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カレンダーを見て、早いな、と思った。あれからもう1年が経つ。バタバタと、時間が風のように過ぎていったあの頃を思い出す。



「…1年か、」


あの時は雪が降ってた。そんな今日も、雪が少しぱらついていた。









「…?」


寒い日。きっと温かいコーヒーだろう。それを飲んでいる姿を見かけた。まだ今は朝で、冷え込みは厳しい。そんな中、どこかその姿は今外に降るパラついた雪の中に紛れてしまいそうにも見えた。




「(……あぁ、そうか)」


近くにあったカレンダーを見る。納得した。


「(……もう1年になるんだな)」


早い。そう感じた。俺がそう感じるんだ。あいつはもっとそう感じているはずだ。










「(1年がこんなに早いなら、4ヶ月なんてあっという間に決まってるな…)」


実際早かった。9月、10月、11月…そして12月。時間はすぐに過ぎて行って、もう少しゆっくり過ぎてくれても良かった。けれどいつの時も時間の過ぎる早さは同じで、遅れも早まりもしない。感じ方が違うだけ。



「柴崎」


その声に閉じていた目を開けて顔を上げる。



「烏間」


いつもと変わらない烏間の姿が。



「…どうかした?」

「……」


烏間は一つ分からないくらいの小さな小さな息を吐く。そして座る彼の手を取った。



「ぇ…」

「…行くぞ」

「……行くって、」


何処に。そこまで言葉は出なかった。出る前に言われてしまったから。




「…墓参り。行くんだろう?」

「─!………覚えて、たんだ…」


まさか覚えているとは思わなかった。あの時は烏間に大分心配を掛けた。迷惑をかけたと言えば、彼は掛けられていないと怒っていたが。




「…大切な日だろ。お前にとっても、お前の家族にとっても」

「……」

「1年が経ったが、言ってしまえばあれからそれだけしか経っていない。…まだ辛いだろう」


1年がもう経った。1年しかまだ経っていない。それだけの言い方で全く違う。




「辛いだろうが、お前に会いたいはずだ」

「烏間…」

「その足が止まりそうになったら手を引っ張ってやる。…だから行くぞ」


取った手に少し力を込める。それを感じて、思う。いつだって、あの時からずっと、烏間はこの手を取って引いてくれる。止まりそうになるこの足を動かせそうにないなら無理に動かさず、でも時々こうして手を引っ張って動かそうとしてくれる。




「……ありがとう」

「良い」


だからあの時の時間から立ち止まらないで今も前を向いて歩けているんだと思う。











電車を乗り継ぎ、少しだけ急な坂を登る。


「この先か?」

「うん。車があれば楽なんだろうけど、俺はまだ取れる年齢でもないからさ。だからこうしてこの坂を歩くんだ」



初盆の時は暑くて、雄貴はものの見事にバテていた。母は日傘をさして流れ落ちる汗を拭い、時々暑いと零していた。俺はといえば、暑いが暑いと言っても何にもならないな…なんて気温とは裏腹に冷めた考えを持っていた。


墓花を買って、あと少し。





「…久しぶり、父さん」


沢山あるお墓の中、その一つの前に立つ。そこには綺麗な花がちゃんとあって、きっともう母が来たんだなと思った。



「…綺麗だな」

「掃除して帰ったんじゃないかな、母さんが」

「なら、この花はお前の母親か」

「うん。多分ね」


掃除もちゃんとされている。この寒い中、1人でしたのだろうか。



「早いなぁ…」

「……」

「もうあれから1年経つんだね」


やはり早いと思う。父の姿を見なくなって1年。声を聞けなくなって1年。父の居ない春を過ごし、夏を過ごし、秋を過ごして今冬を過ごしている。こうやって来年も再来年も過ぎて行くんだろう。

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