今日は休日。土曜日だ。防衛学校生は土日となれば部活動か、実家に顔を出すか、羽を伸ばすかのどれかだ。
「その荷物母さんだけじゃ持てないだろ?俺が持って行くから良いよ。顔出そうと思ってたから」
『あら、いいの?悪いわね…。休みの日なのに…』
「気にしないで。今からそっちに向かうよ」
『分かったわ。用意して待ってるわね』
「うん。じゃあ後で」
携帯を切って準備をする。そこで部屋の扉が開き目を向ければ烏間、と後ろにやいやいと騒いでいる赤井と花岡。
「? 出掛けるのか?」
「お見舞いにね」
「見舞い?」
「そう。父さんが入院してるんだ」
「そうか…」
「持っていかなきゃいけない荷物が多いらしくって。それを母さんが1人で持って行こうとしてたから俺が行くって言ったんだ」
「そんなに多いのか?手伝うぞ?」
「折角の休みなのに悪いよ」
「気にするな。手は多い方が良い」
「良いの?…ごめんね」
「構わない」
「ぅおい!俺らを無視すんな!」
「こんなにも側にいて見向きもしない!」
やいやい話していた2人が烏間の後ろから顔を出す。休日ということもありラフな格好だ。
「はいはい。2人は何かな。遊びに来たの?寝てれば?」
「冷たい!」
「まだ春なのに!ここだけ冬!」
「俺も用意する」
「うん」
「烏間も冷たい!」
「またも無視された!!」
嘆く2人に柴崎は近付く。
「烏間が用意してる間話し相手になってあげるからちょっと静かにしよっか」
「はーい。ママ」
「ママ抱っこー」
「誰がママだ。こんなデカくて煩い子供持った覚えも授かった覚えもないから」
「抱っこー!」
「出来るか!」
「え、ママって子供抱っこするもんだろ?」
「だから、俺はお前の母親じゃないの。血なんて繋がってないから」
「行くか」
「あ、出来た?じゃあ行こっか」
「えー、俺らは?」
「俺らは?」
「2人は留守番」
「騒ぐからな」
「「ブーブー」」
「「(無視)」」
文句を言う2人をスルーして2人は部屋を後にした。電車を乗り継いで柴崎の実家へ。鍵を取り出して扉を開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい!…あら?そちらの方は?」
「防衛学校の同期で同室の烏間。手伝いに来てくれたんだ」
「初めまして。烏間です」
「まぁ!ありがとう。志貴の母です。ごめんなさいね。折角の休みなのに…」
「いえ。気にしないで下さい」
「にーちゃん!」
階段からドタドタと降りてきたのは弟の雄貴だ。その勢いのまま柴崎に抱き着いた。
「危ないよ、雄貴。階段は走ったら駄目って母さんからも言われてるだろ?」
「へへっ、ごめんなさい!にーちゃんの声したから走ってきた!」
「次からはゆっくり降りてきな」
「はーい!」
「弟か?」
「そ。今5歳で弟の雄貴。雄貴、同期の烏間。挨拶して」
「はじめまして!雄貴です!」
「初めまして。烏間惟臣だ」
よろしくな、と烏間は雄貴の頭に手を置いた。置かれた雄貴は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「母さん、荷物は?」
「これよ。はい。重いけど大丈夫?」
「平気。…服に、タオルに、洗面用具に、…本?」
「あの人がこの本を読みたいって言ってて。シリーズ物だから多くて」
「父さん読書趣味だもんね。…じゃあ届けてくるよ」
「ありがとう。烏間くんもありがとうね」
「いえ」
「じゃあ行くよ」
「えー…にーちゃんもう行くの?」
寂しそうに服の裾を握る雄貴。普段から家には母と2人きりの雄貴。まだ5歳という歳では寂しいのだ。父は入院、兄は寮生活で。そんな雄貴の目線になってしゃがみ、頭を撫でてやる。
「ごめんね、雄貴。一緒にいてあげられなくて。今度の休みには雄貴がしたいことを一緒にしよう」
「んー…」
「まだ幼い雄貴にこんなこと言っても理解出来るか分からないけど、父さんが今あんな状態だろ?だから、家族を守るのは俺の役目なんだ。その為に力もちゃんと付けないといけない。母さんと雄貴を守る為にね」
だから少しだけ我慢して欲しいな、と言って雄貴の頬を両手で挟む。雄貴は目線を上げて柴崎を見る。その先には優しい表情の兄の姿が。それを見て、雄貴は小さく頷いた。そんな弟の姿を見て柴崎は立ち上がって頭を撫でた。
「…ふふ、」
「ん?」
「いいえ。…本当に、良いお兄ちゃんね」
「そんなことないよ」
「そんなことあるのよ。…ありがとう、志貴」
「…家族だからね。当たり前だよ。じゃあ、またね」
「えぇ、またね。烏間くんもまたいらっしゃい!」
「はい。ありがとうございます」
「にーちゃん!ただおみさん!またね!」
「またね」
「またな」
玄関のドアを閉めて鍵を閉める。そして実家を後にした。
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