pair



夏本番に足を踏み入れた。



「はぁ…暑、」


午前訓練後、空を見上げれば燦々と輝く太陽がこれ見よがしにこちらを照りつけてくる。それから少しでも逃げたくて手でその日を遮る。



「ほら」

「っ」


パサリ、と頭の上に被されたそれ。手に取れば…



「タオル?」

「暑いんだろう。今はそれしかない。それで日を遮ればいい」

「烏間…」


タオルを頭に掛けてくれたのは烏間だった。その本人も暑いのか、一つため息をついている。




「暑いね。夏本番だ」

「そうだな。…なのに、この暑い最中…」

「…あれはちょっと気狂いかな」



2人が振り向けばこのクソ暑いのに戯れまくる赤井と花岡だ。戯れるというより、騒ぐだろうか。何にせよ暑苦しい。



「…化けモンじゃない?暑さなんて屁でもないって感じ」

「もう人間じゃないな。異生物だ」

「ん?なんだよ?」

「おー、どしたどした!」


ニカリと笑ってこちらを見る。それに何でもないと返せば前を向いた。



「ちゃんと水分補給したか」

「…あまりしてないかも。しないとね」

「ったく、ほら」

「ん?」


そう言われて渡されるのはペットボトル。



「でもそれ烏間のだろ?」

「取ってないせいで倒れたらどうする」

「まぁ、そうか。…ごめんね、ありがとう」



ペットボトルを受け取り、一口二口貰う。その水分は体に染み込んでいき、浸透していく。礼を言って返せば短い返事で受け取られる。その様子を後ろ2人は一部始終見ていた。




「……ナチュラルだな」

「……ナチュラル過ぎたな」

「俺ら気にし過ぎ?」

「いやぁ、そーでもねぇだろ?」

「(…間接キス…)」

「(…間接キスだ…)」


そんな風に赤井と花岡は思うも、当の本人らはそんなこと微塵も考えてはいないのだ。











「烏間はもう少し甘いもの食べないと」

「…甘いものは、あまり好きじゃない」

「知ってるけどね。でも糖だって大切だから」


昼食後、柴崎は烏間に甘いものを少しだけでも摂らせようとしていた。その証拠に手元にはチョコレートが。何故それがあるのかというと、たまたま食堂の人から貰ったのだ。突然のそれに驚きはしたが頂き、折角だから糖の取らない烏間に食べさそうとなったのだ。



「柴崎だって糖取らないといけないんじゃないのか?」

「さっき一粒食べたから平気。これは烏間の分ね」

「……」


目だけで語る。嫌だな、と。まぁ甘いものが苦手な人間にとったらこんなのは極端な話、犬の餌に見えるだろう。



「…もう、仕方ないなぁ」


そこまで嫌がるなら仕方ない。今度違うもので糖を摂らせよう。そう思い、チョコの紙を取り自分が処理しようとする。



「…あ、」

「……甘い…」

「食べるならあげたのにさ」


チョコを持っていた方の柴崎の手首を掴めばそのチョコを食べた。しかしやはり甘いのか、眉間に皺が寄る。そんな烏間に柴崎は笑いながら取られていない方の手で水を渡す。



「ほら、水」

「…はぁ、」


柴崎が渡せばその手は離れ、その水を受け取り烏間は飲む。またその一部始終を前2人は見ていた。




「…掴んで食べて、それに普通って…」

「…強者だ」

「…いやでもこいつらなら普通だぜ?」

「まーな。本人らは気にしてませんって感じだし」

「(…カレカノか)」

「(…超ナチュラルカレカノか…)」


この2人にとって、このような行動は普通なことで別段声をあげて言うほどのことではないのだ。たとえ周りはドギマギするような事でも。



「午後は水分忘れるなよ」

「ちゃんと取りますよ」


心配かけたくないからね、と柴崎は小さな笑みを浮かべれば、烏間は水の入ったコップを手に持ちながら机に置きその返答に小さく笑い返した。



「…俺らの存在希薄だな」

「おうよ…。いいけどな。ごっそーさんだわ」

「腹一杯だ」


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