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軍服を着、前を閉じる。



「主、御気分はいかがですか?」


後ろからの声に振り向き口を開く。


「問題ないよ」

「それは何よりです。さぁさぁ、私が作った朝食、是非とも召し上がってくださいまし」

「本当紅はなんでも出来ちゃうね」

「ふふふ、主の為なら私なんでも致しますわ」


自室の扉へ向かえば紅朱雀が笑っており、志苑が近付けば彼女は笑みを浮かべて彼の腕を取った。




「お飲み物は…」

「待って」

「?」


志苑は紅朱雀の手を取り座らせる。



「それは俺が入れるよ」

「えっ、そ、そんな…!いけませんわ、私が…!」

「ねぇ、紅。今日からまた戦場だ」

「……」


立ち上がりかけた彼女をもう一度座らせ、彼・志苑は少し腰を折って話す。



「俺にはお前がいないと生きられない」

「…主…」

「紅が居てくれないと、俺はただの弱い人間なんだ。…だからこれくらいさせてよ」


紅朱雀が居るから志苑は戦場でも立っていられる。彼女、鬼呪装備である紅朱雀が居るから吸血鬼を目の前にしても生きていられる。居なければ、それはただの弱い人間で、簡単に死んでしまう脆いものだ。



「お礼とか、何もしてあげられないからさ…。だからこれくらいはね」

「……主は、とてもお優しい方ですのね」

「え? はは、どうして。そんな事ないよ」

「いいえ、貴方はとてもお優しい方です。……主」

「ん?」

「私は鬼呪装備、鬼ですわ。…人の欲望を食らって生きる、醜い鬼」

「………」

「……けれど、」


そっと、志苑の頬に手を伸ばし、触れる。人の子の温もりが紅朱雀の手へと移った。




「…貴方様と出会って、私は主の為に生きたいと思いましたの」

「…、」

「鬼であっても、鬼呪装備であっても、私のこの身が滅びる時は貴方様が滅びる時。……だからそう簡単に死なせませんわ」



するり…と頬から首へ。そして腕を絡めて体を寄せた。



「…私が貴方を、何処までも守ってさしあげます」


だからどうか手放さないで。貴方が私の名前を呼んでくれさえすれば、いつだって飛んでみせる。いつだって戦場で羽を広げてみせる。



「鬼よりも酷く欲深いモノたちに、我が主を渡さないわ」


澄血というだけで吸血鬼からも人間からも狙われてしまう。欲されてしまう。人間は脆い。人間は弱い。だから守ってあげる。最後の最後まで、もう血ではなく主自身に虜になってしまったこの醜い鬼が。



「…っ、」

「…ありがとう、紅」


紅朱雀の背中に回る腕。それが一度強くなれば、ゆっくり力が抜けていき、体が離れる。志苑を見上げる紅朱雀、そんな彼女を見下ろす志苑。



「でもあんまり無理をするのはいけないよ」

「……」

「ふふ。そんな膨れた顔しなくても。……大丈夫」


こつん、と額と額を合わせる。



「生きるよ。必ず生きる」

「主…」

「守りたいものがあるんだ。だからこんなところで死ねない」

「…それはあの坊やですか?」


あの坊や。恐らく優を指す。



「…うん。頑固で、優しくて、真っ直ぐで…。見ていないと生き急ぎそうでさ。…でもあの子には内緒だよ」

「まぁ、何故ですの?」

「きっと照れて顔を見てくれなくなるから」


額を離し、志苑は笑ってそう話す。


「だからこれは俺と紅の秘密ね」

「!…っふふふ、えぇ、主と私の秘密ですわ」


笑う紅朱雀を見てから、志苑は彼女に背を向ける。



「今入れてくるよ。待ってて」

「はい」



あと何度こうして朝を迎えられるか分からない。けれど生きている限り、生きられる限り、「生」を感じたい。「死」は何も感じられなくなるから。













与一は見えてきた姿に顔を綻ばせた。



「あ!志苑さーん!」


彼の声に側にいた君月もそちらに目を向ける。名前を呼ばれた志苑は目線をそちらにやった。


「おはようございます、志苑さん」

「おはよう。へぇ、似合ってるね制服」

「えへへ…っ、」


彼が着ているのはもう普通の学校の制服ではない。吸血鬼殲滅部隊・月鬼ノ組の制服だ。



「君月くんもおはよう。似合ってるよ、その制服」

「ありがとうございます」


ペコ、と頭を下げて礼を言う辺り彼らしい。




「で、あれは何?」

「あー、あれは…」

「あはは…、…あれは、そのー…」


そうここから離れていない方へ3人が向けた視線の先には、言い合う2人が居る。とは言え片方が片方に言っているだけで、言われている側は頭を掻いている。


「志苑さん、なんとか出来ませんか」

「僕らが来てからずっとあぁで…」

「…まぁ三葉があぁなるのも仕方ないと言えば仕方ないけど…」


けれど言われている彼、グレンが決めたなら意見はしない。それに従うまでだ。志苑は朝から頭が痛い…と1度こめかみに触れるとそちらに足を向けた。



「今回の配属はどういうことですか!」

「どうって、そのまんまだろうが。お前は分隊長であるシノアの隊にだな…」

「それが納得いきません!」

「はいはい、落ち着いて、三葉」

「っ!…っ志苑さん!」

「お、志苑か」


グレンに食ってかかっていた少女、三葉に落ち着けと声を掛け言い合いをとりあえず止める。



「志苑さんも今回の配属話は…」

「聞いてたよ。君は今回組まれた新人部隊の中に配属されて、そこの隊の分隊長がシノアだってこともね」

「っ、どうしてですか!納得いきません!何故あたしが新人ばかりの部隊に配属されるんです!13の時から殲滅部隊にいるエリートですよ!!」


三葉の言葉を聞きながら、後ろからの声を耳に拾った。あれは優とシノアだ。彼等もここにやってきたのだろう。これで全員が来た。なら、早いところこの話を切り上げる必要がある。何せこれから任務が始まるからだ。


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