その意味を知ることになる 2




「……一体こいつは何を企んでいるんだ。という様な顔をしないでもらえるか」

「…あまりに突拍子もないのでつい。悪気はありません」



そう彼に返す柴崎だが、頭の中こうである。

突然なんだ。一体何を聞きたいんだ。まさかまだ性懲りもなくFBIへの勧誘でもしようというのか?全く勘弁してくれ。…だ。いやはや彼も彼で相当この手に警戒していた。




「純粋な探究心だ。そう警戒しないでくれ」

「…特別貴方に教える様な事はありませんが」


そう言って、足を一歩烏間の方へ。…しかし、




「……あの、腕…」

「まだ聞いていないんでな」

「いや、だから…、話すことなんて何もありません」


なので離して下さい、と返すもその腕はなかなか離されない。どうやらこの男、知りたいことを一つでも知るまではそう簡単に手を引かぬと言ったところらしい。




「(困ったな…勧誘と同等ほどに厄介だ)」


さてどうしてここから逃げれば良いか…。柴崎は頭を動かし考える。しかし自身が行動するよりも早く、掴まれている腕とは逆の腕を強く引かれた。



「…っ!」


すると赤井が掴んでいた腕は引かれた強さにより解かれてしまう。




「…知り合い曰く、しつこい男は嫌われるらしい」

「……、…っふ、それは勘弁願いたいな」



前と、後ろと。そこから聞こえる会話に目が白黒する。…今、自分は何処にいるんだ?




「ッ、!」

「っと、…? どうした、柴崎」

「ど、どうしたって…っ」



先程まで烏間の片腕の中に居た柴崎。思わぬ事に頭が些かついて行かなかったが、現状を把握し、直様そこから脱したのだ。烏間に目を向けたが本人はどうしたと聞いてくる。しかしどちらかというとこちらがどうしたと聞きたいくらいなのだが、




「(…あれ、俺が可笑しいのか…?)」



あぁも普通に返されると、段々何が正しいのか頭がゴッチャゴチャになってくるのであった。

うーん…と悩む様に考えている柴崎。そんな彼の後ろにいる赤井はあるものが目に入った。






「…赤、」



ほんの少し、薄れて見えたそれは、あまりに艶やかに見え…目が離せなかった。白い肌に浮かぶ印…。それには自身にも見覚えがあり、しかし付けられるか付けるかといえば、付ける側であった。




「(…なるほど)」



そういう事か。赤井はある事を察し、目の前の彼等に目をやった。以前から、とはいえ会ったのは数数える程度だが、それでも彼等の間にある何かは他と違っていた。言うならば見えない絆、そして深い深い…容易に切れそうにない糸。





「……」


恐らくその糸が今までに何度か迷いを産んだこともあったろう。しかしその迷いのおかげか、今では強くしなやかに、真っ直ぐなものになっている。…そう、赤井には見えたのだ。





「(……最初から、無理な話だったか)」



彼のその手を取ってアメリカへ。その技術とセンス、そして冷静さから生まれる明晰な頭脳。どれを取ってもここ日本では勿体無いと思えるものばかり。それらをここで埋めてしまうくらいなら連れて行き、秀でたその才能を失わせない。…そう考えていた。けれど、





「柴崎くん」

「? はい」



どうやら、それは少々難しい様だ。




「烏間くんに嫌気を差せは、いつでも俺のところに来ると良い」

「は…?」

「君なら歓迎する」



だからこれくらいは許されるだろう。初めに持った彼への興味が、違う興味へと向きつつあるこの思いに目を逸らすか逸らさないか。…しかし逸らさなければ、これは中々スリルのあるものになりそうだ。




「あの…」

「あぁ、後、ここのそれ」

「それ?」

「君の白い肌だと、それは中々に目に毒でな。あまりに綺麗で少々目を離せなかったよ」

「?…っ、!」



ばっ、と首筋に手を当てた柴崎。次第に淡く染まる頬に赤井はほぉ…と、声を漏らした。





「君もそういう顔をするのか。これは良いものを…っと、………そう警戒しないでくれ。見えたのはたまたまさ。つい視界に入ってな」

「…、…行くぞ、柴崎」

「え、っあ、ちょっと、烏間…!」



柴崎の腕を引き、背中を向け歩いていく烏間。しかし赤井はそんな彼に声を掛けた。




「烏間くん」

「……」


名前を呼ばれ、足を止めれば軽く後ろを振り返る。





「…彼が大事なら、その手を離さないことだ」

「……」

「ちゃんと握っておかなければ、いつの間にか手の平から滑り落ちていくぞ」



そう…。緩く、手を離したその瞬間、離れていく。容易く、簡単に、思いがけない程にするりと…。





「…それかもしくは、…俺に掻っ攫われるか」



小さな笑みをその口元に浮かべて、赤井は真っ直ぐと烏間に目を向ければそう告げた。告げられた彼はといえば、ただ静かに赤井からの言葉を聞き、そして軽く笑った。



「……っふ、生憎だが、それはないな」



余裕とも取れるその言葉。それを発した後、彼は柴崎から手を離せばまるで見せ付けるようにその肩を抱いた。途端に縮まる距離に引き寄せられた体。柴崎は思わず声を上げて彼の名前を呼んだ。




「っ、烏間…!」


胸上辺りに触れて、その体を離そうとする。しかし距離はまるで広まりを見せず、変わらぬままだ。




「そう簡単に掻っ攫われてしまう程、俺はぼんやりしていない。勿論、柴崎もな」



それだけを告げれば、烏間は柴崎の肩に回していた手を離し、自然にその手首を掴んで歩き出した。

去って行く2つの後ろ姿。赤井はそれを見送り、そして静かに煙草を取り出し火を点けた。




「…ふぅ…」


宙へ昇る灰色の煙。それに目をやって、赤井は近くの壁への凭れ掛かった。





「…少し火を付けてしまったか」



これで彼は完全にこちらを良い目で見ない。それは人間的に好き嫌いというものではなく、彼…柴崎に関しての事でだ。警戒や威嚇といった子供じみた嫉妬心ではなく、ただ単純に彼を守るため。

過去に一時的とはいえ属していたFBI。 今でこそ身を置いてはいないが、もしも何が引き金となり、下手に関わりを持ったせいで要らぬ危険に巻き込まれでもしたら…。聡明で冷静な彼、烏間はそれを危惧し、線引きをした。




「…後はまぁ、純粋な私情か」



自身の想い者に容易く手を出すな、という、彼なりの牽制。

赤井はもう一度灰色を生み出せば、壁から背を離し足を動かした。




「(…だが、興味を持ってしまったのは仕方がない)」


だから彼には悪いが、もう少し手は出してしまいそうだ。といえ勿論、烏間の思い同様に自身だって彼を危険な目に遭わしたいなど露ほども思っちゃいない。




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