僕らは共犯者 4
花岡はナイフを構えれば烏間へと切り掛かる。それを避けられれば、彼はナイフを宙に放り片手から片手へと持ち替え、烏間が避けた方へとナイフを振る。
「…お前のナイフ遊びは昔から十八番だな」
「へへっ、団内でも有名だったろ!」
ナイフを受け止める烏間。どちらも引かない。
「ま、それで一回取り損ねて柴崎に怒られたけど」
「意識が逸れている時にするからだ」
受け止めていたナイフを弾けば、脳幹真っ直ぐに照準を合わせ撃つ。だが向けられた瞬間に気付いた花岡は慌てて頭を下げてその弾から逃れる。
「っぶね〜!お前顔面ペイントだらけにする気かよ!」
「するなとは言われていない」
普通にしての会話のように聞こえるが、しゃがんだ瞬間に花岡は烏間に足払いをかけた。それを片手バク転で避け、体勢を立て直した瞬間に向かってきた花岡のナイフを去なす。
「…すげぇ」
「なんつー高度な模擬戦だよ…」
「あの2人に対抗してる…」
目の前で繰り広げられる模擬戦。一対一で戦っているも、互いに相手ペアがこちらに来る可能性も頭に入れて戦っている。そしてその場合に備えられるよう、常に背後にも気を配っている。ナイフと銃。撃ち、避け、刺し、避け…。相手が向かってくる時に現れる余分な力を利用したり、僅かな隙と気の乱れを察知しそこを見逃さない。
「ヌルフフフフ。流石エリート部隊と言われる第一空挺団に過去所属していた方々です。4人とも戦闘技術はズバ抜けていますねぇ」
無駄のない動き。目の前の敵だけでなく自分の四方八方にも神経を置く。1分1秒、今の状況がどう変動するか分からない。何通りものの可能性を頭の中に浮かべ、警戒し打開策を考える。正に浅き川も深く渡れだ。
「攻撃は最大の防御って?そっちは突くチャンスある側だな」
「お前はそのチャンスを潰す側だよ」
「俺にお前の隙付けってか!?難題だわ!」
「その難題を解いてもらわないと」
赤井なら出来るよ。と笑えば、ナイフを離しこめかみ辺りに向かって上段蹴りをする。
「ってぇ〜ッ。マジ痛ェ!お前の蹴りなんだ!」
「なんだって何が」
「容赦なしか!」
「手抜いたら怒るくせによく言うよ」
呆れた顔で怒ってくる赤井に柴崎は言う。しかし痛いのは頭ではなく腕。防御した腕がビリビリと痛むのだ。あの柴崎の鋭い蹴りに反応し防御する赤井。彼の反射能力も伊達ではない。当時から今も、防御が最も難度だと言われている柴崎の攻撃に対応出来る者はそういない。それに対応出来うる、希少の1人だ。そしてそんな彼もまた、柴崎に向かってペイント弾を撃ち、体術で応戦する。どんな体勢でもブレない体幹。それを赤井は持っている。
「っくそ、烏間少しくらい擦れ馬鹿野郎!」
「ギリギリを突いてくる人間が言う台詞とは思えないな」
「そのギリギリを避けて撃ってくるお前に言われたくねぇわ!!」
「あまり喋ると舌噛むぞ」
振られるナイフを避けて銃で受けて時に撃つ。花岡は烏間がナイフを避けると言うが、彼も撃たれる弾を避けているのだ。どちらも負けていない。
「っと、」
「あ〜っ、おっしいな…!」
「(…頸動脈ギリギリか。本物のナイフなら、あと数秒反応が遅れていれば切れていたな)」
「やっぱ油断ならねぇな、烏間は」
素早くナイフを振り翳す。ナイフ術に長けている烏間から見ても花岡のナイフ技術は高い。何より手首が柔らかい。その為ナイフを手で遊ばせるよう、軌道が読みにくい攻撃を仕掛けてくる。我流、と言っても良いだろうそのナイフ捌きは中中のものだ。
互いに攻防を繰り返す。その時、互いのペアの距離が近付いた。赤井と花岡は少し距離が離れては居るが、斜めに立ち互いに背を向けている。柴崎と烏間は互いの相手と向き合っている。
分かるか、分からないか。恐らくここでそれに気付いたのは殺せんせーのみかもしれない。自然過ぎて分からない…僅かな合図に。
「……締めに掛かりましたかねぇ」
高揚した。何を仕掛けようというのか。彼等は。
烏間は持っていた拳銃を宙へと投げた。
柴崎は赤井の顔面に向かってナイフを投げた。
「っえぇ!?なんで上に投げんの!?」
「ぅおわっ!?」
花岡の意識と目は思わず宙へ高く放り投げられた拳銃へ。赤井は素早く鋭く自分の顔面目掛けて投げられるナイフを間一髪、しゃがむ事で避けた。
「てか!銃投げたらお前どうす…る?あれ、烏間?…っでェ!ぅおぉっ!?」
「柴崎!てめェ顔面向かって投げるとは何事だゴラァ!、…っうわ!?」
突然の視界の揺れと体への衝撃に動転する。