きみと歩ける喜びを


※医療に関しての知識は皆無です。その点ご了承下さいませ。


撃たれる可能性がある事も考えていた。それでも、彼等を、彼を、危険に晒したくなかった。これからだというその命を消させるような事をしたくなかった。



「っ!柴崎先生!!柴崎先生!!」


声がする。腹部と左胸が熱い。…やはり自分は撃たれたのか。なら、彼はどうだろう。守れたのか。


「…っ」

「柴崎先生!」


赤い土が見える。いや、染まったのか。…ああ、息がし辛い。ズクズクとした痛みが体を麻痺させる。彼は、近くに居るのだろうか。怪我は?していないのか?体を起こして無事かどうかを確認したくても、今は出来そうにない。



「…っ、しお、たくん…、怪我、は…っ?」

「僕は平気です!それより先生が!!」


そう、怪我はしていないのか。


「…なら、よかっ…た…」



でもそれは本当?心配をかけないようにと思って隠していない?…それが俺は心配だよ。君は、誰にもバレないよう…痛さも隠してしまいそうだから。本当なら、この目でちゃんと確認してあげたい。…でもごめんね。出来そうにないんだ。



「っ柴崎先生!先生!!」



ごめんね、潮田くん…。…ごめんね、烏間。またお前に、心配をかけそうだ。













「……、」

「…あ、目を覚まされましたか?」


ぼやけた視界。真っ白で、息が苦しく、体は怠く…重い。耳に入る特有の機械音が、ここを病院である事を知らせてくれた。

視線を声のした方に向ければ、白衣を着た医師がそこにいた。



「この指を見てください」

「……」


ゆっくり横に動かされる指を目で追う。




「…ここはどこだか分かりますか?」


その問いに一つ頷く。



「この方が誰だか分かりますか?」


そちらに目線をやる。


硬い表情。それをさせてるのは、俺か。



「……」

「…意識は今、保てていますね」


頷けば、医師は小さく息をついた。



「柴崎さん。意識を保てている今、状態をお話ししておきます。…大丈夫ですか?」


ぷつりと、いつか落ちてしまいそうな意識。次いつ目を覚ませるか分からない。そんな気がする。



「…今、貴方の体には毒が回っています。本来なら輸血をしながら毒を取り除く事も可能ですが、あまりにも回りが早いため困難になりました。無理にすれば、貴方の体が持たない」


毒。通りでこうも息苦しいのか。通りで、今にも目を閉ざしてしまいそうなのか。



「今は殆ど柴崎さんの気力で保てています。こうして今意識を保つことも苦しいはずです。…あまりに猛毒のため…それ相応の抗ウイルス薬がなければ…」



言葉を濁された。でも分かる。その薬がなければ、きっと死んでしまうんだろう。そしてこの状況も、いつ変動してしまうか分からない、酷く不安定な状態なんだろう。


「しかし救える可能性が1%でもあるなら、私達はその1%で貴方を救いたい」


だから、どうか頑張って下さい。我々も最善を尽くします。そう言い、強い意志の灯る瞳を向けられた。

頷けたか頷けていないか、定かではない。それでも、意識が落ちる中、あるかどうかも分からないその1%に、俺も縋ろうと思った。














指に何かが触れる感覚で意識が浮上した。消えていきそうなそれに本当に少しだけ動かして触れた。



「……柴崎…」

「……来て、たんだ…」


少しだけ、驚いた顔。…やだな、まだ死んでないよ。

僅かに灯される光の中、あの時のような硬い表情と少し驚いた表情をした烏間が側にいた。



そんな顔をさせてごめん。心配をかけてごめん。あの子は大丈夫?本当に怪我はしていない?

そう言って、そう聞きたいのに、苦しい呼吸と重い体では聞けそうにもない。 だから、生きてるよと伝えたくて…ほんの少しだけその手を握った。



「…明日、抗ウイルス剤を奪ってくる」

「……」

「必ず手に入れて戻る。こんな所で、お前を死なせない」


緩く、それでもちゃんと力を込めて握られた。

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