One shot One kill


もうすぐ夏休みだ。期末テストも終わり、本場の休みに入るまではまだほんの少し授業がある。


「先生」

「ん?どうした、岡野さん」


体育の時間、烏間はナイフ術を、柴崎は体術を教えている時だった。一人一人にアドバイスや相手をしている時に岡野が柴崎に話しかけた。



「私って身長が147cmなんです」

「うん」

「この身長で相手に一撃与えられる攻撃ってないですか?」

「一撃与えられる攻撃ね…」


顎に手を当て考える。確かに岡野は身長が低い。中学3年生の平均身長を下回る。だが、この低めの身長というのも十分武器になる。そして彼女自身が持つ身体能力。



「岡野さんは体操部だったんだっけ?」

「はい。だから、体が柔らかいんです」


ほら、と立ってその場で前屈する。手は地面にぺたりと付いており、体の柔軟さが見て分かる。



「確かに柔軟性があるね。…なら、その小柄な体格と柔軟性を利用した攻撃をしよう」

「小柄な体格と柔軟性を利用した攻撃?」

「そう。人はまずその人間の外見・雰囲気から観察する。筋肉の付き方、隙の有無、目線、立ち居振る舞い、体格とかね。相手を知る事はとても大切だから」

「ふんふん…」

「岡野さんの場合は、その小柄な体格。それと柔軟性がとても鍵になる。まず小柄な部分で相手は少しだけ警戒心が薄くなる。手練れには警戒心は持たれたままだろうけどね。踏んでる場数が違うから」

「なるほど…」

「それと、柔軟性があるなら接近戦が向いてる。さらにその身体能力を使うなら遠距離より近距離。岡野さんは体術を磨いてそれをナイフ術に応用するといいね。で、その為の一撃与える1つの攻撃としてだけど…」



柴崎は少しだけ岡野から離れる。岡野の身長を見て、足の長さを見る。そしてある高さに掌を翳す。


「ここに足を当ててみて」

「え?その高さにですか?」

「君なら届く。どんな風にして当てても構わない。やり易い方法でやってごらん」


その高さとは、ちょうど柴崎の顎下。二人の身長差は大凡30cm。ぱっと見じゃ、届きそうにもない。



「でもどうやって…」

「岡野さんは体操部出身だよね?なら、それを利用してみたらいい」

「体操を利用?」


岡野は考える。体操を利用しての攻撃。体の柔軟さを利用しての攻撃。そこで、あ!と何か閃く。柴崎もそれに気付く。



「閃いた?」

「はい。してもいいですか?」

「いいよ」


そう答えると、岡野はゆっくり柴崎の方へと歩く。そしてサッと上半身を折ると片足を軸に立ち支え、もう片足を真っ直ぐ上に振り上げる。そしてその振り上げられた足の踵は丁度柴崎の顎下の掌へと当てられた。


「…やっぱり君ならここくらいの高さなら十分当てられると思った」


その足を受け止め、柴崎はそう言った。岡野は足を下ろして柴崎を見上げる。


「人間の顎下って言うのはある意味一つの弱点でね」

「顎下が弱点の一つ?どうしてですか?」

「顎ってどの部分より前に出てるでしょ?」

「はい」

「だから狙い易いっていうのもある。後、顎の下から耳の後ろにかけて骨があるのが分かる?」


そう聞かれ、岡野は自分の顎下から耳の後ろにかけて手を這わす。確かに骨がある。


「この骨は重い頭を支えている器のようなもの。大きな支え軸は首だけどね。その支えに攻撃を与える事で、脳を揺らす事ができる。脳は人体の他の部分と同じで水分を多く含む。周りが揺れれば、当然のごとく中でも細かく揺れるんだ。脳が揺らげば視界も揺らぐ。すると平衡感覚がなくなって、倒れてしまう」


その言葉に岡野はあぁ…!と感嘆の声を漏らす。なるほど、と手を叩く。


「顎は他の部分より前に突き出てるから前方向でも横方向でも攻撃で揺れ易い。相手を気絶させる攻撃には持ってこいかな。柔軟性があるなら尚の事ね」

「てことは、私向きって事ですか?」

「うん。岡野さんは股関節が非常に柔らかいから、さっきみたいな攻撃だけじゃなくて、横から回し蹴りをして頬骨の先端に向かって当てるっていう手もあるよ」

「頬骨の先端…?」

「頬骨の先端はこの辺りなんだけど、んー…見てみるのが一番かな。…烏間ー!」


柴崎は少し離れた場所で指導していた烏間を呼ぶ。呼ばれた本人は顔をこちらに向ける。指導者が居なくなった他の生徒は手持ち無沙汰のため教官二人を見学する事に。


「なんだ」

「ちょっと相手になって」

「岡野さんのか?」

「いや、俺」

「………」

「や、そんなガチガチな相手頼んでないから大丈夫だよ…;;」

「お前と組手して伸びた奴どれだけいると思ってる」

「…結構いるね。…大丈夫大丈夫。手を翳してくれるだけでいいから」


仕方ないと息を一つつくと、どこに翳せばいいと聞く。


「頬骨の先端あたり。…この辺かな」


自分の頬を指差して烏間に言う。それに了承すると、烏間は少し肩幅に足を開き構える。


「じゃあ岡野さん。しっかり見ててね」

「はいっ」

「烏間良い?」

「あぁ」


柴崎は烏間から少し離れると、その翳された掌に向かって後ろ回し蹴りをした。そうする事で上げた足の踵が掌に当たる。暫し烏間の顔がその衝撃に顔を歪める。離して手を翳していたが余波が来た。柴崎はゆっくり足を下ろす。


「っ、…相変わらず重いな、お前の蹴りは」

「ははっ、そう?…とまぁ、こういう事なんだけど。どう、分かった?」


そう言うと岡野の目はもう好奇心に満ちておりキラキラしている。


「凄い!そんな事もできるんですね!これが私にも出来るんですが!?」

「出来るよ。というより、このクラスでこういうのに一番向いているのは岡野さん、君かな」


頑張って練習してみて、と柴崎が言うと彼女ははいっ!と返事をして練習に戻った。


「なんの経緯でこうなった」

「んー?…あの身長で相手に一撃与えられる攻撃はないかって言われてね。それで今のを伝授したわけ」

「なるほど。彼女の体の柔軟性や身体能力を利用すれば一番向く攻撃と言えるな」

「うん」


そしてその攻撃は沖縄離島で起きた事件でのクラブ侵入の際に初披露されたのだった。


「ひなた、今のって…」

「うん。前に柴崎先生から伝授してもらった一撃必殺!」

「すご!会得出来たんだ!」

「いっぱい練習したんだ。ずっと前からこの身長で相手にダメージを与えられる攻撃を身に付けたくて…。それで先生に相談したら私の持つ力で出来るものがあるって言ってくれて」

「それであれかぁ。まさしく一撃必殺だね!完全に気絶させたもん」

「柴崎先生に報告しなきゃ!」


One shot One kill
「柴崎先生が教えてくれた攻撃で倒せました!」
「それは良かった。身に付けた甲斐あったね」


title:NOIZE様
ep:「wirepuller」

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