No title | ナノ


expectation  




「…、」

『主、お疲れではありませんか?』

「大丈夫だよ。欠伸したのバレた?」

『まぁ、されたのですか?…やはり少しお休みになられた方が…』

「んー…。…ま、する事し終えてからかな。休むのは」


人の居ない廊下を歩き、鬼呪装備から伝わる紅朱雀の声にそう返す。思い出されるのは昨日の夜、執務室での会話だ。





「明日の朝。月鬼ノ組研究教室」

「……は?」

「んじゃあな」

「…こらこら、どこ行くの。まさか言い逃げ?もう少し詳細くれない?」

「やっただろうが。詳細」

「詳細って漢字書ける?詳しく細かくだよ。お前のは概略。真逆だよ」


書類を書いていた手を止めて扉に向かうグレンを呼び止めそう言う。



「だーから!明日の朝、月鬼ノ組研究教室だっつってんだろ」

「だからそれが何。そこから先の情報が俺は欲しいんだよ」

「優と与一」

「……何時」

「朝」

「朝の何時」

「9時」

「…はぁ。了解」


頭痛い…とこめかみ辺りを指で揉む。面倒臭い会話だ。一度に言ってくれと心の中で愚痴る志苑。



「なんならモーニングコールでもして…「はいはい、帰った帰った。おやすみ、良い夢を」…遮んな!」







「(本当遊びに来たんだか伝達しに来たんだか分からないよね)」


だがそれも慣れたなと思うと時が流れるのは早い。初めて出会った頃をぼんやりと思い出した。そうこうしていれば見えて来た月鬼ノ組研究教室。




「誰がアホだよ!!?」

「よ…弱虫……弱虫……」


物凄く対照的な声が聞こえて教室に入るのが嫌になった。けれど時計を見れば8:50。行かなければ後がややこしいので仕方なく足を止めずにそちらへ向かう。



「…?…あ、志苑さん」

「おはよう」

「おはようございます」


扉に近付き少し中を伺えば、近くに居たシノアが志苑に気付き彼を見上げた。互いに挨拶をし、志苑は中へと視線を移す。



「ははっ。見て、あのグレンの顔。笑っちゃうね」

「あはは。本当ですねぇ。ポカン顔ですよ、あれ」


2人の視線の先にいるグレンはシノアの言う通りポカン顔。というのも、優の「いらねぇよ。俺ら友達作りに来たんじゃねぇんだ」発言が原因である。




「えええ、ちょ、優くん?あの、優くん?;;」


止める与一の声を無視し、彼は黒板の前に行き拳でそこを打った。


「ここにいる奴らにも言っとくが、俺はお前らと馴れ合うつもりねぇから!!」


言われる側のクラスメイト達はたらりと汗を掻く。



「大体この研究教室は…あんたの腰に刺さってるみたいな鬼呪装備の契約が出来る人材かどうかを見極めるとこなんだろ?」


近くに居るグレンを指差し優は話す。


「んじゃ今から宣言しとく。ここにいるクズ共が今まで何勉強してたかは知らねぇがお前らがやってたことは無駄だ!!一番良い武器は俺が貰うことになった!!以上!!」


あぁ駄目だ、笑いそう。色々と朝から辛いな。志苑は込み上げる笑いを殺してそう思う。きっと今にもグレンの口からは火を吹くだろう。本当、今の所断トツで意外性No.1である。



「以上じゃねえええええ!!」


案の定怒ったグレンから思い切り蹴りを頂き、優の体は飛んでいく。そして志苑の近くまで転がってきた。どうやら口だけではなく足までも火を吹いたようだ。



「お前は普通科で一体何を学んで来たんだ!!?協調性ねぇ奴はやめさすっつったろ!!このアホが!!グズ!!童貞!!」

「っふふ…ッ、」

「あ!?」


笑い声が聞こえ視線を上げる。そこには緩く結んだ拳を口元に添えて笑う志苑の姿が。


「っおいコラ志苑!!お前遅ぇんだよ!!」

「あははっ、別に遅れてないよ。ちゃんと10分前には来てたし」

「来てましたよ、志苑さん。私と話ししてましたから」

「そうそう」

「話ししてるくらいならこいつ止めろ!!傍観すんな!!」

「してないよ、人聞きの悪い。勢いある会話に入れなかっただけで」

「お前なら入れんだろうがっ!」

「本当グレンは無茶ばかり言うんだから。困るなぁ…」


小さな笑みを浮かべてそう話す。すると自分の近くで倒れていた優が立ち上がり、グレンに食ってかかって行く。その姿に目をやり眺めた。



「てんめぇっ、童貞関係ねぇし大体志苑兄さんの前で何言ってんだよおおおおお!!!」

「事実だろうが馬鹿野郎!!」


向かっていってもまたグレンから足蹴にされている。



「いやぁ、初日から大荒れですねぇ」

「本当だね。洪水になるんじゃない?大丈夫かな」

「その時は志苑さん、よろしくお願いします」

「尻拭いは嫌だから断らせてもらうよ」

「えー?」


シノアと志苑がのんびり話す傍、グレンは足でもう一度優を強く蹴った。


「ぐあっ!!」

「あぁもう良い、座れ馬鹿が!あー、席は………、あそこな」



指差した先。そこはぐーすか寝ている生徒の前。生徒達は思った。まさかの君月くんの前だ…と。


「(なんでよりによって君月くんの前!?)」

「(混ぜるな危険だろ絶対!!)」


そんな事を思われているとは露知らず、優は噂(?)の君月の前の席へと向かう。



「くそ、グレンの馬鹿力め…」


言われた席へ頭を摩りながら向かう。


「ん?」


これから優の席になるであろう方へ足を投げ出す君月。それに気付き声を掛ける。


「なんだよお前…。ここ俺の席になったから足向けんなよ。おいお前聞いてんのか!」

「んだよ、うっせーな…。もう昼か?」

「「……」」


顔に被せていた教科書を取り、そして合う目。少しの沈黙後、騒ぐ声がその場にいた全員の耳を劈いた。



「んな…!!てめぇ今朝の電柱!!?何でこんなとこに!!?」

「ふざけんなそりゃこっちのセリフ…電柱ってなんだコラァッ!!!」


殴り蹴りの攻防。最早そこだけが騒々しい。それを見つめるグレン。そしてシノアに志苑。


prev / next



.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -