不覚にも、やられた


「なんか、変わったわね」

「は?」


休日、実家に呼ばれて行けば葉月が来ていた。もしかすると、呼んだのは葉月なのかもしれない。



「変わったって…何が?」

「何かしら…。雰囲気?」

「え?」


淹れたコーヒーを葉月に渡すと礼を言われる。母さんは買い物だ。みきは今日透さんと遊んでいるらしい。あの人もちゃんと父親をしている。




「あんたって、昔っから雰囲気優しげだったけどそれにより拍車がかかった気がするのよ。なんていうの。前より一層柔らかくなったって言うのかしらね」


もしかして恋でもしてるのかしら?とニヤニヤして言われる。この人は昔からそういう話が大好きでとにかくそういう話にしたがるしする。



「別にしてないよ」

「嘘ね!志貴は仕事柄ポーカーフェイス上手いけど分かるわよ、私には」

「なんで」

「従兄妹だもん」

「答えになってないから…;;」


一口コーヒーを飲めばズイッと寄って来られ身が引ける。



「…まぁ、あんた男のくせして美人だもんね。そりゃモテて当然か。恋人の1人くらい至って別段可笑しくもなんともないわね」

「モテ…、別に顔で想われてるわけ……、…今日仕事先から電話来る予定だったから俺帰るね。母さんに帰ったって言っ…「まぁ待ちなさいって」…葉月さん、その顔やめようか」

「顔で想われてるわけじゃないって?ん?やだわ〜!惚気?ありがとう、ごちそうさま」

「下世話だよ、本当に」

「あら、否定しないのね」

「〜っ」

「私今1番あんたのポーカーフェイス崩せる自信があるわ」

「意地でも崩すか」

「ただいまー」


丁度そこで母さんが帰ってきた。



「あ、おばさんおかえりなさい!ねぇ聞いてくださいよ!」

「あら、葉月ちゃんどうしたの?」

「志貴ったらね…「駅前のケーキ3つ」…なんでもないです!ごめんなさい、勘違いだったみたい」

「そう?あ、晩御飯食べていくでしょ?二人共」

「うん、そうする」

「いただきます」

「じゃあちょっと待っててね」


そう言ってキッチンに消えていく母を見て、戻って来た葉月を一瞥してからコーヒーを飲む。



「モンブランと、チーズケーキと、いちごのタルトね!」

「はいはい。太るよ」

「食べてからダイエットすれば問題ないのよ」


鼻歌でも歌いそうな様子だ。甘い物には目がないから出せば乗ってくる。



「…でも良かった」

「?」

「志貴にそういう風に想える人が出来て。あんたって無頓着ってわけじゃないけど、自分の事より人の事ばかりだったから。…おじさんが亡くなってから、特にね」

「……」

「おばさんの事や雄貴の事ばかりで、いつか倒れるんじゃないかって心配してたの。…でも、倒れなかったのは志貴を支えてくれる人がもう居たからなのね」


てことはみきは産まれた時から失恋してたのか。残念!と笑う葉月。



「…みきには俺よりもっといい人見つけれるよ」

「…発言がイケメンよ」

「…じゃあなんて言えばいい?これ結構普通の言い方だと思ってるけど」

「あんたが言うと、普通の言葉もイケメンフィルター掛かるのよ」

「なんにも言えない…」

「あははっ」

「葉月ちゃーん。ちょっとだけ手伝ってもらっていいかしら?」

「はーい!」


ソファから腰を上げて母の元へ行った葉月を見て、自分もソファに凭れる。


もしも、どんな人か聞かれたら何と言おうか。

堅物で、生真面目で、なんだかんだ言う事は言う人。何それ、どんな人だって言われそうだけど、そういう人なんだから仕方ない。

あぁ、あと優しいかな。本人にそれを言うと怪訝な顔するけど。よく分からないという感じだから笑えてくる。

最近よく言われる。雰囲気が柔らかいって。自分じゃ分からないもんだ、そんなこと。特に、隣同士でいる時は感じるらしい。あれ曰く。…気を付けよう。



「志貴ー。出来たわよ」

「今行く」


向かえばこれまた量の多い料理ばかり。誰が消費するというのか。



「志貴は少食だもんね」

「まぁね」

「いっぱい作ったけど、雄貴ももうすぐ帰ってくるし大丈夫ね!葉月ちゃんもいるし」

「もうたんまり食べさせてもらいます!」

「ただいまー」

「おかえりなさい」


雄貴がリビングに入ってくる。部活帰りか、クタッとしている。



「お、兄貴来てたんだ」

「うん。おかえり」

「ただいま」

「ちょっとー。葉月さんにご挨拶は?」

「げ、」

「げってなによ!もーそういう所は志貴と全然似てないんだから!兄弟のくせに!」

「兄貴は別格だろ!」

「…母さん、俺別格かな」

「貴方の優しさは別格じゃないかしら?」

「…あ、そう」


ほら、荷物置いて手洗ってらっしゃいと言われた雄貴は置くだけ置いて手を洗いに行った。すぐに帰ってきたと思うと近くにやってきた。



「なぁ兄貴」

「ん?」

「…はいこれ」

「?」


渡されるのは箱。


「なに?」

「〜っ、いいから!」

「?」


とりあえず受け取る。それを見ていた葉月が雄貴を茶化すように弄りだす。


「あら、何?愛しのお兄様にプレゼント?」

「……」

「え、図星?」

「〜っ、い、いつも世話なってるから!…誕生日プレゼントは、受験とかで、渡せそうにないから…今、渡しとく」


返品すんなよ!とだけ言うと机と走っていった。


「…っはは」

「…幸せもんじゃない」

「ね。大切にしないと。何くれたんだろ」

「今開けたら?」

「…いや。帰ったら見るよ」

「私気になる…」

「また教えてあげるって」

「絶対よ?あー、お腹減った!食べよ食べよ!」


葉月の後ろ姿を見てから手元の貰い物に目を落とす。それに少し笑って、鞄に直す。


「志貴ー、早くー」

「兄貴腹減ったー」

「志貴〜」

「はいはい、今行くよ」


不覚にも、やられた
「雄貴、ありがとう」
「…こっちこそ、いつもありがとう」


title:夢喰様

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