胃薬は常備品です
「では、今日の体育は以上だ」
「お疲れ様」
「「「「ありがとうございました!」」」」
授業終わったな〜、今日も1日長かった!と生徒達は口々に話しながら校舎へと足を進める。烏間、柴崎も同様だ。
「ーー!」
「?」
「どうした?」
「や…、なんか声が聞こえたような…」
「声?」
「気のせいかもしれな…「柴崎ー!烏間ー!」…くないかな…」
声のする方を向けば、あぁ良く知る顔。今度はどんな問題を持ってきたのだろうか。と言うより、ここまで成長してまだ持ってくるのか。
「柴崎!烏間!よかった、居た…!!」
「…あんまり、会いたくなかったかな」
「…久しぶり、だな」
「あれって…」
「花岡さん?」
「だな」
「何しに来たんだろう」
「柴崎、烏間!!一生分のお願いだ」
「お前の一生分のお願いって人生で何回あんの?」
「いや!これが人生最大の願いだ!!」
それに2人は顔を見合わせ、ため息をつく。
「なに?」
「なんだ?」
「それでこそ柴崎と烏間!!…あのな」
「……」
「お前らももう28だ」
「…そうだね」
「…あぁ」
「なら経験あるだろ」
「なんの?」
「告白の仕方教えてくれ!!」
「「……はぁ?」」
「「「「……はっ?」」」」
また、こいつは何を言っているんだろうかと呆れる。それが一生分のお願い?なんて安い。だが、花岡にとっては死活問題。必死さからか、2人に詰め寄る。
「男気あり、イケメンな烏間はそれはもうモテた!!性格もイケメンで才もあったからさらにモテた!!」
「……;;」
「そして温厚で美丈夫な柴崎も負けず劣らずモテた!!性格も良いし強いから尚モテた!!そのせいで俺は初恋の人に振られた!」
「っ、変なこと言うな!あれは花岡が大してアピールもしないで告白するから…!」
「そこで考えた!何故俺は振られるのか。どうすればこの無限ループから脱け出せるのか。…その答えがやっと出た!!」
「「(遅…)」」
あれから何年経ってると思っているんだろうか。今更にして分かったのか。
「こんなにも近くにモテる人材がいる。これを使わない手はないと」
「……頼んだ柴崎」
「はっ!?待って!これ俺に押し付けるの!?」
柴崎の肩に手を置くと、烏間は一歩後ろに下がった。距離を置いたのだ。
「烏間はこうなると想定済みだ。…だからこその…柴崎!!最後の砦!!」
「無理無理!そんな砦になりたくない!」
「頼む!あるだろ!?告白くらい!」
「ないよ!」
「………ないの?」
「ない」
「え、ない?」
「おま…、耳大丈夫?聞こえてるよね?この距離だし。ないってば、ないよ」
柴崎から距離を置く花岡。今のうちにさぁ逃げましょうと背を向ける。烏間の側まで行くと前の方には生徒達が苦笑いしている。
「…なんで逃げるの」
「あれは扱いきれない」
「俺だって無理だよ。…っ!」
「ぐぇっ!」
「あ…」
「…癖だな」
「「「「あ……」」」」
話している最中に突然思い切り肩を掴まれ、反射的にその手を掴んで背負い投げてしまう。だがよく見ればそれは花岡で、投げた腕を掴んだまま思わず動きが止まる。
「…ごめん、花岡。思わず投げちゃった」
「…柴崎」
「いや、本当にごめんね。でも投げたくて投げたんじゃないから。あんな殺気立たれて掴まれると反射的に手が出て…」
「許すから告白の仕方教えて」
「…………じゃあ別に許されなくても…「ごめんなさいぃぃぃ!お願いします!教えて下さい!人生掛かってるから!!」……分かったから腕から離れて…」
「大変だな、柴崎先生」
「足早に距離を取った烏間先生は賢いね」
「…で」
「はい」
ここはE組教室。練習するなら俺たち私たちも手伝います!と天の囁きを与えてくれた彼ら。とりあえず生徒の席を借りて腰を落とす。他の数人の生徒も腰を落ち着かせる。
「今度は誰に玉砕したいの?」
「玉砕しないために頼んでんだろ!」
「なかなか言うな、柴崎先生」
「先生案外花岡さんと赤井さんには容赦ないから」
「防衛省の、子なんだよ」
「へぇ…」
「「「「(職場恋愛か)」」」」
「もうさ、良い子なんだよ。笑顔で「お疲れ様です」って言って、帰りには「お先に失礼します」って律儀に…」
「それ普通じゃない?」
「普通じゃない!」
「そっか…;;」
それは一般的に誰でも言う言葉ではないだろうかと思うが、どうやら花岡ワールドでは普通じゃないらしい。
「通路とかでもさ、よく会って…時々話したりするんだよ。そしたら「花岡さん面白いですね!話してて楽しいです」って!!」
「うんうん分かったから立ち上がらないで。落ち着いて」
「男ってのは!自分から前に行くべきなんだ!草食男子やらなんやらと言われてるこのご時世!俺はそれを破りたい!!」
「破る破らないは好きにしたらいいけどそれでお前が敗れたら元も子もないからね。そこんとこ分かってんの?」
「……っ!!」
「突進型タイプだな」
「猪突猛進だ」
「一直線な人なんだね」
そうだった…!!と上げた腰を静かに下ろした。気分の上げ下げが激しいのは昔からである。変わらない。
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