至って男前レディ


何故なんだ。これはもう最大の悩み。

「はぁ…」


手の中にあるこの手紙。普通の紙ではない。世間一般でいう…


「ラブレター…」


しかし勘違いしてはいけない。男の子から貰ったのではない。同じ同性の女の子から貰ったのだ。物凄く恥じらわれながら。心境は複雑過ぎて言葉に出来ない。



「片岡さん、どうしたの?」

「柴崎先生…」


振り向けばいつも通り黒のスーツを着ている柴崎先生が。先生は私が持つ手元の手紙を見る。



「手紙?」

「…はい」

「…間違っていたらごめんね。…それ、ラブレター?」

「はい…」

「…男の子?」

「いえ…」


あぁ、泣きたい。同性からのラブレターなんてそうそう人は経験しない。女子校ならまだしも共学校で。しかしイケメグの所以はここら辺からきている。


「片岡さんもかぁ…」

「え?」


俯いていた顔をあげれば苦笑いの柴崎先生。「も」とはどういう事だろう。



「実を言うと、昔俺も同性から貰ったよ」

「…ええええええ!?」

「ははっ、ここだけの話にしてね」





旧校舎の石階段に腰掛けて話す。こうして柴崎先生と2人きりで話すのは初めてだ。


「防衛学校って男の方が多くて、女の子なんてほんの一握りなんだ」

「そうなんですね…」

「だからもうほぼ男子校みたいな学校。年頃なんだから言葉悪いけど普通なら女の子に興味持つだろ?」

「それが普通ですもんね」

「なのに何故か良くラブレターやら呼び出しやらをされて…。うーん…本当参ってたよね」

「てことは、先生は男の人にモテてたんですか?」

「不名誉なことに」


頬杖をついて苦笑いの先生。ビックリした。先生、女の人以外にも男の人からもモテるんだ…!いやでも…


「……分かるかも」

「え?」

「だって先生、綺麗ですもん」


それに先生はキョトンとしている。初めて会った時からそう思った。今ほど距離の近くなかった私達と先生。その優しい表情を見れるようになったのも少ししてからだった。第一印象は、真面目で冷静な人。第二印象は、真面目で冷静で…優しく綺麗な人だった。



「先生って、厳しいけど優しくて…笑うとすごく綺麗なんです。確かに、整った顔されてるんですけど…そうじゃなくて、なんか…雰囲気美人…って言うんですかね…」


その纏う雰囲気が綺麗をさらに綺麗にする。


「ふっははっ…」

「え…」

「ふふっ…ごめんね、笑って…っはは」


少しだけ柴崎先生は笑うと私を見た。



「雰囲気美人って初めて言われたよ。落ち着いてるとか、穏やかだとはよく言われてたけどね」


雰囲気美人ねぇ…と先生はまた小さく笑った。



「まぁ俺がそうだとしてラブレターを貰ったかどうかは別として、片岡さんはそれどうするの?」

「…一応貰うには貰いますけど、気持ちに答えることはできません」

「それでいいと思うよ」

「え…?」


手紙に向けていた目を先生に向ければ先生はそっと手を伸ばして私が持ったいたラブレターを手に取った。



「ラブレターは渡す方が緊張するし不安だ。今までくれた人は皆そんな感じだったからね。受け取ってくれるだろうかっていう」

「……」

「手紙を受け取ってくれるだけでも、相手にとっては十分な事だと思うよ。そりゃ気持ちも答えてあげれれ尚良い事だと思うけど、それだけでも10ある内の5を受け取った事になる」

「10ある内の5…?」

「半分は受け取る分の気持ち。もう半分はそれに答える分の気持ち」

「あ…」


先生は手紙を私に返してくれた。それを受け取る。


「気持ちを受け取るっていうのは、何も想いを受け取るだけじゃない。こうして手紙だったり、面と向かっての言葉を聞く事だったりする」



受け取るのは、ただ想いを受け取るだけじゃない…。



「告白や手紙なんてのは、中には聞かず、貰わずって人もいるよ。それって、する側としたら一番悲しくて辛い事だろう?」

「はい。…せめて、受け取って聞いて欲しい…」

「何も10全てをしなくていい。せめて、その半分だけでもしてあげたら半分は気持ちに答えた事になる。0より5の方が良いと思わない?」


そう言って笑いかけてくれる先生を見て、私は自然と笑えた。そうだ。気持ちを伝えるだけでもその人にとってはとても勇気のいる事。色々悩んで迷って、やっと決心して渡したり言ったりするんだ。貰うのが同性だと思ってまうけど、同性でも異性でも過程での気持ちや思いは同じなんだ。


「相手の子は女の子である片岡さんの何かに惹かれたんだと思うよ。例えば片岡さんしか持たない女の子らしさとかにね」

「私しか持たない女の子らしさ…」


人それぞれ持つその人らしさ。私にも、それがあるんだ。




「そのラブレター。例え同性からだとしても大切にしてあげな」

「はい!」








「柴崎先生」

「ん?」


数学の授業終わり、私は先生の近くに走り寄った。


「私、ちゃんと返事をしました」

「……」

「10に10返しても、良いんですよね。例えそれが相手にとって叶わなかった返事であっても」

「…上出来だよ。偉いね、片岡さん」


頭にポンと置かれた手に、私は笑った。


「なんの話?」

「メグなんかしたの?」


ひなたと陽菜乃が教卓に近づき聞いてきた。



「ん?…片岡さんは女振りだねって話」

「女振り?」

「簡単に言うと、女の器量があるってこと」

「ええ!?イケメグは男前でしょ!」

「男前は男の人に使うもんだよ。片岡さんは女の子なんだからちゃんと女の子に使う言葉使ってあげないと。片岡さんには片岡さんらしい女の子の器量があるんだよ」


ね、と言ってくれる。なんだろう。初めて異性の人に女の子扱いされた気がする。


「メグ良かったね」

「え?」

「異性の人にちゃんと女の子扱いされたじゃん!」

「えっ!あ…まぁ…」

「あまりされない?」

「うっ…はい」


先生から目をそらす。なんか、女の子としてどうなんたろう。これって。


「じゃあ周りの見る目がないんだなぁ」

「え…」

「片岡さん、良い子なのにね」


勿体無いなぁと呟き笑うと、先生はじゃあまたね、と言って教室を出て行った。


「……」

「…メグ顔赤いよ」

「〜っっ」

「先生にあんな風に言われたらいくらイケメグでもそうなるよねぇ」


至って男前レディ
周りからそう言われても
先生の前では普通の女の子になる


title:空想アリア様

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