やっぱり早いなと思う。だって季節はもう秋を終えかけて、冬に向かっているのだから。
「……」
たまたま通った廊下の窓から外を見れば色付いた葉が地面に落ちており、枯れ葉になっていた。
良く、ドラマや映画や小説や。そんな中の一つの心情描写として、木の枝にぶら下がる枯れ葉なんてのを描く。あれが散った頃には…なんて、曖昧な描写。しかし視聴者や読者に対して時間の経過や状況心理を伝えるには酷くメジャーな表現。
「柴崎?」
声をかけられそちらを向けば烏間がいた。
「外に何かあったか?」
「…ううん。なんにもない」
窓にまた目を向ければ烏間もこちらに来て窓の外を見た。変わらずそこには落ちた枯れ葉が。
「…枯れ葉か」
「…秋も終わりだね」
「……」
「もう冬だ」
そう呟く柴崎を静かに見る。ここ何ヶ月。…正確には休みが明けて、試験が終わってからだ。柴崎は休日になれば必ず外に出ていた。行き先は聞かなくても察せれる。…病院だ。柴崎は柴崎なりに、残りの時間を大切にしようとしている。
「柴崎、誕生日はいつだ?」
「え?…1月だけど…」
「の、いつ」
「…25日」
「なら、後2ヶ月先か」
なぜそんな事を聞くのだろうか。その真意は分からない。
「烏間は?」
「俺は8月」
「何日?」
「15だ」
「…過ぎちゃったなー」
「そうだな。もう過ぎた」
「俺とは真逆なんだね」
「あぁ。夏と冬だ」
窓から目をそらして背を預ける。烏間はそんな彼を見た。
「…冬、来ちゃうね」
「…そうだな」
「もう少し先でも、良かったんだけどな」
「……」
僅かに、先程より視線を下にした。その心には何を思うのか。口に出せない、出さない思いがあるのではないか。
「…烏間は、」
「…?」
「何も聞かないし、何も言わないんだね」
「…聞いて欲しくて、言って欲しいのか?」
「…ううん」
「そう言うと思って、俺は何も聞かないし何も言わない」
「そっか」
「…ただ、」
「…?」
烏間を見れば、彼は窓の外に目を向けていた。
「…お前が無理をしそうなら、聞くし言う」
「……」
窓から目を離して柴崎を見る。その彼は、少し驚いた顔をしていた。
「俺がお前にしてやれる事は、今それくらいしかない」
「烏間…」
「その時は我慢なんてするなよ」
「……」
「したら、殴る」
「…っふふ、」
烏間のその言葉に柴崎は笑う。殴るって…烏間から殴られたら青痣だけじゃ済まないよ、と柴崎は心で思う。
「ありがとう」
「良い」
木の枝にあった枯れ葉は風に煽られて飛んで行った。
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