるためにも。
彼、三雲の元に敵の戦力を徒らに集めないためにも。

柴崎は無線の接続を本部へと切り替える。



「本部、こちら柴崎」


鎌の刃先が黒く光っている。
見れば頭に生えた角も黒だ。ということは、どうやらこれは当たりらしい。


「黒トリガーを持つと思われる人型近界民を確認。これより、戦闘を開始します」


噂に聞く、アフトクラトルの黒トリガー。
性能の分析はまだできていないが、二度の攻撃から考えても、大振りで大胆な動きをする。
取っ手の長さから、恐らく中距離戦向きだ。だが接近戦に向いていないとも言い難い。
扱いを考えれば、十二分に接近戦に持ち込める代物にもなる。
加えて特殊能力だってある筈だ。それについては未だこの目で確認していないが、出さずに戦うことはないだろう。


『柴崎くんっ!君なら理解していると思うが、くれぐれも油断はするな!こちらでもトリオン反応を確認したが、相手は確かに黒トリガーを持っている!』

「あぁ、やっぱりそうですよね。黒色の角なので、もしかしたらと思っていましたが、今ので確証を得ました」


通りであぁも容易くアスファルトで出来た障害物に亀裂を生ませ、加えて素早く重い攻撃を打ってくるわけだ。
柴崎は今一度とスコーピオンを握り直す。
目の前の人型も言っていたが、確かに、彼からしても相手にとって不足はない。
先程からラービットばかりを相手にしており、正直なところ少々骨がないと感じていたところだ。


「あんた、動きが早ぇな。まさかさっきのを躱されるとは思わなかった」


敵の武器は今のところ大鎌。あれが振るわれる範囲内に考えもなしに入れば一気に首を掻っ切られる。
どの間合いで接近し、攻撃を加えるかを判断しつつ戦闘に当たらなければならないが、そんな悠長なことをしている暇もない。


「けどまぁ、だからこそ殺り甲斐があるってモンだよなぁ!!」


大胆で、読み切るのに難しい刃の動き。
容赦無く地面を抉り、亀裂を生んではそこから飛び出す石や破片すらも巻き込んで攻撃をしてくる。
柴崎はそれらをギリギリの範囲内で避けていき、相手の攻撃パターンを脳内にインプットしていく。
一回一回の打撃が重い。地響きとも言える音を轟かせてくる。


「避けてばっかじゃ、俺には勝てねぇぞ。玄界の人間よォ!」


加えて攻撃範囲が広い。間合いを詰めるにはタイミングが必要になる。
だがその反面、乱暴な動きなだけあって粗が見られた。

柴崎は自身の利き足付近、それと敵の左側、そして背後にグラスホッパー出現させる。そしてそれを踏むことで跳躍を生ませ、一気に背後を取った。

攻撃力もさることながら、守備も固い。
だがその荒っぽい動きが逆に隙と言える空間を生み出していることを、柴崎はこの短時間で読み取ったらしい。
相手はこうも容易く背後を取られるのは思っていなかったのか、僅かな気の焦りから刃先を直様柴崎へと向ける。
弧を描き、放射線を描くようなその攻撃。


「ッ、何!?」


攻守と言える攻撃が来ないなんて読みはしていない。
相手は黒トリガー。その性能と機能、力はノーマルトリガーとは段違いだ。
だからこそ、油断なんて1ミリもしていない。勿論過信の一つもだ。
柴崎は大鎌がその身を掠る一歩手前で足を止める。それに一瞬の隙を生ませた相手の懐へ、鎌の下を潜るように身を屈ませ接近すると、出現させたスコーピオンで相手の片腕を下から斬り落とした。
その時に、敵の目と柴崎の目とが合う。

僅かな焦燥と、静寂さと。
対極的な色を見せるそれに、相手は口角を持ち上げずには居られなかった。


「ははっ、優男だと思っていたら、とんだ勘違いだ。あんた、俺のこと殺す満々だろ」

「敵に慈悲を与えるほど優しく出来てないんだ、悪いね」

「っふ、あはははは!気に入った!なぁおい、あんたこっち側に来いよ」


玄界には勿体ねぇ!
そう話す相手に、柴崎は此処が戦場であり、相手は黒トリガー所持者であることを忘れたかのようにポカンとする。
コレは一体、何を言っているんだろうか。たった今片腕を斬り落とされたばかりだと言うのに。否、もしかすると笑えるだけの余裕が相手にはあることを表しているのかもしれない。
だとするとまだまだ油断など出来ない。


「俺の名前はカーター。あんた名前は?」

「…………」

「おいおいおい。んな疑心満載な顔すんなよ。よく見りゃ綺麗な顔してんじゃん。嫁に来るか?」

「行かない」


なんだか、とてもやりにくい。いっそ殺す勢いで殺気を出してくれた方がどれほどやりやすいか。
けれど何故だが先程まで纏われていただろう殺意や戦闘欲求なるものが、相手から薄れている気がしてならない。
……だとすればだ。此処を離れて三雲の方へ行った方が今この時ばかりは良いのではないかとすら思える。
しかしもしも、この薄れた殺気と戦闘意欲が意図的なものだとしたら。背を向けた瞬間、斬られる可能性も捨て切れない。
となると、そう容易に背は向けられない。


「(烏間と一旦通信を取って……いや、でもあいつが本部の方へ向かっていたなら、それはそれでこっちへ呼ぶ必要はなくなるし……一応確認を取るためにも、一度無線を繋いだ方が無難かもしれない)」


相手に戦う意欲あるないに関わらず、互いの現状把握はしておくべきだ。先程は一旦彼との連絡をこちら側が一方的に切ってしまったし、もしかするとお冠かもしれないが。


「こちら柴崎。烏間、今どう」

『どうもこうもあるか!!』


キーーーーーン。
まるで耳の鼓膜をやられたかと思うほどの怒声とも言えそうな彼、烏間の声に柴崎は少しフラつきそうになる。
やっぱり、いや思っていたよりも怒っているらしい。


『話している最中で無線を切るな!』

「うんうん、そうだよね、ごめんごめん」

『お前な……こっちがどれだけ心配したかと……っ、っまぁもうこの話はいい。忍田さんからお前の居る方向と、志保には視覚情報を繋げてもらった。いいな柴崎。そこを動くな。絶対にだ』

「、え。いやでも」

『動くな。隊長命令だ』


そうしてプツリと切れる無線。
先程は話している最中に無線を切るなと言っていたというのに、言った本人が次はそれをするとはどういう了見なのだろうか。
しかしまぁさっきのことは確実に自分が悪かったと思うので言い訳はしない。誰でも味方から話の最中に無線を切られると焦る。


「今のなに?恋人?」

「お前呑気だね……これから此処に鬼が来るんだよ」

「鬼?おお、角付きか?俺みたく」

「あぁもうよく似たもんかな」


多分ね。
なんて話をしていたら、無線で話していた距離は案外近かったらしい。それと、まぁまぁなかなかに殺気だっているので、攻撃に一つの容赦もなにもない。
おかげで辺りは綺麗さっぱり更地、とまでは行かないが、警戒区域内の民家二、三軒は衝撃でぶっ飛んだように思う。


「っぶね〜……なんだこいつ」

「ちっ、」

「うわ舌打ちしやがった!!」


なんだこいつ!!
そう二度目と言える発言をした敵、カーターは背後から孤月で旋空を放ち、今は柴崎の少し前へ降り立った烏間を指差してはキャンキャン吠える。
その吠えられる彼はというと、先程の旋空を避けた彼に一応は黒トリガーとしての使用者であることを認めたらしい。
だが収め切れなかった本心と本音を舌打ちに乗せて眉間には皺を寄せていた。
そんな隊長の姿に、柴崎はスコーピオンを手にしたままで「あちゃー……」といった様子で見遣る。
そういえばだが、彼は志保からこちらの見た視覚情報を共有してもらったとか。

するともしかすると、もしかするかもしれない。



「柴崎」

「うんともYESとも言ってないの知ってるでしょ」

「お前はどうして敵に対してもそういうことになるのか殆疑問なんだが」

「うん。俺も知りたい。なんでなんだろうね」


やっぱり、当たっていた。
ついさっきカーターから発せられた「気に入った!なぁおい、あんたこっち側に来いよ」と「おいおいおい。んな疑心満載な顔すんなよ。よく見りゃ綺麗な顔してんじゃん。嫁に来るか?」はしっかり烏間にも伝わっていたらしい。
いやぁ、そんなところまで視覚を共有させなくてもいいんだけどなぁ、志保。と思うものの、多分彼女も彼女で思うところがあったのだろう。
何せ志保からすれば、柴崎は最愛の兄。不要だと思える要因があれば同じく兄を(形は違えど)愛している烏間へ通達するのが彼女の役目でもある(らしい)


「へぇ、お前柴崎っつーのか。よし、柴崎。俺と来い!」

「(駄目だ圧倒的に空気の読めない馬鹿がいる)」


火に油。波風を立てまくりである。
これではもうあちゃーー……では済まない。現に柴崎より少し前に立つ烏間は無言。見なくても分かるくらいに機嫌は最高潮に悪い。確実に。絶対。限りなく。
これを収めるのは誰だと思っているのか。どこにもやれない文句を柴崎は己の心の中で嘆いた。


「お前に戦闘意欲がないなら、こちらとしては用がない」

「戦闘意欲がねぇことはねぇよ。柴崎の動きは最高に血が騒いだ。腕も一本持ってかれたしな」

「……なら二択を出す。続行か、撤退か。選べ」


腰に添えてある孤月の柄に、烏間の手が添えられる。
それを見た柴崎もまた自身の手に握るスコーピオンを再度握り直した。
カーターはそんな二人を前に、またしても無意識のうちに口角が上がる感覚を覚える。
これだから、戦うことはやめられない。



「続行、だな」


鞘から孤月が抜き取られる。
片手だけに持っていたスコーピオンをもう片方にも持ち、構える。
相手の大鎌の刃先は確かに、烏間と柴崎を向いた。

戦闘続行の合図である。


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