gripping




「柴崎」

「?…藤堂さん」


「藤堂」とは、新空手部部長だ。ネクタイを結ぶ為にそれを首に掛けていた柴崎に彼は声を掛けた。



「さっきの棒倒し、お前傍観者だったろ」

「ははっ。……バレました?」

「俺はたまたま見えた。あいつも若干遠目だったな」


あいつ、烏間の事だろう。



「あのむさ苦しい中入っていく気はなかったので、参加だけして見てましたよ。さり気なく」

「上手いな、バレないようにするの。俺にはバレたけど」

「細かい事は良いんですよ」


毎年11月に行われる体育祭。恒例行事は棒倒しだ。今年で2年目だが、あのむさ苦しい中に自ら身を投げ打ってまで棒を倒そうとは…正直あまり思えないのだ。



「意外だな」

「何がです?」

「真面目だって噂の…お前に関しては知ってるけど、烏間と柴崎が棒倒しサボり組なんて」



真面目と聞けば、この2人。勉学も訓練も、何に置いても真面目なのだ。藤堂の言葉を聞いた柴崎は一つ小さく笑った。



「俺も烏間も人間なので。たまにはありますよ、そういうのも」


きゅ、と締めて、でもそんなキツくは結ばず首元はほんの少しだけ緩めた。



「…男の園に爽やかだなお前は」

「なんの話ですか」


いきなり話の筋とは違った事を言う為、途端に筋道が分からない。柴崎は心の中でそう思った。




「藤堂さーん」


声がした方を見る。



「おー、佐伯」

「どうも。あの、柴崎知りません?」

「柴崎?柴崎ならここに居るけどな」

「え?」

「なんですか?」


藤堂の身長は高く、186cmある。そんな彼に175cmの柴崎は少し隠れてしまったのだ。



「お、柴崎ー。見付けた」

「(…嫌な予感がする)」

「(……こいつなんか悟ったな)」


一瞬怪訝な顔をした柴崎を見て藤堂は藤堂で悟った。



「お前今から空手部顔出しにくんだろ?」

「……まぁ、」

「扉の前にさ、お前を待ってる人が居てさ」

「…?知り合いが来る予定ないですけど」

「一方的な知り合い」

「「…?」」

「まぁ来たら分かるって!」










「……俺帰ります」

「待て待て。ここまで来て?」

「ここまで来て理由が分かったから帰るんです」

「もう身を投げろよ」

「佐伯さんなんとか収拾つけておいてください」



踵を返して空手部に顔を出さず帰ろうとする。が、その柴崎の首に後ろから前に腕を回して止める。



「っ、なんでいないって言ってくれなかったんですか」

「居ないって言ったらお前…来年誰も来ないだろ」

「俺は客寄せでも何でもありません」


とても真面目で本気な顔をして言うためそれがまた少しカチンと来る。そしてちらりと後ろを見る。



「(……別に、苦手ではないけど…)」


なんか、怖い。ぱっと見あの集団?みたいなのが。どこかこう…浮き足立っているような…落ち着きがなさそうな…、とにかくなんだか分からずも怖く感じる。



「(……男ばかりの所に居るからかな。あぁ言う今時な女の子の集団を見ると一歩引きかけるのは)」


またそれも今時の男子としてどうなんだろうか、と疑問にもなるが。



「俺ら空手部の為にお前身投げしろ」

「なら佐伯さんが身投げすればどうですか」

「お前目当ての女の子とお前の空手ファンの男が来てるのに俺が行ってどうすんだよ」

「……(…対処法ないかな)」



事を荒げず、穏便に済んでくれたなら言う事なんてない。そんな事をぼんやりと考えた。

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