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そこで どうでしょうか?とシノアは志苑を見る。彼はその視線に一つ頷く。志苑もそれに同意見だ。出来ることならこちらの被害は少なく、敵は皆殺しがベストであろう。志苑の頷きにシノアも同じく返し、そして再び優達の方を向いて口を開く。



「なので独断専行は…」

「しねぇよ。無傷で奴らを皆殺し……。いいじゃねぇか」

「では行きましょうか。陣形を崩さず、互いを守り、絶対にはぐれないように。良いですか?」

「あぁ」

「ん」

「はい」

「よし」

「では吸血鬼を皆殺しにましょう〜、おー!」

「「「「………」」」」


1人違うテンションなシノアに残り4人は無言。志苑と言えば苦笑い。彼女は恐らく緊張の走るここに少しの緩みを持たせたかったのだろう。これからは生死を掛けた戦い。息つく間もなく武器を振るわなければならないのだ。



「(…無事新宿まで行ければ…)」


そこで他と合流し、吸血鬼達を殺せれば万々歳。もっと言うならば、こちら側の被害が少なければ…。



「……それは贅沢かな」



戦争では難しい。


志苑は暗い地下の階段に一歩足を踏み入れた。降りて行けば所々に見える人の影。それに君月は気付く。




「…これは…」

「うわ、人間でいっぱい…」

「どうなってる?吸血鬼が居ないのにこいつら何で逃げずにここに居る?」


彼らが着ている服。それは過去、優と志苑も身に付けたことのある…家畜の服。それを見た優は目を開く。



「…っ、」

「…前に進もう、優」

「兄さん…」


見上げた先の志苑は真っ直ぐと前を向いていた。覚えていないわけがない。あの服を。けれど彼は目を背けなかった。


「吸血鬼が居るっていうB3フロアまで行くよ」

「…あぁ」


優もまた前を向き、再び足を動かした。そして着いたB3フロア。さっきより多くなった人の姿。そしてそこに現れた…



「総員攻撃準備!!!」


吸血鬼。

全員が抜刀する。志苑も紅朱雀を構えた。



「仲間を呼ばれる前に…、っ!!」

「おおお!!!」


1匹の吸血鬼が刀で突き刺される。先陣を切ったのは優だ。


「ガァっ、この家畜が…っ!!」

「はは。その家畜に殺される気分はどうだバケモン。消えろ」


そのまま灰となり、まずは1匹の吸血鬼が死ぬ。


「……!!この馬鹿が……っ!!あれほど独断専行はするなと…!!」

「独断専行じゃねぇ。敵は非武装だった。抜刀の命令も待った。お前こそ戦地でぐたぐた文句付けてんじゃ…」


そこまで言い、優は三葉の手を引く。そして響くは刃が擦り合う音。三葉の背後から現れた吸血鬼の刀と、それに対抗する優の刀からだ。彼は三葉を後ろにやると吸血鬼と対面する。



「はっはー。いいね。こーいうのを俺は待ってたんだよ。8年もな!!」

「馬鹿め。そんな大振りで我を殺せると…」


一瞬だった。一瞬で話していた吸血鬼は優の刀によって消された。今までに見たことのないその力に三葉は目を開く。



「な……何だその力は……」

「やーやー」


パチパチ、と響くのはシノアが奏でる拍手音。



「志苑さんの家族であり、グレン中佐の秘蔵っ子ですから強いっていうのは分かっていましたがまさかこれほどとは」

「凄いよ優くん!」

「俺よりは弱ぇけどな」

「は?じゃあてめぇ実力見せてみろよ」


君月と言い合う優を見て、三葉は信じられないという顔をする。


「ふふ。グレン中佐お気に入りのチームワークのない問題児です。あれでも志苑さんとは家族で、あの人も彼のことを痛く可愛がっているんですよ。…まぁでも問題児なのは問題児なので、だからみっちゃんに育ててもらおうと思ったんじゃないですかねぇ?志苑さんの言う、適材適所ってやつです」


その言葉に三葉は1度志苑を見る。



「…志苑さん、あたし…」

「…三葉には三葉の出来ることがあるよ。それはこのチームでも、そして自分自身に対してもね」

「自分自身…」


視線を下げる。浮かんだ過去に頭を振る。今はそれどころではない。



「………よし、お前ら浮かれるな。まだ敵は5人い…」

「三葉ッ!」


後ろのガラスに映る影。それにいち早く気付いた志苑は三葉の名前を呼ぶ。だが一歩遅く、彼女の後ろのガラスは大きな音を立てて割れ、そこから吸血鬼が現れた。


「なっ……!!」


そのまま首を掴まれてしまう。数は全て7人。情報とは違う。



「…どういうことだ…っ、情報と数が合わな…」

「情報?はは、それは誰が出した情報かな?」


思い出されるは昨日の晩。一瞬見えた、言葉とは裏腹に、嘘と分かっていながら自分の心を痛めて涙を流す少女の姿。



「…貴様ら…っ、子供を利用して…っ、」

「ふふ。人間は醜いよなぁ。家族や仲間を人質にされたら平気で同族を売る」


ざわり、と頭の奥がざわつく。



「…?」


志苑は自身の頭に手を当てた。なんだ、この感じは。理由の見えない波が頭の奥で立った気がした。しかし今はそんな事よりこの場をなんとかしなければならない。下手に動けば三葉は死ぬ。だが動かなければ優が動きそうだ。そこまで考え、さてどうするか…と、考える。



「さて動くな、人間。仲間を殺されたくなければ大人しく…」

「くそ!!あたしはもう終わりだ!!見捨てて早く逃げ…」

「うるせえぇえええええ!!!」


響く声に志苑はやっぱり…と頭を押さえる。彼が動かないわけがない。ならすべき事はただ一つ。彼等の成長の邪魔にならぬよう、サポートをし、この場を優勢にする。



「何度も何度も同じ事言わすんじゃねぇ!!仲間見捨てて逃げるわけがねぇだろうが!!今すぐお前を助ける!!」


抜刀し、走り出す優。彼の姿に三葉は目を開く。


「優くん!!」

「あの馬鹿が!」

「残り3名は優の援護を!道を塞がせるな!」

「「「! はいっ!」」」



どうしてだ。何故来る。来るな。止めてくれ。三葉は蘇る記憶に、そしてこの状況に涙を流す。


「や…やめろ…っ、やめ…!!」

「おお!!」


突き進み、そして切る。三葉を助け、優は見事吸血鬼を殺した。仲間を殺され、吸血鬼は動きを止める。



「お前らさっきなんつった?人間は醜い?家族を人質に取られたら平気で同族を売るクズだって?そりゃよくご存知で。そうだよ。家族のためなら人間は何でもする。平気で嘘をつくし鬼にでも悪魔にでもなる。それが醜いってんなら…、」


握る刀から鬼の気。頬に浮かぶは文様。



「その人間の醜さに怯えながら死ね、吸血鬼」


その言葉にグッ、と口籠る。だがまだ目的があるのか、吸血鬼達は言葉を発した。



「っならば澄血の者は頂いて行く!その血を人間共に預けるには勿体無いからな!!」


『澄血』

誰もが察した。志苑の事だと。あの事件をきっかけに知る者は多い。全員が武器を構え、志苑の前に立つ。



「良いよ。前、開けてくれる?」

「! しかし志苑さん…っ!」

「良いんだ」


こつり、と。靴音が響く。



「…全くどこに行っても澄血、澄血…。本当煩いったらないよ」


紅朱雀を片手に、おずおずと前を開けた彼らの横を通り過ぎ前に出る。



「欲しかったら幾らでも持って行けば?」

「「「「!!」」」」

「! ほぅ、ならば素直に我々と共に…」

「でも、」


柄を持ち、縄から手離せば床に垂らした。



「すっごい扱い辛いから君らじゃ無理かな」


片手を上げ、鞭を振るった。



「…、」

「……これは…、」

「……たった一振りだけで…」

「残り6人を、」

「…スゲェ…」


先程までそこに居た6人の吸血鬼達。だが今はその姿が見えず、あるのは転々と上がる煙。



「はぁ、」


鞭を纏め、手に持つ志苑。若干寄ってしまった眉間に指の関節で押した。


「…主が手を出さずとも私が、」

「んー…。なんかイライラが溜まってたみたいで。でも丁度良かった。ごめんね、留めさせて」

「いいえ。構いませんわ。ですのでお気になさらないで下さい」

「ありがとう」


それだけ言い残すと紅朱雀は消えた。1人立つ彼にパタパタっ、と走り寄る優達。



「志苑さん!」

「怪我は…っ?」

「大丈夫だよ。ごめんね、やっちゃって…」

「それは全然気にしてません!」

「逆にありがとうございます。助かりました」

「そっか。なら良かった」


小さく笑う志苑に優は話しかける。



「…なぁ兄さん、本当に大丈夫か?」

「ん?」

「…ほら、イライラがどうとかさ…」

「あー…、あれは、」


今更になって駄目だな、と自分を叱咤する。公私混同はさせないようしているのに、あの話を出されるとどうにも…少なからず気が立ってしまう。


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