秋です。11月。食欲の秋や読書の秋なんて言うけれど…防衛学校ではちょっと違う。そんな穏やかではないのだ。
「烏間!頼んだ!」
「柴崎!いつもの蹴り入れてくれよ!」
「「……;;」」
防衛学校主催、開校記念祭。所謂文化祭なのだが、ここは防衛学校。普通の模擬店以外に、訓練風景や棒倒し、部活動見学などもある。
「いいか、柴崎。今年の空手部には関東・全国優勝経験者のお前が入った。それが外にも出回り、今年の記念祭にはお前見たさに来る見学者が多いんだ!」
「要は客寄せですか、俺」
「そうとも言うな」
「(そうしか聞こえないんだけどな…。俺だけかな)」
鈴木の言葉にため息も出る。隣の烏間も似たようなことを言われており、あいつも客寄せなんだなと同情。
「…頑張ろうね、烏間」
「…そうだな」
これが終わったらゆっくり休もうと心に決めて。
「っ!」
「やめっ」
「…はぁ」
審判の言葉で相手と距離を取る。柴崎の上段回し蹴りが綺麗に相手に決まったのだ。技ありと判断され、審判は旗を柴崎の方へ真横に降った。服装を正し、頭を下げる。
連続で相手をさせられ、喉が乾く。水分補給くらいはしようと座る結川の元へ。
「いやぁ、やっぱ綺麗に決まるなっ」
「そう?」
「あぁ。なんであんなにキレキレで蹴れるんだ?」
「んー…蹴る瞬間迷わない事かな。ちゃんと蹴る前にどこを蹴るか考えて蹴る」
「へぇ…。攻防の間にそんな事まで考えるのか…」
「俺はそうだけど、周りはどうかな…」
手渡してくれるペットボトル。それに礼を言って蓋を開け飲む。一息付けば、後ろから誰かが柴崎に乗っかる。
「よっ、柴崎」
「佐伯さん」
「お前のおかげでな…いっぱい来てんだ…」
「え、そうなんですか?」
「おうよ。しかも男だけじゃない。女の子も!」
「…あ、そうですか;;」
どういう伝できたのか、外に目をれば確かに男以外に女もいる。柴崎がそちらに目を向ければ女の子たちは騒ついた。
「…罪だな、柴崎」
「え?」
「佐伯さん、柴崎はこうなんですよ」
「マジか、結川。…はぁ、柴崎…」
「…なんでそんな目で見るんですか」
ねー、という目で見る結川。お前の未来の相手は苦労するな、という目で見る佐伯。分からずペットボトルに口を付ける。
「でも男子にも人気あるんですよ」
「それはなんか分かる」
「止めてくださいよっ。なんで分かるんですか!」
「「だって柴崎綺麗/美人だからさ」」
「…っ」
何言ってんのー。と佐伯は柴崎の背から離れて肩を組む。結川は結川でニコニコ笑っている。しかしそこで、あっでも…と結川は首の後ろに手をやる。それに佐伯も柴崎も目を向ける。
「なに?結川」
「でも…なんだよ?」
「柴崎って、烏間と仲良いんですよ」
「あぁ、烏間な!合気道部のだろ?」
「はい」
「烏間がどうかした?」
「柴崎と烏間っていつも一緒だから他の男子は見てるだけなんですよ」
「見てるだけ?なんで」
「烏間が居るからーっていうのもありますけど、自分達のこの汚れた手で純粋無垢そうな柴崎に触れられないっ!って」
「………………」
「あぁ…薄汚れた手を持つ者には清い者は眩しいのな。なるほど」
てことは、俺がしてるこれもお前ら同期は出来ないんだ。と佐伯は言う。
「したくても、恐る恐るになるらしくって」
「好きな女子に触れたいけど触れられなくてモジモジする男子かっ」
「…この話やめません?」
「えー楽しいのに」
「結川、お前案外腹黒だろ?」
「え?なんでです?」
「(結川、腹黒だったんだ…。これが腹黒…)」
ペットボトル片手にそんなことを思う柴崎だった。そして発覚。結川は実は腹黒かった。
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