club



「よし!今日こそ勝つ!」

「またするんですか?」

「当たり前だろ?お前に勝てたことないし」


そう言って笑うのは空手部2学年の佐伯だ。



「っつってもな、お前の蹴りマジで重いんだよなぁ…。なんで?」

「なんでと言われましても…;;」



そんな事わからん。といった様子だ。前を正して帯を締める。そして佐伯に向き直る。



「佐伯さんも重いですよ?」

「いやぁ、お前に言われるとなんか照れるな」

「なんだ、また柴崎に挑戦状か?佐伯」

「鈴木さん!だってこいつと組手して一度も勝ててないんですよ?」

「ははっ!そりゃあ参ったな。どうだ、柴崎。俺としないか?」

「え、鈴木さんとですか?」


相手は空手部主将。もう片方は防衛1学年の入部してまだ1ヶ月ほどしか経っていない柴崎だ。



「お、柴崎。鈴木と組手か?」

「こりゃどっちが勝つか実物だな!」

「柴崎!鈴木コテンパンしてやれ」

「鈴木さん!頑張って下さい!」

「柴崎たまには負けろー!」


他の部員達も集まりだした。


「でもさ、柴崎」

「?」

「お前平松教官投げ飛ばしたんだろ?」

「うっ…」


苦い思い出である。そしてまたこの話が口伝えに伝わっているのがなんとも言えない。人の噂も75日というが、これはどうだろうか。



「「教官泣かせの柴崎」ってので有名だぜ」

「…やめて下さい。あまり残って欲しくない記憶です;;」

「でもあの時は本当にビックリした」

「結川…」


結川とは、同じ防衛1学年の同期である。教官も同じで訓練の時時々組手をする。そして、彼も柴崎と同じ空手部だ。



「あの時皆勝てっこないって言ってたんだ。けど柴崎は体格差も力の差も歴然の相手に勝った。あれ、すごい影響受けた!俺もお前みたいになりたいよ」

「あれは、たまたまだし…。俺から向かって行ってたら勝てなかったよ。教官が向かって来てくれたから勝てたようなもんで…」


自分から仕掛けに行けば、腕を取られて直ぐに地面に伏せていただろう。



「よっし!やるか、柴崎」

「本当にするんですか?」

「男に二言はない!ほら、やるぞー」




「じゃあ、俺が合図かけますね」

「あぁ、頼んだ。佐伯」

「頑張れよ、柴崎」

「結川、他人事だからって…」



柴崎の背中を叩き、外へ。目の前の鈴木はやる気満々だ。これは本気で行かないと倒される。身長差は、凡そ5〜10cm。そう差がある方ではない。だが、これを使わない手もない。


「では…。…始め!」


互いに構えを取る。一方後ろに足を引く。いつでも蹴れるように。そして同時に回し蹴りをした。


「っ」

「っ、やはり、重い蹴りだ…!」

「鈴木さんも…っ」


互いの蹴りを腕で受け止める。ジンとした。距離を取ると、拳を打ってくる。それを避け、受け止める。空いた下腹に上半身を屈め、拳を打つ。


「っく…ッ」

「はぁ!」


その攻撃に一瞬動作が止まる鈴木。それを見逃さず、すかさず後ろ回し蹴りをした。それは綺麗に首筋へと入り、鈴木は床に膝をついた。



「そこまで!!」


距離を取り、前を正して緩んだ帯を締める。立ち上がり、柴崎と同じ動作をすると、互いに一礼した。


「まさかあそこで下を狙うとはな」

「僅かな俺と鈴木さんの身長差を利用させてもらいました。5〜10cmの差とはいえ、はやり下より上の方に攻撃が意識されていたので」

「あの攻防の中で見抜くとはなぁ。鋭い観察眼を持ってるな!」

「ありがとうございます」


組手を見ていた他の部員達は主将である鈴木に1年の柴崎が勝ったことに目を開いていた。


「か、勝ったな…」

「あぁ…勝った…」

「あそこで下狙って、後ろ回し蹴りか…」

「しかもしっかり鳩尾だったぜ?」

「かーっ!流石は空手のルーキーだな」


そして柴崎はまたこう言われた。「主将倒しの柴崎」と。








「なんで俺にはこんな異名ばっかり付くんだよ!」

「あははははっ!!「主将倒しの柴崎」!!傑作だな!!」

「ぶっははははっ!!前はなんだっけ?「教官泣かせの柴崎」だっけ?どれにしたって笑える!!」

「次はなんだろうな」

「もう要らないよ…異名なんて…」


大爆笑の赤井、花岡。含み笑いをする烏間。嘆く柴崎。異名を付けられた本人は机に腕を置いてそこに額を付けて俯いている。ここは食堂。他の生徒はなんだろうか?という様子だ。(同じ空手部は事情を知ってるため苦笑い)


「だが、まぁ主将を倒したんだろ?」

「倒したっていうか…、…うん、まぁ…そうなんだけどね…」


顔を上げて頬杖を付く。


「凄いことだ。お前がいたら他も安心できるだろ」

「うーん…。でも俺まだまだだよ」

「なら、そこを他が補えばいい」

「そーそー!柴崎って、ナイフ術は烏間よりちょい下だろ?なら、ナイフに関しては烏間に補ってもらったらいいじゃん!」

「んで、体術は烏間より柴崎の方がちょい上なんだからそこを柴崎が補えばいいじゃん」


妙案じゃね?と互いに顔を見合わせて言う2人に柴崎はポツリと呟く。



「赤井と花岡だって、戦術や作戦立てるのに長けてるから十分戦力になると思うけどなぁ…」

「「「…………」」」

「体力とかだけじゃないしね」


コップに入った水に口を付ける。


「「ツンデレ!!」」

「?」

「柴崎がデレた!!」

「俺らにデレた!!」

「やべぇ!今の誰か録音してねぇ!?」

「完全保存版だろうがよ!!今のは!」

「〜っ」


叫ぶ?喚く?とにかく騒ぐ2人を目の前にして柴崎は恥ずかしそうに顔を俯かせる。


「…確かに今のは赤井と花岡とは同意見だな」

「烏間までそんなこと言ったらもうどうしようもない…っ」


苦笑いを浮かべて柴崎の頭に手を置く。それを抵抗せず受ける柴崎。


「誰かー!誰か!写メ!写メ撮って!」

「柴崎がデレてる!照れてる!」

「烏間との夫婦光景を今こそそのフィルムに焼き付けて!!」

「じゃないと一生後悔するから!!」

「もうやめろ!」

「焼き付けんでいいわ!」

「それってこれからもデレて照れて…」

「夫婦を見せ付けてくれるって事か…!?」

「「お前らの頭はなんだ!」」

「「「「(今日も平和だな)」」」」


防衛学校。今日も1日平和です。仲睦まじいです。何よりですね。






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