君と過ごす時間
シルビアが来て3ヶ月が経った。その間、1度は敵からの襲来があったけど平和に過ごしている。
この平和も幸せで好きだけど、プリンセスとシルビアが笑って過ごしているのが何よりの幸せ。



昼食を終え、訓練をした後私はシルビアの部屋を訪れた。



ヒ「…シルビア?」


でも、部屋にはシルビアか居なかった。

ヒ「どこに行ったのかしら…」


とりあえず、探してみようと歩き出す。
キョロキョロと辺りを見ていると、前からファイターが歩いてくるのが見えた。




ヒ「ねぇ、ファイター」

ファ「あら、ヒーラー。どうしたの?」

ヒ「シルビアを見てない?」

ファ「シルビア?そうね…、部屋には居なかったの?」

ヒ「行ってみたけど居なかったのよ」

ファ「んー…、あ、ならあそこじゃないかしら!」

ヒ「あそこ?」

ファ「シルビアね、金木犀が好きらしいのよ。で、沢山咲いてある金木犀の花畑がシルビアのもう一つの憩いの場らしいわよ」

ヒ「金木犀の花畑…、そう、ありがとう」

ファ「あ、もし行くならメイカーの所によっていくといいわ。美味しいスコーンを焼いてくれていると思うから!」

ヒ「そうするわ」



ファイターと別れ、メイカーの所へ行く。キッチンに行けばちょうど焼きあがったのか美味しそうなスコーンがあった。



メ「ヒーラーどうしたの?」

ヒ「あ、今からシルビアの所に行こうと思って…」

メ「なら、このスコーンを持って行くといいわ。ちょうど出来上がったからサクサクで美味しいわよ」

ヒ「貰っていいの?」

メ「構わないわよ。シルビア、スコーンが好きだって言ってたから、きっと喜ぶわ」

ヒ「…シルビア、スコーン好きなのね」

メ「みたいね。甘いものは全般好きみたいだけど、1番はスコーンみたい」

ヒ「そう…。じゃあ貰ってくわね」

メ「えぇ」



メイカーからスコーンを何個か貰ってキッチンを出る。

シルビアの好きな場所も分かって、シルビアの好きなスコーンも貰って、後はシルビアの元へ行くだけ。
なのに、心がもやもやする。

ファイターもメイカーも、シルビアの好きなものを良く知ってる。けど、私は知らなかった。
2人ともシルビアの優しくて温かい星の光が好き。勿論私も大好き。
大好きだから、自然とそばにいたいと思ってしまう。
プリンセス以外にこんなことを思うのは初めてだった。
戸惑いはあった。けど、嫌な戸惑いじゃなかった。





ヒ「シルビア」

「あら、ヒーラー」


振り返って、こうして名前を呼んで、微笑んでくれることも、大好き。



ヒ「ここに居たのね。部屋に行ったけど居なかったから探したわ」

「探してくれてたのね、ごめんなさい。ここが好きだから、つい来てしまうの」


沢山の金木犀の木々。一面に咲く色とりどりの花々。



「あら、なんだか甘い香りがするわ」

ヒ「あぁ、スコーンを持ってきたのよ」

「まぁ!スコーンを!嬉しい」

ヒ「隣に座っても、大丈夫?」

「もちろんよ。さぁ」



場所を開けてくれたところに座る。
ふわっと風が吹き、シルビアから優しい香りがする。




「ふふ、こうしてヒーラーとお茶が出来るなんて幸せね」

ヒ「え…」

「最近、忙しそうにしていたでしょう?ゆっくり貴方と話す時がなかったからこうしてお茶が出来て嬉しいのよ」

ヒ「気付いてたの?私が、忙しかったこと…」

「えぇ、もちろん。ヒーラーはとても真面目な人だから時々倒れてしまわないか心配だわ」

ヒ「だ、大丈夫よ。それに、プリンセスとシルビアのためだったら、これくらい…」


そう。プリンセスとシルビアの為なら、少しくらいの無茶どうってことない。
2人が私たちのそばで笑ってくれているならなんだって乗り越えれる。



「ふふ、ねぇヒーラー。ここいらっしゃいな」

ヒ「え?ここって…、シルビアの膝!?」

「せっかくのゆったりした時間なんだもの。少し寝てはどう?」

ヒ「そんな、いいわよ!」

「あら、遠慮しなくていいのよ?」

ヒ「でも…」

「さぁさぁ、いらっしゃい」



腕を引かれて膝の上に寝転がされる。上を見れば優しい表情をしたシルビア。
ゆったりとした時間がゆっくりと過ぎていく。今、この場所には2人しかいない。

心の中にあった、モヤモヤとした気持ちをポツリと口に出した。




ヒ「…ねぇ、シルビア」

「どうしたの?」

ヒ「本当はね、この場所を教えてくれたのはファイターだったの。シルビアは金木犀が好きだから、金木犀の花畑にいるはずだって。それに、持ってきたスコーンだって、メイカーが作ってくれたもの。シルビアはスコーンが好きだから持って行ったらいいって…。2人は、シルビアの好きな物や場所を良く知ってる。けど、私は、知らないの」



そう、私は知らない。シルビアを守りたい、シルビアのそばに居たいと思っても、私はシルビアのことを何も知らない。
それが、とても悲しくて悔しい。





「ねぇ、ヒーラー」

ヒ「なに?」

「ヒーラーは、私のこと良く守って良く見てくれているわ」

ヒ「そんなこと…」

「いいえ。初めて会った時、貴方は私が転ばないように手を差し伸べてくれた。おかげで、私は転ばずに済んだわ。とても、嬉しかったのよ。それに、休みになると疲れてるだろうに私の所へ来て、一緒に過ごしてくれる。怪我をすれば一番に気付いて手当てをしてくれる。涙脆い私が涙を流せばそっと寄り添ってくれる」



シルビアの手が私の頬に触れる。


「貴方と過ごす時間は、とてもとても私にとって大切な時間、憩いの時間。貴方の守るこの星でこうして過ごすことができるのも、偏に貴方の力があってこそ。だから、もっと自信を持って。ヒーラーは、私以上に私のことを知ってくれているわ」


だから、悲観的に考えなくていいの、と言ってくれることが嬉しくて起き上がってぎゅっと抱きしめた。




ヒ「…私、これからも貴方を守るわ。もっと、もっと強くなって、シルビアを守る」



だから、そばに居て欲しい。これからも、ずっと。私のそばで笑っていて。

あぁ、私、こんなにもシルビアが好きだったのね。
プリンセスやファイター、メイカーを好きだと思う気持ちとはまた違う。
こんな気持ちは初めて。





「ありがとう、ヒーラー」



貴方がいれば、私は強くなれる。


この気持ちを伝えるのは、もう少し、後にするわ。

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