さいごのひとくち
「なにこれ」
手渡されたのは一つの和菓子。
「もみじ饅頭です」
「見れば分かるから」
「にゅや?」
「なんでそんなもんがここにある。買いに行ったの?」
「はい。食べたくなりまして」
「へぇ…」
「あ、ちなみにそれ生もみじです」
「生もみじ?」
生なんてあるんだ…と思っていたら、生なら早く食べなきゃいけないんじゃと考える。
「早目に食べるべき?」
「出来れば」
「そう。…ありがとう」
「いえいえ」
お昼。
「ほら、食べる」
「もう要らないよ…」
「…まぁいつもより食べた方か」
「なんか介護されてるみたい」
「介護より看病だろ」
「どっちにしても健康人間がされる事じゃないな」
10月下旬。暑くもなく、寒くもない。丁度いい。昼間なんていうのは特に。木の下にいると葉が陰になってくれ、直接日光も当たらない。
「…あ、忘れてた」
「?」
「これ、貰ったんだよね」
出したのは「生もみじ饅頭」
「…和菓子か?お前が自分で持ってきたのか?」
「俺が?ないない。あいつが朝くれたんだよ。買ってきたからあげますって」
危うく忘れるとこだった。とそれを手に笑う。もみじの形をしており、食べるのが少し勿体無い。
「…あ、餡入ってる」
「嫌いだったか?」
「ううん。こしあんだなぁと」
「…あぁ、お前はつぶあん派だったな」
「別にこしあんでも良いけどね。食べれるから」
「洋菓子は食べないな」
「…バターがさ。もたれない?」
基本柴崎は洋菓子は食べない。食べるなら和菓子だ。出されたり渡されれば食べるが、自分からは食べないのだ。
「食べ過ぎるとな」
「まぁ元々俺はあんまり食べないから良いんだけどさ」
「…で、その食べ方なんだ」
「え?…あぁ、これ?葉が五角形だからこの方が食べやすいなぁって。食べる?」
一欠片千切って口元に。
「どう?」
「甘い」
「和菓子だしね」
そして柴崎は最後のひとくちを食べた。口の中が甘い。
「……」
「? あ、食べたかった?」
「いや、貰うからいい」
「え、貰うってもうないんだけ…っ」
「…甘いな、やっぱり」
「…っ、学校だから…!」
「休憩中だ」
「見られたらどうするんだよ!」
「誰もいないからするんだろ」
「(烏間ペースだ…!)」
さいごのひとくち
それはお菓子よりも
甘いもの
title:サンタナインの街角で様
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